ブックで紹介した本の記録

■「団塊世代のミッションビジネス」定年後の社会事業型NPOのすすめ
大川新人編著 日本地域社会研究所 1700円(税別)

コムケア仲間の大川新人さんがまた新著を出しました。
社会に戻ってくる団塊シニアに、これまで蓄積してきた知識や経験を生かして、
地域や社会に役立つ新しい事業を起こしてほしいというエールの書です。

大川さんに関しては、これまでも何回かこのホームページにも登場していますが、
学習院大学卒業後、証券会社に10年間勤務。
その後、多摩大学大学院で、経営情報学修士を取得。
さらに、米国オハイオ州のケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院に留学し、非営利組織修士を取得。
帰国後、日本の草の根的なNPOのマネジメントサポートなどに取り組んでいます。
コムケアセンターのサポーターでもあり、
現在はシニアコンサルタントとして、団塊シニアプロジェクトに実際に取り組んでいます。

本書は、昨年、大川さんが中心になって行った事業型NPO起業講座の講演録をベースに、
一緒に講座を受け持ったNPO法人イーエルダーのメンバーの協力を得て、完成した実践の書です。
私も座談会で登場していますが、大川さんの思いを知るものとして、
最初に「序に変えて/団塊世代の新しい舞台が広がりだしています」という小文も寄稿させてもらいました。
このサイトにも掲載しましたので、お読みください。
そして、もし興味を持っていただけたら、本書もお読みください。

本書の目次は次の通りです。
第1章 なぜ、定年退職後にミッションビジネスか
第2章 事業型NPOのすすめ
第3章 NPO法人をつくろう
第4章 NPO法人の事務局運営
第5章 情報通信技術が経営を効率化する
第6章 サービスと顧客満足度を向上させるには
第7章 団塊NPOの成功事例
第8章 団塊世代よ、大志を抱け!(鼎談)

本書の「おわりに」にも告知していますが、
本書の出版を契機にして、出前講座や団塊シニアNPOインターンシップなどのプログラムが始まる予定です。
コムケアセンターとしても全面的に応援していきます。
ご関心のある方は、「団塊世代よ、大志を抱け!事務局」にご連絡ください。
また、講演や研修プログラムもお引き受けできると思います。

なお、団塊シニアプロジェクトを起こすための資金源にするために、
「団塊世代よ、大志を抱け!事務局」でも本書の販売を行います。
少し面倒ですが、上記事務局にご注文いただけるとうれしいです。
「団塊世代よ、大志を抱け!事務局」へのメール

■「挑戦する独創企業−なぜ、この会社はキラリと光るのか!」

浜銀総合研究所経営コンサルティング部編著 プレジデント社 1400円(税別)

私は15年ほど前に書いた「脱構築する企業経営」という雑誌連載記事を、大企業解体の予兆という書き出しで始めました。
産業の主役は、大企業から中小企業へと移るだろうと感じていたのです。
残念ながら、そうはならずに、大企業はますます合併などを通して大規模化しています。

しかし、いま元気な企業は中小企業のような気がします。
大企業組織は人間が思い切り働く場としては制約がありすぎます。
特に時代の変わり目には、主体的に働く社員が働きやすい場でないと、企業は元気にならないのではないかと思います。
実際に最近私が出会う元気な会社は、いずれも大企業とはいえない中小中堅企業が多いのです。

そうした元気企業を20社も集めて、その元気の実態と理由を明らかにしてくれるのが本書です。
単なる事例を集めただけの本ではなく、
長年、中小企業にしっかりと関わってきたプロフェッショナルの目からの評価と解説がついているので、
企業経営に関わる人には絶好の「生きたテキスト」になる本です。

「中小企業の経営者・幹部必読!」と本書の帯に書かれていますが、
私はむしろ大企業の経営幹部の皆さんにこそ読んでもらいたいと思います。
経営の基本は規模によって変わるわけではありません。

本書をまとめた経営コンサルティング部部長の寺本明輝さんとは、長いお付き合いですが、
寺本さんは豊富な知識と情報を踏まえて、実践的な視点でこれまで多くの企業の経営相談に取り組んできた人です。
しかも寺本さんは好奇心が強く、研究熱心な人でもあります。
寺本さんからはこれまでも、日本の中小企業の創意工夫や挑戦意欲のすごさについて、いろいろと刺激的な話を聞かせてもらっていました。
日本の経済を発展させ、支えてきたのは、決して大企業ではなく、中小企業であると確信している私としては、
いつかそれをまとめてほしいと思っていました。
それが漸く実現したのです。

寺本さんは「はしがき」で、「企業経営には必ずドラマがある」と書いています。
本書では独創的な20の優良中小企業に取材し、
それぞれのドラマを紹介するとともに、企業の元気の要因を具体的に解説してくれています。
事例も面白く、示唆に富んでいますが、
それぞれの解説も具体的でわかりやすく、しかも体系的なので、
それを読むうちに経営にとっての大切な視点が自然と学べるようになっています。
このあたりは、豊富な体験と情報をお持ちの寺本さんの独壇場といってもいいでしょう。

ちなみに、独創の源泉として、次の5つの要件が上げられ、それにそった事例が集められているのです。
・ 経営理念とビジョン:大志を抱いて理念を伝え、実行する。
・ 事業の仕組み:事業の仕組みで差別化を実現する。
・ 組織とマネジメント:基本を大切にして経営革新に挑む。
・ 技術と技能:ものづくりの原点に愚直にこだわる。
・ 伝統と革新:変革を恐れず、老舗ブランドを守る。

いずれにも実践例が具体的についていますので、とても納得できます。

浜銀総研が活動の主舞台としている神奈川県だけでも22万を超す中小企業があるそうです。
本書に登場するのは、その1000分の1でしかありません。
すべての中小企業が独創的で元気だというわけではありませんが、
この厳しい経済状況の中で、自らの知恵と努力で経営を持続させていくには、それぞれに独自の実践をしている企業は多いはずです。
大企業と違い、ちょっと失敗したりするとすぐさま倒産してしまうほど、毎日が緊張の連続なのが中小企業です。
そうした実践知からのメッセージは説得力があります。
それに事例に出てくる経営者には、いずれも豊かな表情があるのです。
ですから読んでいて、元気がもらえます。
経営者には人間的な表情がなければいけません。

少しほめすぎてしまったでしょうか。
しかし、企業関係者にはお薦めの書です。
本書よりも詳しく学びたい方は、ぜひ寺本さんのところのコンサルティングを受けてください。
寺本さんの誠実なお人柄は、私が保証します。
寺本さんのブログもこのサイトにリンクしています。
ぜひお読みください。


■「司法改革」
大川真郎 朝日新聞社 2400円(税別)

いま日本の司法制度が大きく変わろうとしています。
一言でいえば、「官の司法」から「民の司法」への転換だそうです。
この活動を熱心に推進してきたのが、日本弁護士連合会(日弁連)です。

CWSプライベートに書きましたが、
その司法改革の山場だった2002年から2004年まで、
日弁連の事務総長を務めたのが、本書の著者の大川さんです。
大川さんと私との関係は、CWSプライベートをお読みください。
日弁連の司法改革への取り組みに関しても、そこに少し書きました。

この本が送られてきた日は、実はまさに私が司法への怒りを強く感じていた日でした。
あまりのタイミングの良さに、早速読ませてもらいました。
ブログにも書きましたが、本書の副題にあるように、
司法改革は「日弁連の長く困難なたたかい」だったようですが、
そこにこそ日本の法曹界の実態が象徴されています。

出版社の表現をかりれば、本書は、

裁判員制度の導入、法科大学院開校と新司法試験、司法支援センターの創設、裁判官・弁護士制度の改善等々、24もの関連法が成立することになった戦後初の司法大改革。
「市民のための司法」を提唱し、先鞭を切って乗り出した日本弁護士連合会(日弁連)が、政府や最高裁・検察と時に対峙し、時に妥協して改革を実現していった過程を、客観的かつ具体的にたどる「昭和・平成司法改革」編年史。

です。
これはとても正確な紹介で、当時の資料や発言などをていねいに引用して、
「司法改革」の経過が客観的かつ具体的に解説されています。
著者の思い込みや押し付けは全くありません。
著者の大川さんの人柄を感じさせます。実に誠実でフェアです。

資料を駆使したドキュメントなので、司法界以外の人にはやや難解で退屈ですが、
内容が極めて誠実ですので、司法に関心のある人はちょっと努力して読む価値があると思います。
内容のあるしっかりした本です。

「司法改革」と言っても、政府や裁判官、あるいは財界の姿勢と日弁連の姿勢とはかなり違うことが、本書を読むとよくわかります。
前者は、「現状の不備なところを直す」。
後者、つまり日弁連は、「すべて国民は、個人として尊重される」(憲法13条)社会をつくるためというのが基本姿勢のようです。
この違いが本書での改革の経過を読むとよく伝わってきます。
司法改革というと、裁判員制度が話題になりがちですが、
法テラスという法律相談の仕組みの充実やロースクールの拡充なども重要です。
「小さな司法」「大きな司法」という言葉も出てきます。
これからの司法を考えていくためのたくさんの材料が、この本には詰まっています。

もちろん、日本ではすでに「司法改革」は議論の段階を終えて、制度的には実践に入っているわけですが、
制度を活かすのは関係者(最大の関係者はもちろん国民です)の意識と行動です。
私たちはもっと司法に関心を持ち、その実態を知る努力をすることが大切です。
その意味で、かなり重い本ではありますが、司法関係者以外の方にもお薦めの本です。
この本をテキストにした学習会も広がると効果的ですね。

ちなみに、本書にはもう一人私の知人が出てきます。
テレビで何回かご一緒した小林完治弁護士です。
テレビに出るタレントのような弁護士は好きにはなれませんが、
小林さんは大川さんと同じように誠実さを感じさせる人です。
おそらくテレビで現を抜かしながら社会をだめにしている弁護士とは全く違う種類の弁護士が、
司法の現実を変えようとがんばっているのでしょう。
そんなことも考えさせられました。

そんなわけで本書はお薦めの本ですが(読もうという覚悟のある人にだけですが)、
私の司法への評価は残念ながら変わりませんでした。
ブログの「司法時評」で書いてきたことは撤回する気にはなれませんでした。

「官の司法から民の司法へ」「市民のための司法」。
それがどういうものか、私にはまだわかりませんが、方向は歓迎できます。

問題は、その中身です。
法は、社会のあり方によって全く変わってきます。
どんな社会を目指すのかによって、法の役割は変わるのではないかと私は思います。
その「どんな社会を目指すのか」という議論が見えてこないのが一番の不満です。
これを法曹界に求めるのは過大期待だといわれそうですが、
法を考えるということはそういうことなのではないかと思います。

よかったら「司法時評」も読んでください。
かなりの暴論集なのですが。


■「ハートフル・カンパニー」

佐久間庸和 三五館 2800円(税別)

著者の佐久間庸和さんのペンネームは、一条真也さんです。
このコーナーにたびたび登場している人です。
その一条さんの「平成心学三部作」の完結編が本書です。
かなり前にいただいていたのですが、いろいろ事情があって、途中で読むのが止まっていたのです。
それに実に読み応えのある本なのです。

前の2冊とは趣がかなり違います。
本書は副題に「サンレーグループの志と挑戦」とあり、著者名もペンネームではなく、本名で出版しています。
サンレーは北九州市に本社を置く、冠婚葬祭を事業ドメインとする会社です。
前にも書きましたが、冠婚葬祭への思いの深さにおいては、サンレー以上の会社はないでしょう。
佐久間さんが構想している冠婚葬祭の意味は、実に広く深いのです

佐久間さん、つまり一条さんの世界は、
このサイトにリンクしている佐久間さんのホームページを読むと少し理解できるかもしれません。

21世紀に入った2001年、佐久間さんはこの会社の社長に就任しました。
そして社員たちに呼びかけながら、佐久間さんらしい会社づくりに取り組んできました。
その理念や方法は、佐久間さんがこれまで著した様々な書籍に書かれていることです。
つまり佐久間さんは、学んだこと、考えたことを、自らの会社で実践してきたのです。
まさに佐久間さんが目指す知行合一です。
そして見事にサンレーの業績は向上し続けているのです。

本書は、そうしたサンレーの経営実践を、社長として社員に呼びかけていた文章や話の記録を中心にまとめた本です。
時系列で読めることも興味を高めます。ライブ感があります。
なんだ、社長の訓示集かなどと思わないでください。
その種の本で面白い本は皆無に近いのも知っています。
しかし本書に出てくる話は、そのテーマ、語られる話題や情報、語り口のスタイルなど、実に多彩で問題提起的です。
具体的にして、普遍的といってもいいでしょうか。
ボリュームも多いので、なかには飛ばしたくなるような部分もないわけではないのですが、
ところどころに光る言葉や心動かされるメッセージもちりばめられています。

いささか褒めすぎの感もありますが、
これまでの佐久間さんの著書を読んできたものとしてはとても面白く読ませてもらいました。
こういう経営者がもっと増えてきたら、日本の産業界は大きく変わるでしょうね。

会社経営者の方にお勧めの1冊です。

「恋に導かれた観光再生」

中村元 長崎出版 1400円(税別)

「車イスの青年に恋した少女が、
青年に気に入られようと動くたびに奇跡が起きた。
人を動かし、町を動かし、行政を動かし、
とうとう国まで動き出す。」


本書の帯にはこう書かれています。
これは伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの誕生の物語です。
著者は同センターの理事長の中村元さんです。
中村さんとは朝日ニュースターの番組で何回かご一緒しましたが、実に楽しい人なのです。
中村さんのブログもこのホームページにリンクされていますので、ぜひお立ち寄りください。
ちなみに中村さんは水族館にも新しい風を起こした人なのです。
その分野のほうで有名なのですが、今回は違った分野での著作です。

本書の内容は帯の紹介文でおわかりいただけると思いますが、
「バリアフリー」「観光」「まちづくり」「社会変革」「NPO」などのテーマに関心のある方はぜひお読みください。
とても気楽に読める楽しい本ですが、
たくさんのメッセージと提案、あるいはこれからの社会を考える上での重要な問題提起がちりばめられている密度の高い本なのです。

まずは書き出しの言葉が刺激的です。
日本の多くの観光地では、まちづくりというものが行われていない。
全く同感です。

こうも書いています。
町の住民が誇りに思わない観光地に、観光客が集まるわけがない。
本当に住民不在の観光行政がまだ少なくありません。

さて、本文ですが、これがまた実に面白く、示唆に富んでいるのですが、
とても衝撃的だったところを一つだけ紹介しておきます。
車いすで伊勢神宮に入れなかった人の話です。
詳しくは回転ちょこラムのサイトを開き、
右上の「アルバムをみる」で、2003年4月24日と26日を探して読んでみてください。
衝撃的です。少なくとも私にとっては、衝撃的でした。
バリアフリーの本質が示唆されている事件です。
なにやら持って回った言い方ですが、興味のある方はぜひ本書をお読みください。

この本の真骨頂は11章です。
こんな文章があります。
かつては江戸よりも文化の集積と発信の中心地だった伊勢。その勢いをバリアフリー観光で再現したい。
中村さんたちは、本気でそう考えているのです。
だからこそ、先の伊勢神宮事件は大きな意味を持ち資源になりえるのです。

ちょっと脈絡が見えない紹介ですみません。
ともかく 、11章に中村さんたちの大きな構想が読み取れるのです。

中村さんたちは、いまこのプロジェクトでつくりあげてきた、
パーソナルバリアフリー基準を全国に広げていこうと、日本バリアフリー協会の設立に取り組んでいますが、
その奥には日本社会のパラダイム転換への挑戦があるのです。

「あとがきにかえて」と題して、「補完性の原則」への中村さんの思いが書かれています。
それを踏まえて、もう一度、本書を読むと、きっとこれまでのまちづくりの限界や今の地方分権のおかしさに気づくはずです。
この1年、中村さんとはお会いしていませんが、中村さんらしい、実践の書です。

書名が良くないですが、内容はとてもよい本ですので、まちづくりやNPO活動に取り組んでいる人にお勧めしたいです。
中村さんのブログも面白いですよ。

■「M&A資本主義 敵対的M&A・三角合併防衛法」
小倉正男 東洋経済新報社 1700円(税別)

週間報告にいろいろと書きましたが、日本のIRの草分けの鶴野史朗さんから送られてきた本です。
鶴野さんの友人の小倉正男さんの最新著作で、鶴野さんの活動も紹介されています。
株価資本主義が、株式という「世界共通通貨」でM&Aを一般化、活性化させ、
ニッポン資本主義を新しい局面に導いていくという時代の流れの中で、
日本企業はどうしたらいいかをわかりやすく実践的に解説しています。

著者は必ずしも株価資本主義に賛成しているわけではありません。
しかし、2007年にいわゆる三角合併(外国企業が日本の子会社を通じて日本企業を買収すること)が可能になれば、
日本型経営の歯止めのあったニッポン資本主義は「株価資本主義」にはっきりと移行する、
つまり旧来のニッポン株式会社は完全に解体され、グローバルな資本主義に組み込まれるという展望のなかで、
しっかりしたコーポレート・ガバナンスの仕組みを整え、
企業価値(必ずしも株式価値ではありません)を高めておかなければ、
海外のハゲタカファンドにやられてしまうというわけです。
とても説得力のある話です。

ジャーナリストとしての著者の見識も伝わってきます。
企業の経営幹部の方にはしっかりと読んでほしい本です。

目次をご紹介します。
第1章 M&Aの活発化と日常化
第2章 三角合併解禁の脅威
第3章 株式持ち合い解消がM&A活発化をもたらした
第4章 「時価総額」をどう考えたらよいのか
第5章 企業価値極大化は自らの経営努力で実現せよ
第6章 コーポレート・ガバナンスこそニッポン資本主義の課題
第7章 株主判明調査、プロキシー・ソリシテーションの進化
第8章 “株主に顔を向けた経営”こそM&A防衛策
第9章 敵対的なM&Aで狙われるのは「低PBR会社」
第10章 “ハゲタカ・ファンド”が次に狙う巨大な獲物

ちなみに、私は株価資本主義への流れではなく、
広義のステークホルダーの長期的な視点に立った企業価値に立脚したコーポレート・ガバナンスの仕組みが育っていくのではないかと期待しています。
そのためには、企業の組織原理や規模が大きく変わる必要があるように思います。

久しぶりに企業論を読んで刺激を受けました。
みなさんにもお勧めです。


■「集合住宅の時間」
大月敏雄 王国社 1900円(税別)

私は安藤忠雄の建築が好きではありません。
というか理解できないのです。
その意識が明確になったのは、瀬戸内海の直島の家プロジェクトの空間を体験させてもらってからです。
いずれもとても素晴らしい作品でしたが、どうも違和感が残ったのです。
空間への愛情を感じられないのです。
私が好きな建築はホッとする空間のようです。
空間に静かな記憶が残っていくような建築です。

本書は、保育プロジェクト美野里町プロジェクトなどでご一緒した大月敏雄さんの最初の単行本です。
書名がとても大月さんらしくて、うれしくなりました。
帯にこんなメッセージが書かれています。

濃密な「生活の記憶」を語り継ぎたい
古びた集合住宅の建物の言いぶんに耳を傾けてみよう。
目に見えない時間の蓄積を味わう魅力に浸ってみよう。
昨今の子育てのように良い所を見つけてほめてみよう。

本書には生活の記憶を存分に感じさせる24の「集合住宅と呼ぶことのできる」建物が登場します。
そして、大月さんという思いを持った語り手によって、
それぞれの生い立ちやそこでの物語がとても人間的に語られています。
一つひとつの物語から、これまでの自らの生き方を考え直したくなるメッセージが伝わってくるのは、私の世代のせいでしょうか。
時に懐かしく、時に痛みを感じながら。

それぞれの物語と、そこに託した大月さんのメッセージは本書を読んでもらうとして、
ここではそこに通じている大月さんの大きな思いについて紹介しておきたいと思います。
それは私がずっと感じていた思いでもあるからです。

大月さんが問題にするのは、建物における減価償却の発想です。
大月さんはこういいます。

日本の建築物においては、「時間が経つことは、価値が無くなっていくことである」という悲しい現実があるのである。
そのせいもあって、日本の都市は常に記憶喪失の危機に瀕しているのである。

「このまま行けば日本人は「国民総記憶喪失」になるのではないか」と大月さんは心配しています。
心配はすでに現実になっているというのが、私の認識ですが、
それを助長しているのが、減価償却パラダイムの建築概念ではないかと大月さんはいうわけです。

そして、
「時間が経てば価値が減る」ことが常に正しいというのは、なんだか変なのではないか、
と大月さんは疑問を呈します。

「時の経過とともに価値は減っていく」。
もしこれが人間に適応されるとしたらどうだろうか。
「あなたの価値は年を経ていくごとに減っていき、60歳になると、価値がゼロになります」
(後略)。

恐ろしい話だと思いませんか。

大月さんは、同潤会アパートを中心とした、古い集合住宅の実測調査や
そこに住んできた人々への聴き取り調査などを20年近く取り組んできています。
それに関する報告書や論文もたくさんあります。
そうした長年の現場体験が、こうした問題提起の背後にあるのです。

建造物でも、時間の経過が価値を高める世界があります。
遺跡や歴史的建造物です。
私の好きな世界です。

その世界とは全く正反対に、時間経過をマイナス価値にしてしまったのが、
現在の産業社会であり、資本主義経済システムです。
そこでは「破壊」や「浪費」が「発展」と「生産」に置き換えられてしまったのです。
時間の概念も全く変わってしまったのです。

そんな大きな問題提起を感じながら本書を読むと、
改めて昨今の私たちの暮らしぶりや生き方の貧しさを感じてしまいます。

とても示唆に富んでいる本です。
建築家ではない人たちにも、ぜひ読んでもらいたい本です。

■「東尋坊 命の灯台」
茂有幹夫 太陽出版 1300円(税別)

コムケア仲間の茂さんは、福井県の東尋坊で自殺防止活動に取り組んでいます。
東尋坊は、絶景の観光地として有名ですが、同時に、別名「自殺の名所」とも言われています。
日本海に突き出した断崖の上に立つと吸い込まれてしまうような気持ちになってしまいます。

茂さんのことはこのサイトにも書きましたが、
NPO法人「心に響く文集・編集局」を立ち上げ、地道な活動を展開されています。
茂さんたちの活動で、自殺を思いとどまった人は少なくありません。
今年、「毎日社会福祉顕彰」を受賞されましたが、その時のインタビュー記事をお読みください。
茂さんのあたたかさが伝わってきます。

私は9月に東尋坊でお会いしましたが、その時に今度本を出版するとお話になっていました。
その本が本書です。
この本を読むと今の社会のおかしさが見えてきます。
茂さんは東尋坊のある三国警察署に勤務したのが契機になって、この活動を始めるのですが、その経緯もこの本に書かれています。
とても共感できます。

その事件は平成15年に起こりました。
茂さんは当時、三国警察署の副署長でした。
薄暗くなった東尋坊の松林で黙ってベンチで横たわっている年配の2人ずれに出会ったのです。
訊いてみると経営していたお店がうまくいかずに、東尋坊で自殺しようと決めてやってきたのだそうです。
話をしているうちに、2人の手首にカミソリで切ったまだ新しい傷があることに気づいた茂さんは、
すぐに地元の病院に入院させ、役場の福祉課に「現在地保護」の手続きを頼みました。
ここで事件は終わるはずでした。

5日後、その2人から手紙が届きました。
茂さんへのお礼の手紙でした。
しかし、2人はその手紙を出した後、首吊り自殺をしてしまったのです。
相談に行ったところすべてから見捨てられたのです。

茂さんはこう書いています。

当時私は現職の警察官でした。
42年間の警察官生活の中で私は、
日本という国は、「助けてほしい」と叫んでいる人がいたら、
どこかでだれかが助けてくれる、すばらしい法治国家であると信じてきました。
しかし現実は違っていました。
因っている人を保護する法律は、ちゃんとあるはずなのに・・・。

少し長いですが、続けて引用させてもらいます。

警察は保護すべき者を発見した際は速やかに福祉機関に引継ぐ義務があり、
引継ぎを受けた行政機関は、保護を決定して保護を開始すべき義務があり、
それを怠った者には罰則が課せられるのです。
私はそれを信じて、2人に「国に保護を求めなさい」と助言しました。
2人は私の言葉を信じて旅を続けたのです。
しかし北陸道の沿線にある役所では、支援をしてくれる場所が1箇所もなかったのです。
あの2人にとって私の存在は何だったのでしょうか。
死までの苦しみをさらに長引かせただけの存在だったのではないでしょうか。
私はあの2人に、二重の苦しみを与えるだけの存在になってしまったのでしょうか…。

もっと引用したのですが、きりがないので、それはこの本を読んでもらいたいと思います。
2人からの手紙も本には紹介されています。

この事件が茂さんの人生を変えました。
茂さんはこう書いています。

どんな思いであの2人は、私に手紙を託したのでしょう。
口をつぐむのは簡単です。
しかしこれからも第二、第三の犠牲者が生まれるのを見続けて、私は心穏やかでいられるでしょうか。
自分には関係ない、自分の責任ではないと、平然としていられるでしょうか。
なぜ、定年も間近になって、こんな出来事が起こったのか。こんな現実を知ったのか。
知ってしまった以上、私がやるしかないという決意が、ゆっくりと固まっていきました。
10年間に253人もの人が苦しみながら死んでいる。
だれかが253人の代弁者となり世間に訴えなければ、世間の人は気づいてくれない。
「あなたならできる、あなたがやるしかない」と白羽の矢が立てられたような気がしました。

茂さんの思いが痛いほど伝わってきます。
人はこうして自分の人生を変えていくのです。

この本には、茂さんが体験した何人かのケースが紹介されていますが、
茂さんはそうした事例を闇の中に放ってはいけないと考えました。
もっとみんなで考えなければいけない問題です。
私もコムケア活動を通じて、さまざまな人生にささやかに触れるようになってから、
茂さんと同じように問題をもっとオープンの場でみんなで考えていかなければいけないと思うようになりました。

それに自分に無縁な問題などはこの世にはないのです
すべてがつながっています。

この本にはもうひとつ考えさせられる文章が載っています。
茂さんと一緒に活動している川越さんの体験談です。
茂さんと川越さん。
お2人の実体験に基づく活動に心から敬意を表したいと思います。

いま、私は「いのち」という問題に改めて直面していますが、
この本を読んで、その問題の深さに畏れを感じています。

みなさんにもぜひ読んでほしい本の1冊ですので、あえて詳しく紹介させてもらいました。


■「商いの原点」
荒田弘司 すばる舎 1600円(税別)

日本の商人道や経営哲学をライフワークにされている荒田弘司さんの新著です。
荒田さんは日産自動車で活躍された後、
いくつかの企業の役員として企業経営に取り組まれていましたが、
そうした経営の実践を踏まえて、企業経営の現場から引退された後も、
日本の経営のありかたに熱心に取り組まれています。
私がお会いしたのはもう15年ほど前なのですが、
その頃から終始一貫した姿勢を持ち続けられています。

荒田さんは企業の現役時代は経理畑でした。
経理の世界にいると企業の実態がしっかりと見えるのでしょう。
最近の経理の専門家は数字だけを追っているような気もしますが、
荒田さんは数字の背景にある企業経営の実態を見ていたのです。
そして次第に関心が経営哲学や顧客価値などに向いてきたのです。

本書はそうした荒田さんの最新の研究成果です。
本書の副題は「江戸商家の家訓に学ぶ」となっています。
三井家に始まり、近江商人まで、それぞれの家訓をベースにして、
日本企業の経営の基本哲学がとてもわかりやすく紹介されています。
原文もたくさん引用されているので荒田さんのガイドでかみしめるのもいいでしょう。
読めば読むほど示唆が得られます。

荒田さんは「結び」で次のように書いています。

企業が社会に対する本来の役割を果たしていくためには、関係者全員が一致して行動しなければならない。
そこで、企業理念、行動規範が必要となる。
企業は理念を具体的に文字に示すことで一致団結し、行動していけるのである。
現代にあっては、理念を持たないために、企業が向かうべき方向が明確でなかったり、
株式など単なる運営手段にすぎないものを、目的であるかのように錯覚しているケースが、あまりに多い。
今般社会を騒がす事件は、その結果発生しているといってよいだろう。
企業は今こそ、自社の〈家訓)を簡潔かつ明快に示すべきなのである。
江戸商家の家訓を読み解くことで、現代企業のあり方を考える一助としたい。

同感です。
昨今の日本企業には経営哲学が不在どころか、
経営も不在になっているような気がしてなりません。
企業経営に関わる方々にじっくりとかみしめてもらいたい本です。


■「NPOが自立する日」
田中弥生 日本評論社 2200円(税別)

日本のNPO活動に当初から関わってきた田中弥生さんの新著です。
副題が「行政の下請け化に未来はない」と、明確な主張を持っている本です。
この田中さんのメッセージは昨年のNPO実態調査を下敷きにしていますので、単なる論理演算のメッセージではありません。
具体性があるのです。
それに彼女の長年のNPOとの付き合いを通して到達したメッセージなのです。
ですから説得力があります。
私などはむしろ下請け化したNPOが日本のコモンズをだめにするとさえ思っていますが、これはあまり説得力がありません。はい。

NPOとの付き合いの中で、最近、田中さんは「NPOの何かが変質しているのではないか」と感じ始めたのが本書の始まりだったそうです。
彼女とNPOの付き合いは、冒頭の「はじめに」に書かれていますが、これがなかなか面白いです。
田中さんとの付き合いは長いのですが、本書の書き出しは初めて聞く話で、とても興味を持ちました。
NPO前史を田中さんはいろいろと見聞しているのです。

面白いのはもちろん「はじめに」だけではありません。
本文も事例とメッセージと全体像がうまく編集されていて、文章もこなれて読みやすく、しかも示唆に富んでいます。
何よりも好感が持てたのは目線がしっかりしており、指摘が明確なことです。
NPOへの愛着も感じられます。それにこれまで以上に腰が座っているのが伝わってきました。
現実を踏まえると論考に迫力が出てきます。

ともかくこれからのNPOの展開を考えていく上でのたくさんの示唆が得られる、NPO関係の好著です。
NPO関係者はもとより、行政や企業の人たちにもぜひ読んでほしい1冊です。

■「技術倫理 日本の事例から学ぶ」
佐伯昇・杉本泰治編著 丸善 2000円(税別)

科学技術者の倫理問題に精力的に取り組んでいる杉本泰治さん
北海道大学の佐伯昇教授たちと一緒にまた新しい本を出版されました。
70代も後半に入ったはずの杉本さんの行動力にはいつも頭が下がります。

杉本さんは日本の大学に「技術者倫理」の講座を広げようと
NPO法人科学技術倫理フォーラムのメンバーと一緒に講座を展開してきていますが、
本書はそのメンバーたちの共著です。
分筆されていますが、特に杉本さんの書いた部分には明確な主張を感じます。
私とは少し考えの違うところもないわけではありませんが、
主張が明確ですので、とても気持ちよく読めます。

本書は大学の教科書として書かれています。
杉本さんはすでに教科書として「技術者の倫理入門」を出版していますが、
本書は「実学的に技術倫理の基本的な考え方、意思決定の手法が習得できるように
学習プログラムが組まれている」と書かれているように、
効果的なグループ討議ができるように編集されています。
「グループ討論の新しいモデルを示した」という著者たちの思いが、これまでとは違う魅力を生み出しています。

私が特に共感したのは、取り上げた事例の広がりとその取り上げ方です。
序に「現代、科学技術は人間生活に広く深く関わり、あらゆるところに技術者の職場があり、倫理問題がありえる。
本書が取り上げているのは、現代の技術者の身近にある倫理問題である」と書いていますが、
選ばれた事例を読むだけでも、著者たちのパースペクティブの広がりを感じられます。
技術者に限らず、倫理問題は当事者の世界の広がりだと考えている私にとっては、とても共感できる姿勢です。

技術者倫理は限られた世界で語られると逆効果になりかねません。
技術者の世界を広げることこそが、技術者倫理の最大の課題ではないかと私は思っています。
事例の中に「えちぜん鉄道」が取り上げられています。

えちぜん鉄道は、京福電鉄が福井県下で運営していた越前本線が2度の事故のために廃線になったのを
福井県と沿線自治体が一緒になって継承した第3セクターです。
第3セクターというとあまりイメージは良くないですが、
沿線住民も一緒になって、とても素晴らしい運営をしているようです。
どう素晴らしいかは本書をぜひ読んでほしいと思いますが、一部、そのさわりを次のサイトでお読みください。
http://www12.ocn.ne.jp/~shiokaze/newpage22.html

杉本さんは実際にえちぜん鉄道に乗車し、その体験も踏まえて本書で感想を書かれています。
とても心あたたまる事例報告ですが、こうした事例でもわかるように、
本書が取り上げる事例や本書のメッセージには、人間や生活の視点が感じられます。
技術倫理などというと難しいイメージを持つかもしれませんが、
要は生活視点をしっかり持つことが倫理の基本なのだと思います。

目次の一部を紹介しますと、
「人間生活における注意義務」
「組織のなかの個人」
「コミュニティの人間関係と内部告発」
「人間と動物の関係」など、魅力的な項目が並んでいます。
しかもそのすべてがしっかりした事例を中心にやさしく語られています。

大学生に限らず、技術者や科学技術に関わる人にも読んでほしいと著者たちは書いていますが、
私は技術者に限らず、企業人や生活者すべての人が大きな示唆を得る本だと思います。
特に企業経営幹部の人たちには読んでほしいと思います。
グループ討議のガイダンスを活用しながら、話し合いのテキストとしても最適です。

ちなみに、私も科学技術倫理フォーラムのメンバーです。
こうした杉本さんたちの活動をさらに広げていくために、
2006年11月26日に、技術者倫理の問題を暮らしの視点から考える公開フォーラムを企画しています。
10月になったら詳しい案内をお知らせコーナーで行ないますので、ぜひご参加ください。
関心のある方は私にメールを下されば、別途ご案内します。


■「平和のための政治学」
川本兼 明石書店 2600円(税別)

川本兼さんは積極的に若者向けへの平和の働きかけをしていますが、この4年で6冊の本を出版されました。
しかも、極めて密度の濃い内容を、高校生でも理解し興味を持てるように、十分に咀嚼した本です。
単なる知識を整理した本ではなく、川本さんオリジナルのメッセージもあります。
川本さんへの平和への思いの深さや危機感の強さが伝わってきます。

本書は前著「平和のための経済学」の姉妹編ですが、副題には「近代民主主義を発展させよう」とあります。
高校生や大学生を意識した書き方になっており、言葉の概念整理をしっかりしていますので、
言葉だけの議論ではなく、実体議論がなされていることに好感が持てます。
知識を持っている大人たちには、時に教科書的な印象を与えるかもしれませんが、
今こそこうしたしっかりした本を多くの大人たちにも読んでほしいと思います。
決して、若者向けだけの本ではありません。

政治とは何か、国家とは何か、民主主義とは何か、といった基本的な概念を、
私たちはあいまいにしたまま、政治論義をし、平和論議をしがちですが、それでは議論は出来ても行動にはつながりません。
本書の内容は別のサイトをお読みください。
http://www.hanmoto.com/bd/ISBN4-7503-2404-3.html

私が面白かったのは、「民衆」「公衆」「大衆」「群集」の議論です。
そうした言葉に本質が含まれていることは少なくありません。
「民主主義は平和と結びつくことによって発展する」も面白かったです。
普通は「平和は民主主義に結びつくことによって発展する」という議論が多いのですが。
最終の項目は「近代民主主義はもはや『遅れた民主主義』である」です。
国家権限の再配分の提案もあります。
どうですか。読んでみたくなりましたでしょうか。

もう少し薄くして、安くしてほしいですが、まあじっくり消化すれば格安の本です

高校生に戻ったつもりになって、読んでみるととても楽しいかもしれません。
そして、読んだら是非行動に移してもらえればと思います。
平和に向けてできることはたくさんあります 。
今の日本は、まさに歴史の帰路にあります。

ちなみに川本さんの本書以外の最近の5冊は次の通りです。
いずれもブックのコーナーで紹介しています。
●「平和のための経済学」
●「自分で書こう!日本国憲法改正案」
Q&A「新」平和憲法 ― 平和を権利として憲法にうたおう
●「どんな世界を構想するか」
●「どんな日本をつくるか」

川本さんを囲んでの平和論議に関心のある方は私にご連絡ください。
3人以上のご希望があれば、企画します。


■「栗原貞子を語る 一度目はゆるされても」
広島に文学館を!市民の会 700円 

活動記録でも紹介した「広島に文学館を!市民の会」のブックレット第1号です。
2005年に開催されたシンポジウム「栗原貞子を語る」の記録を中心に、栗原さんの作品なども収められています。
内容に関しては、中国新聞の記事がとてもよく欠けていますので、それに委ねたいと思います。
「栗原貞子さん解説のブックレット」

私は、このホームページにある折口日記の筆者の折口さんから贈ってもらいました。
折口さんは、栗原さんの詩の仲間である原博巳さんからこの本を教えてもらったようです。
私は折口さんにも原さんにも、実はまだ面識がないのですが、不思議なご縁が続いています。
小冊子ですが、内容はとても密度が高く、感動的です。
入手はやや面倒かもしれませんが、市民の会で受け付けています。
周りに人にも勧めてもらえるとうれしいです。
平和はいま、大きな曲がり角に来ているように思います。
諦めたくなりますが、この本を読んで、やはり諦めてはいけないと思いました。
為政者にも読んでもらいたいです。

■碑文から見た古代ローマ生活誌
ローレンス・ケッピー 小林雅夫・梶田知志訳 原書房 2500円(税別)

7月のオープンサロンでご紹介した小林教授の最新の翻訳書です。
実は贈られた書籍は1週間以内に読むのですが、この本は読み応えがあり、
読み流すことができずに紹介が遅れてしまいました。
古代ローマの生活誌に関しては、
たとえば弓削達さんの「素顔のローマ人」(河出書房新社)などありますが、
そうしたものとはちょっと違い、碑文を通した、もう一つのローマ市を感じさせてくれるのです。
碑文というものの魅力も伝わってきます。

それにしても、人間とは「書き残すこと」の好きな生物であることがよくわかります。
落書きも含めて、いたるところに「歴史」を残しているのです。
エジプトのメムノンの巨像は小学校の時に小松崎茂の「砂漠の魔王」で知って以来、憧れだったのですが、
10数年前に感激の出会いを持ちましたが、そこにはたくさんの落書きがありました。
本書によれば、1000を超える落書きがあるそうです。
トルコのエフェソスでもいくつかの落書きの話をガイドから聞きましたが、
この本を読んでいたら、そうした場面がもっと楽しくなったでしょう。
パムッカレの商人の墓の話も出てきますが、古代地中海世界が大好きな私としては、
ちょっとした記述の一つ一つがとても興味深いものでした。
塩野七生さんの「ローマ人の物語」とは、また違った面白さがあります。

私がもっと知りたかったのは、1818年年に発見されたという碑文です。
5字5行の四角形の語方陣ですが、これがミトラス経やユダヤ教徒関連があるとの説もあるそうです。
こういう少し秘密めいたものにはなぜかわくわくします。
ローマ市に詳しい人が読むと実に楽しい本なのでしょう。
メセナの語源になったというマイケナスらしい人も登場しますし、じっくり読むと楽しいです。
古代ローマ市に関心のある方にはお勧めです。
但し、一気に読むのではなく、気が向いたら面白そうなところを読んで、
最後に序文の「歴史を塗りかえる碑文」を読むといいでしょう。

なお本書の内容に関しては、次のサイトが参考になります。
http://www.augustus.to/books/archives/2006/08/post_27.html

■「志塾のススメ」
浅井隆+私塾を作る会 第二海援隊 1200円(税別)

日本を変えるのは「私塾」だという思いで活動してきているのが私塾を作る会です。
そのメンバーに北村三郎さんがいます。この本は北村さんが送ってきてくれました。
浅井隆さんと北村さん、それに飛岡健さん、上甲晃さん、加藤秀樹さんが参加して座談会風にまとめたのが本書です。

サロン好きな私もこの活動には全く同感です。
それに北村さんは実践の人であり、北村さんの言動には信頼が置けます。

明治維新の原動力になった松下村塾のような私塾が、いままさに求められているというのが、この本のメッセージです。
そして、時代の大きな変わり目にあるいま、志ある人材を育成するような場をつくりたいと、
私塾ならぬ「志塾」を起こそうと言うのが、この本で語り合っているメンバーの思いです。
私塾が時代を変えるというのは、私も同感です。
私はそれをサロンやワークショップやフォーラムで実現したいと考えているわけですが、確かにもっとしっかりした私塾のほうが効果的でしょう。
北村さんたちの考えには共感できます。

日本の現状に危機感をお持ちの方は、本書をお読みになると、きっと共感できる部分があると思います。
本書の帯には、「日本を変えるのは小沢でも小泉でもない。「私塾」だ!」と書いてあります。

この構想のもとに、北村さんたちは新たに「再生日本21プロジェクト」を立ち上げました。
そのキックオフを兼ねて、6月17日に「志塾+市民記者のすすめ」という記念講演会を開催するそうです。
詳しくは次のサイトを見てください。
株式会社再生日本21

最近はなかなか北村さんにはお会いできませんが、
しっかりした基軸をもって、活動を展開されていることに敬意を持ちます。
こうした先輩がたくさんいるので、私もいつになっても気が抜けないのです。
そろそろ楽をしたいと考えているのですが。

なおこのプロジェクトでは、インターネット新聞の発行も計画されており、その市民記者も募集しています。
ご関心のある方は是非ご検討ください。
北村さんが関わっている以上、信頼できる会に違いありません。
北村さんはそういう人なのです。

■「ユダヤ教 vs キリスト教 vs イスラム教 宗教衝突の深層」
一条真也 だいわ文庫 762円(税別)

また一条さんの新著です。
ちょっとこれまでのものとは分野が違いますが、これまた意欲的な長期構想(世界を "vs"で読み解きたい)の最初の著作です。
まえがきの一部を引用させてもらいます。
この前書きの文章で私はこの本の基本姿勢に共感を持って読ませてもらいました。

本書は、人類の歴史に大きな影響を与えてきた三人の姉妹の物語である。
長女は、ユダヤ教。二女は、キリスト教。そして、三女は、イスラム教である。
同じ親、つまり同じ一神教の神を信仰し、「旧約聖書」という同じ啓典を心のよりどころにしながら、憎しみ合い、殺し合うようになった世にも奇妙な三人の姉妹。
(中略)
姉を慕う三女は二女とは初めからうまく付き合えなかった。好戦的な二女がいつも攻撃を仕掛けてくるので、仕方なく受けて立つようになった。
(中略)
本書は、この3人の娘の生い立ちから、その精神世界まで広く探ってゆく。
三姉妹宗教を知れば、世界が見えてくる。

私は10年ほど前まで、ギリシアとペルシアに関して、民主的で人間的なギリシアと専制的で非人間的なペルシアというイメージを持っていました。
20年ほど前に、ペルシア史の入門書を読んでそのイメージを疑いだしました。
私の世界観や歴史認識は、近代西欧の価値観に浸りきっていたようです。
それはともかく、ペルシアのほうが人間的だったのではないかという思いがぬぐい切れません。
キリスト教へのイメージもまたその頃から大きく変わりました。
いまの世界の構造の見え方も、その疑問に立脚するとマスコミとは全く違ったように見えてなりません。
洗脳教育とは恐ろしいものです。洗脳教育は何も北朝鮮だけの話ではありません。
いや、そもそも教育の本質は洗脳なのかもしれません。

信頼できる友人でも、その考え方においては全く受け入れない場合が少なくありません。

考え方が違うからといって、信頼関係が揺らぐことはありませんが、
時々、やりきれない気持ちになることはあります。
世界観や人生観において埋めがたい断絶を感ずるからです。

世代の違いかもしれませんが、もしかしたら教育環境(学校だけではありません。
最高の教育はマスコミからの情報です)の違いかもしれません。

ところで本書ですが、コンパクトな文庫版ですが、内容は欲張っているといいたいほど網羅的です。
しかしそこに著者のメッセージがこめられていますので、単なる解説書ではありません。ですから面白いです。

時にはこんな本もいかがでしょうか。
無節操で見識のないマスコミの論調への免疫を高めるためにも。


■「孔子とドラッカー ハートフル・マネジメント」

一条真也 三五館 1500円(税別)

一条真也さんに鬼神が乗り移ったとしか思えないのですが、また新著です。
よくもこう、次々と出版されるものだと感心しますが、その一冊一冊がとても消化されており、実践的なメッセージに満ちているのです。
大学に籍を置き、研究や執筆を業としているのであれば不思議はないのですが、
一条さんはれっきとした年商200億円の企業の社長なのです。
しかし、驚くのはまだ早いのです。
本書を受け取って1週間もしないうちに、こんなメールが来ました。
「鬼神が乗り移ったせいか、もう1冊上梓いたしましたので、また送らせていただきます。」
いやはや、勢いのある人の行動力は、計り知れないものがあります。

それはともかく、この本は前に紹介した「ハートフル・ソサエティ」に続く平成心学三部作の第2弾ですが、
同時にまた前作の「知の巨人ドラッカーに学ぶ21世紀型企業経営」ともセットになっています。
とても実践的で、しかも理念的です。
読者は経営の極意を学ぶとともに、その生き方への大きな示唆を得るはずです。

編集のスタイルも工夫されています。
読書嫌いの最近の企業人でも気安く、そして楽しく読めるようになっています。
全体が48の章に分けられているのですが、
その見出しが、たとえば、「仁」「義」「礼」などという漢字一字になっています。
いかにも孔子だなと思われるかもしれませんが、
中には「利」「運」「怒」「泣」「狂」など、一条風もふんだんに取り上げられています。
もちろん文中にはドラッカーも出てきます。
一条さんが信奉している先哲たちの話もたくさん出てきます。

面白いのは、著者の生活ぶりも垣間見えることです。
なぜ著者がこれほど次々と著作を物しているかの秘密も少し示唆されています。
文体も変化に富んでいて、面白いです。
私がとても気に入ったのは、「読」「書」の章です。
たとえば、「読」はこんな書き出しです。
私は、とにかく毎日、読んでいる。
何を読むか。まず、本を読む。

つづく章の「書」は、
私は、とにかく毎日、書いている。
何を書くか。まず、原稿を書く。

実にスタイリッシュです。気に入って、何回も読んでしまいました。

内容の紹介が不足していますね。
すみません。

あとがきから少し引用して内容紹介に代えます。
「本書は、月光の書である」と、あとがきは始まります。
人を動かすときの典型的な二つの方策のアナロジーとして、
太陽と北風のイソップ寓話が使われますが、一条さんはこういいます。

リストラの風を吹きつけ社員を寒がらせる北風経営でもなく、
バブリーに社員を甘やかす太陽経営でもなく、
慈悲と徳をもって社員をやさしく包み込む月光経営。
これこそ、心の経営、つまりハートフル・マネジメントのイメージそのものとなる。


本書は、その月光経営の極意書なのです。
詳しくは是非本書をお読みください。
実践的な経営道が語られています。
そればかりか、生き方を考える上でも、たくさんのヒントがもらえるはずです。

座右の書として、時々、気の向いた章を読むといいのではないかと思います。
企業経営者にはもちろんですが、NPOや行政の人たちにも是非お勧めしたい本です。
前著も一緒に是非お読みください。

ちなみに、一条さんの経営観は、「慈悲と徳をもって社員をやさしく包み込む月光経営」ですが、
私の経営観も「愛と慈しみ」です。蛇足ですが。はい。

■「おかしいよ!改正介護保険」
市民福祉情報オフィス・ハスカップ編 現代書館 1800円(税別)

4月から介護保険制度が改正になりました。現場が混乱しています。
現場が混乱するような法改正はどこかにおかしさがあります。
内容にも、進め方にも、です。

介護保険制度は、そもそもが、「走りながら考える」として2000年4月にスタートしました。
その基本には「措置から契約へ」という福祉観の転換と「介護の社会化」の推進ということがありました。
それらは言葉としては反論できないものですが、「契約」にしても「社会化」にしても、使い方によってはとても怖い概念だと私は思っています。
民営化もそうですが、言葉にだまされてはいけません。

それはともかく、私が取り組んでいるコムケア活動の仲間にも、介護に取り組んでいる仲間はとても多いです。
そのひとつが、市民福祉情報オフィス・ハスカップです。
代表の小竹雅子さんのエネルギッシュな活動には常々感服していますが、小竹さんが中心になってまとめたのが、本書です。
コムケアの仲間のみなさんもたくさん参加しています。
現場で活動しているさまざまなNPO活動をしているみなさんが、さまざまな視点から介護保険制度を語っています。
帯には、「高齢者介護改悪時代を乗り切るNPOからの提言」とあります。
それぞれの提案はとても示唆に富んでいます。問題はどう動き出すかです。

介護保険制度は、実は社会の縮図でもあります。
決して高齢者だけの問題ではありません。
社会のあり方に関わる問題であり、若い世代も含めて自らの生き方を考える切り口の一つです。
ですから、ぜひたくさんの人たちに読んでもらいたいと思います。

そして介護保険に関心をお持ちになったら、是非ご連絡ください。
直接介護問題を抱えていない人たちで、
介護保険制度や介護のあり方を地域社会の視点で考えるようなワークショップも一度やってみたいと思っています。
一緒にやろうという方がいたら、ぜひお会いしたいです。
介護のノーマライゼーションが必要ではないかと思っています。


■「循環型社会入門」
森建司 新風舎 1200円(税別)

時々思ってもいなかった本に出合うことがあります。
今回紹介させていただく本書は、私の友人が書いた本でありません。
ある人がなぜか送ってきてくださったのです。
本の内容がもしかしたら、私の考えにつながっていると考えてくれたからかもしれません。
その本のあとがきに、次のようなことが書かれています。

循環型社会の運動は革命的転換を意味している。
経済至上主義社会を崩壊させ、「経済によってのみ人は生かされている」という価値観から脱出を図らなければならない。
そして、そのあとの新しい価値観をもった循環型社会の姿が見えてくる。
新しい体制は「破壊と創造」から生まれる。
そのためにも、思い切った勇気ある「破壊」の行動を起こさなければならないわけである。

循環型社会を口にしながらも、経済至上主義から脱却できずにいる、多くの企業経営者たちに読ませたい文章だと思いませんか。

ところがです。
実はこの本は企業の経営者が書いた本なのです。
著者の森建司さんは滋賀県の新江州株式会社の会長なのです。
新江州は包装資材などを中心に事業している、従業員100人強の中堅企業です。
社是は「過去には感謝 現在には信頼 未来には希望」。
滋賀の会社らしく、近江商人の伝統の「三方よし」を大切にしているようで、三方よし実践企業としても紹介されています

会社の紹介が長くなってしまいましたが、会社としてもちょっと興味を魅かれます。

さて肝心の本の話です。
この本の副題に「もったいない おかげさま ほどほどに」と書かれていますが、
この3つのキーワードに循環型社会の本質が象徴されていると森さんはお考えのようです。
まあ、これだけでは良くある本ではないかと思われるかもしれません。
私もそう思って軽く読み流そうと思っていたのですが、
読んでいるうちに、書かれていることが著者の実際の生活体験や現場実感に立脚しているのに気づきだしました。
そして人間的な眼差しと同時に強い批評眼をお持ちなのが伝わってきたのです。
途中から襟を正して読ませてもらいました。

特に私にとってはとても共感できるメッセージがたくさん出てくるのです。
たとえば、「静脈産業のごまかしというところでは、
静脈産業には大きな矛盾がある。その発展のためには廃棄物が増えなければならないと指摘しています。
環境ビジネスは過渡的現象であるとも明言されています。

私はこう明確に言い切った経済人を知りません。
しかし森さんが言うように、静脈産業論はまさにごまかしでしかありません。
私も10年以上前からそういっていますが、残念ながら環境産業のパラダイムシフトは起こっていません。
ますます環境を悪化させる環境産業が増えているようにさえ思います。

「個々の対策では対応できない社会問題」という章もあります。
まさに私が取り組んでいる大きな福祉に向けてのコムケアの考え方です。
「人間の絆が人間を創る」ともあります。

まるで自分で書いた本を読んでいるような気がしました。
しかも、私とは違って、メーカーの経営者なのですから、その発言の重みは私とは全く違います。
感服させられた次第です。

他にも示唆に富む指摘がふんだんに出てきます。
しかも、肩に力が入っていない平易な言葉で語られていますから、とても読みやすいです。
それに各章の最後に一言警句が添えられています。
それを並べただけでもたくさんの気づきをもらえるはずです。

森さんは、「もったいない おかげさま ほどほどに」の考えを広げるために、
その頭文字をとった「MOHの会」をつくって活動を展開しています。
つまり高邁な評論にとどまる人ではなく、実践者でもあるのです。
「MOHの会」はこの本でも少し紹介されていますが、機会を見てもう少し調べてみようと思っています。

長い紹介になってしまいましたが、針路を誤っているように見える昨今の企業経営幹部のみなさんに是非読んでほしい本です。
企業に不信感を高めているNPOの人にも読んでほしいです。
いや、すべての人に読んでもらって、自らの生き方をちょっと見直してもらうのがいいでしょう。
ともかく お勧めの1冊です。

「もったいない おかげさま ほどほどに」
とても共感できるキーワードです。
私も生き方を見直さなければいけません。

■「みんなが主役のコミュニティ・ビジネス」
細内信孝・大川新人 ぎょうせい 1905円(税別)

「コミュニティ・ビジネス」という言葉もかなり広がってきていますが、この言葉の生みの親がこの本の編著者の細内さんです。
細内さんは、この分野で精力的に活躍されており、この13年間で日本全国各地を飛び回り、
なんと700回を超える講演やワークショップなどをされているそうです。
コミュニティ・ビジネスに関する著書も本書で7冊目ですが、
本書はとくに「地域を元気にするコミュニティ・ビジネス」(基礎編)、
「3日でマスターできるコミュニティ・ビジネス起業マニュアル」(マニュアル編)
に続く三部作の発展編になっています。
今回は大川新人さんも一部執筆され、具体的な事例もふんだんに紹介されたわかりやすい内容になっています。

各地の実際の活動に深く関わっているので、コミュニティ・ビジネスに関する本質的な問題提起も入れながら、表現はとても具体的実践的です。
しかもそのそれぞれに事例が組み込まれていますので、実践者にもとても参考になりますし、頭も整理されるでしょう。

本書では、細内さんはコミュニティ・ビジネスを、
地域コミュニティを基点にして、住民が主体となり、顔の見える関係のなかで営まれる事業
と定義していますが、細内さんの考えの中でも、その定義はどんどん進化しているようです。
前書きにこう書いています。

1999年に「コミュニティ・ビジネス」を上梓以来、私にとって7冊目のコミュニティ・ビジネスの関連書籍を出版することになりました。
本書は、生活の質を上げるために一人で起こすコミュニティ・ビジネスから、
地域再生のために仲間や専門家と一緒になって新たな組織を起こす、
すなわち社会的企業として位置づけるまでに進化しているのが特徴です。

私自身は、最初の頃の細内さんのコミュニティ・ビジネス論には少し違和感がありました。
私自身がそれまで、まちづくりや住民活動の視点から住民によるワーカーズ・コレクティブや住民出資のまちづくり会社を提案したりしていたからかもしれません。
ですから前書きにある「進化」の話にはとても共感できます。
私自身は、細内さんの定義の言葉を借りれば、
「顔の見える関係を育てていく事業」こともコミュニティ・ビジネスの重要な要素だと考えています。
先週のNPOの集まりでも、そういう点を強調しましたが、そこに大きな可能性を感じています。
残念ながら、多くの場合、まだ従来型の経営発想に埋没しているのが現在の多くのケースだと思っていますが。

そうした視点からも、本書は全く違和感なく読めました。
新しい発見や示唆ももらえました。

最終章の細内さんと大山博さん(法政大学現代福祉学部教授)の対談では、細内さんの体験知がにじみ出ていて、私にはとても面白かったです。
また、細内さんの次の指摘にもとても共感します。

日本では、FPO(フォー・プロフィット・オーガニゼーション)とNPOを分けたがります。
しかし、若い人たちにはFPOもNPOも両方マネジメントできるような人になってほしい。

日本では組織が個人を束縛する傾向にありますが、英米では自立した個人が集まって、組織を形成しています。

全く同感です。NPOと企業はいずれも仕組みですから、大切なのはそれをどう活かしていくか、です。

読みやすい本であると同時に、さまざまな要素を含んだ本ですので、その分野で活動されている人にはお勧めします。
大川さんの社会起業家と起業家の比較も面白かったです。
大川さんのNPOの本もいろいろ出ていますので、思い出してください。

■「知の巨人ドラッカーに学ぶ21世紀型企業経営」
一条真也 ゴマブックス 1200円(税別)

私はドラッカーがあまり好きではありませんでした。
著書はかなり読んでいるのですが、どこかに違和感があります。
その理由は自分ではわかっています。
会社に入社した頃、ドラッカーの「現代の経営」などを読んだのですが、
そこにでている「事業とは顧客の創造」というメッセージに大きな違和感を持ってしまったのです。
その最初の出会いが、私をドラッカー嫌いにしてしまったのです。

しかし、そうした私の思いとは別に、ドラッカーの著者は多くの経営者やソーシャルアントレプレナーに大きな影響を与えてきました。
そして、私の周りにもたくさんのドラッカー信奉者がいます。
企業の世界にもNPOの世界にも、です。

その一人、一条真也さん(企業経営者でもあります)が、ドラッカーの全著作を見事に消化した上で、とても実践的な本にまとめられました。
もし一条さんが書いた本でなければドラッカーの解説書は読まなかったでしょう。
一条さんからこの本が贈られてきた時にも、一瞬、読みたくないなと思ったほどです。
しかし、前著「ハートフル・ソサエティ」にとても共感したこともあり、
そしてそれがドラッカーの最後の著書「ネクスト・ソサエティ」への回答書であることを知っていたこともあって、読まないわけにいきません。
それに一条さんは単なる評論家ではなく、ドラッカー理論の実践者であることは知っていましたので。
実践者の本は、必ず示唆が含まれています。

改めて読んでみて、もしかしたら私のドラッカー評価は認識不足だったかもしれないと思いました。
もちろんまだ翻意したわけではありません。
なにしろ私は「顧客の消滅が事業の目的」と考えている人間なのです。

まあ、私がどう思うかは瑣末な話です。
この本はドラッカーの理論を極めて簡潔に、かつ実践的にまとめています。
企業の人にはもちろんですが、NPOやソーシャルアントレプレナーにもお勧めの本です。
この1冊を読めば、現在の企業が抱える重要な戦略テーマや基本的な経営理論の構造が理解できます。
それに一条さんの要約は、実に簡潔にして要を得ています。
経営指針書としても完結しているように思います、

この本を読んだおかげで、ドラッカーの所期の著作を改めて読む気になりました。
そういう意味で、ドラッカーになじみのない人にも、馴染みすぎた人にも、お勧めの経営書です。
最近、勘違いした経営理論に振り回されている行政の人にもお勧めします。

詳しくは下記サイトをご参照ください。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4777103404/250-0578551-8678607#product-details


■「技術者資格−プロフェッショナル・エンジニアとは何か」

杉本泰治 地人書館 2400円(税別)

技術者の倫理の問題に取り組んでいる杉本さんが、今度は技術者資格の本をまとめられました。
倫理と資格、この問題は深くつながっていることを杉本さんからは何回もお聞きしていますが、
本書の「はじめに」に杉本さんは次のように書いています。

米国にプロフェッショナル・エンジニアという技術者資格制度があり、この制度がまた、技術者倫理を育ててきた。
技術者の倫理と資格とは、車の両輪の関係にある。
というのは、技術者に倫理を求める社会の事情がまた、技術者資格を必要とするからである。
わが国の現状は、技術者倫理が強調されるようになったばかりで、まだその観点からの技術者資格には目が向いていないが、
早晩、それでは足りないことに気がつくに相違ない。

杉本さんらしく、論理が整然としています。
こうした杉本さんのホリスティックなバランス感覚に教えられることが多いのです。

この本はやや専門的であり、法や制度の解説が中心ですので、必ずしも一般的な読み物とはいえませんが、
それでもさまざまな示唆を得ることができます。
2つだけ紹介します。

科学技術や技術者資格に関する法律は日本にもアメリカにもありますが、
その理念と基本姿勢が違うことを杉本さんは明確にしてくれます。
日本法は、科学技術を利用しようとしているのに対し、米国法は、科学技術を制御しようとしている。
そして、それが技術者資格制度に大きな影響を与えているというのです。
私にとっては、これは驚くべき気づきでした。
これまで何となくモヤモヤとしていたことが一気に氷解されたような気もします。

もうひとつも私には大きな気づきでした。
資格には、私益の側面と公益の側面があるが、
日本では私益の観点で捉えられており公益の視点が埋没していると言うのです。
言われてみるとまったくその通りです。
これは大きな意味を持っています。

いうまでもなく、この2つは深くつながっています。
そして、この2つの指摘から杉本さんの考えや姿勢が読み取れるでしょう。
この2つのことに気づくだけでも本書は読む価値があると思います。
ちょっと堅い本ではありますが、
技術に関心のある方やMOTに取り組まれている方、
あるいは企業倫理に関心のある方には、是非読んでいただきたい本です。

ちなみに、杉本さんが代表をつとめるNPO法人科学技術倫理フォーラムでは、
来年度、技術者倫理をテーマにした公開フォーラムの開催を検討しています。
そのための気楽な研究会を発足させています。
隔月に集まって、情報交換しながら、どんなフォーラムにしようかを気楽に話し合っています。
次回はお知らせのコーナーで案内していますが、4月4日です。
関心のある方はぜひご参加ください。
事務局は私が担当していますので、メールをいただければご案内させてもらいます。


■「だから、改革は成功する」
上山信一 ランダムハウス講談社 1600円(税別)

上山新一さんの新著です。
上山さんは今、話題の大阪市役所の変革に関わっていますが、
「改革屋」と自称しているように、これまで40件を超える変革プロジェクトに関わってきています。
上山さんが霞ヶ関からコンサルタント会社のマッキンゼーに転進したころ、私はまだ東レでCIに取り組んでいました。
誰の紹介か忘れましたが、上山さんが訪ねてきてくれ、とても共感しあえた記憶があります。
当時は私もそれなりの「改革実践者」で、いろいろと取材も受けました。
柳田邦夫さんの取材が一番印象的でしたが、個人的に取材に来てくれた人で、それが契機で今でも付き合いが続いている人はさほど多くはありません。
その一人が上山さんです。
今でも時々、研究会に誘ってくれたり、新著を送ってくれたりしています。
何もお返しできないのが心苦しいですが、まあ仕方がありません。

本書は、その上山さんのこれまでの改革プロジェクトから得た知見の中間報告書です。
内容は極めて本質的で先進的で、そのくせ、とてもわかりやすく実践的です。
私は最近の企業変革事例には違和感があり、むしろ中長期的には企業をだめにするのではないかと危惧していました。
しかし、上山さんがしっかりと本質的な改革に取り組んでいることを改めて確認できてとてもうれしかったです。

「はじめに」で、上山さんが書いている姿勢と考えに共感します。

ビジネス雑誌を見れば、いまだに「会社の生き残りをかけた新戦略」といったような文言が躍る。
だが、もはやそういう時代ではない。
改革は、「個人が人生の意味を見つけるために、仲間を増やしてチャレンジしていく、いわば一つの「知的ゲーム」になりつつある。

最近の改革はずいぶん明るく楽しいものになった。
背景に、個人の自己実現と組織の改革が連動し始めたことがある。
楽しく、また人びとの共感を呼ぶ改革でなければ、長続きしないとはっきりしてきた。
「お客さまの喜びが社員の喜びにつながり、それが創意工夫につながり、結果として収益拡大につながる」といったサイクルも見えてきた。

全く同感です。そして上山さんはこう続けます。

本書は、さまざまな現場で改革に取り組もうとする意欲ある「個人」に向けて書いた。
本書をきっかけに、より多くの方たちが職場で、地域で、そして家庭でさまざまな「改革」に取り組んでいただければ幸いである。


改革や変革に取り組んでいる人たちには必ず参考になるはずです。
そして上山さんはあとがきでこう書いています。

「明るい改革」は軽やかに成功し、スピードも速い。一方「暗い改革」「怖い改革」は必要以上に難航する。

20年前に東レで企業文化変革プロジェクトに取り組んでいたころのことを思い出します。
当時の実践で得た結論が、まさに上山さんが本書で述べている思いに重なります。
しかも、とてもうれしいのは、あとがきで、最近、「改革における人間愛!」を語り始めたられるようになった、という記述です。
私が東レの改革プロジェクトで得た結論は「経営とは愛」でした。
上山さんのように、40もの改革プロジェクトに関わった人からの言葉にとても力づけられます。

読みやすい本です。お勧めします。


■「平和のための経済学」
川本兼 明石書店 2500円(税別)

先週、週間報告で紹介した川本兼さんの新著です。
これまでも川本さんの著作は数冊紹介してきましたが、
川本さんがこれほど著作活動に力を入れるのは、「平和に関する新しい考え方」を広げていきたいからです。
その考え方を川本さんは次の3点に整理しています。

@平和を民衆の解放の歴史の中に位置づける。
A民衆の解放は基本的人権で表される。
B平和は基本的人権の形にして民衆が獲得していくべきものである。


この3点をベースにして、川本さんはこれまで数々の著作を書いてきました。

しかし、もっと広い見地で、政治や経済に対する考え方を伝えていかないとだめだということに気づいたそうです。
そして、新たに書き下ろしたのが、本書です。今回は経済が扱われています。

川本さんが発想の根底においている独自の考えが2つあります。
「人権革命」と「新社会契約説」です。
その視点から「平和権的基本権獲得のための第3の革命」を問題提起しています。
言葉だけだと伝わりにくいと思いますが、こうした発想の基本にあるのは「すべての人間の個人の尊厳」です。
統治のための基本的人権や民主主義の限界を川本さんは指摘します。
こうしたことはこれまでの川本さんの著作で詳しく述べられてきましたが、
本書でも最終章「資本主義経済に枠組みを与える社会的価値」に簡潔に整理されています。
次の文章を読んでもらえれば、川本さんの視座と視野を理解してもらえるでしょう。

近代民主主義は、人間の尊厳と基本的人権を認められる人々の範囲が余りにも狭すぎる。
資本主義の利潤原理は「他者の『人間の尊厳』に対する配慮」を欠いた経済原理だった!
近代民主主義も「他者の『人間の尊厳』に対する配慮」を欠いた政治原理だった!

その原因を、川本さんはそれらの淵源のカルヴァニズムに求めています。

そうした考えを基本において、本書では経済学の基本がわかりやすく書かれています。

平和を獲得していくためには、
私たち一人ひとりが、自分の考えに基づいて主体的に行動していくことが必要であり、
そのためには経済に対する知識が必要だと川本さんは言います。
これまで学校で教えていた経済学は果たして平和のための経済学だったのかどうか、
というのが川本さんからのもうひとつの問題提起かもしれません。

本書は是非若い人たちに読んでほしい本ですが、
「経済を知って平和や福祉のことを考えよう」(本書の副題)という川本さんからの呼びかけは、若者だけに向いているわけではありません。
読んでいただけるとうれしいです。

そして平和に向けての何か行動を起こしてもれるととてもうれしいです。

■「古代ローマの人々」

小林雅夫 早稲田大学文学部発行 1500円(税別)

活動記録でご紹介した早稲田大学の小林教授のオンデマンド授業のテキストとして出版されたものです。

副題が「家族・教師・医師」となっていますが、
この3つの切り口から当事の人々の生活ぶりを具体的に浮き彫りにし、
生き生きとしたローマ理解ができるような基本的な視点を提供しようというのが本書の狙いです。
この3つは、まさに現在の日本社会が真剣に考え直さないといけないテーマでもあります。
今とは違った生活ぶりを踏まえてローマ史の理解をしなければいけないというのが小林さんのメッセージですが、
現在の状況と重ねて読んでいってもとても面白いです。
医師の話も実に面白いです。

このテキストを使っての小林教授の授業のテーマは、「ローマ・ヒューマニズム」です。
具体的な記述のなかに含意されている、人間らしい人間とは何か、を読み取る作業も刺激的です。
リベラルアーツ(自由学芸)についての言及ももちろんあります。
早速、その問題に取り組んでいる半田智久さんに伝えましたが、今年は半田さんからリベラルアーツについて学びたいと思っています。
この問題はおそらく教育の本質につながっているように思いますが、半田さんくらい情熱を持って考えている人はいないでしょう。

ところで、本書の第1章の「古代ローマ史の歩み」はとても刺激的です。
ルネサンス以降における古代ローマの発見と意味づけの歴史が簡潔にまとめられていますが、
ここでも現在私たちが直面している課題とのつながりで考えさせられることが少なくありません。
歴史とは何かという問題も含めて、たとえば貧困とか人口問題など、極めて現代的なテーマへの示唆が読み取れます。

第2章では膨大なローマ史が概観されています。
私にとっては大きな枠組みでの整理ができて、これもまた面白かったです。
塩野七生さんのローマ人の物語とはまた違った面白さを感じました。

ただ残念ながら授業のテキストという制約は免れません。
これを踏まえて、分量を気にせずに、小林さんの主観を思い切りいれた本をぜひまとめてもらいたいと思いました。
小さな副読本ですが、たくさんの示唆がこめられた本でした。

この本は書店にはほとんど出ないようですが、書店に注文すれば入手できるそうです。
小林さんがまた自由に声が出るようになったら、
ぜひ一度、ローマ・ヒューマニズムについて湯島のサロンで話してもらいたいと思っています。

■「ライフレビューブック」
志村ゆず編 弘文社 2800円(税別)

高齢者を元気にする一つの手法として、回想法が注目されています。
回想法とは、お年寄りが昔を振り返って考え、それを他の人に話したりすることを援助する心理学的方法の一つですが、
それによって、閉じこもりがちなお年寄りもコミュニケーション能力が増し、元気になる効果が評価され、
最近では介護施設や病院、公民館などで盛んに行われるようになっています。
その手法の一つがライフレビュー・セラピーです。
お年寄りが人生をかえりみることをさまざまなツールやノウハウを使いながら援助し、その人の自分史を一緒になってつくるのです。
それを通して元気を引き出していくわけです。

この本は、そうしたライフレビュー・セラピーの実践的な入門書です。
編者は名城大学の志村ゆずさんです。
昨年、日本構想学会の大会でお会いして以来のお付き合いですが、
学会の大会ではケアに関していろいろと示唆をいただきました。

本書は、ライフレビューとは何かから説き起こし、実践に役立つ方法やお年寄りに対する細かい気の配り方までを丁寧に解説した実践的なマニュアルと、
お年寄りの記憶を呼び起こす懐かしい物や情景のカラー写真が掲載されています。
また、付属のCDには、660枚の写真も入っています。
この1冊があれば、お年寄りは、介護者の協力を得ながら、ライフレビューブックに写真を貼り、文章を書き込み、自分史を完成させていくことができます。

本書は介護者の活動を支援するためのものですが、読者自身が自分の生活を振り返って、自分史を作成するテキストでもあります。
その意味では介護者に限らずに、すべての人にとってとても面白い本だと思います。
私自身もこのマニュアルを参考にして少し自らの生活を振り返ろうかと思っています。
家族全員でやると、きっともっと面白いでしょう。
どうですか。この正月にみんなでやってみませんか。
昨今の時代状況を考えると、みんなそれぞれにライフレビューしてみることが必要ではないかと思います。
みんな、こんな社会にしようと思っていたはずではないのですから。

ちなみに、この本を使ったライフレビュー・セラピーのセミナーも1月と3月に予定されています。
お知らせのコーナーに掲載しておきますので、よかったらご参加ください。


■「HRMマスターコース 人事スペシャリスト養成講座」
須田敏子 慶応義塾大学出版会 3200円(税別)

須田さんが本格的なテキストを出版しました。人事問題に関心のある人にはお勧めです。
須田さんは、このホームページにでも何回か登場していますが、英国で7年、人事管理を研究されてきました。
昨年帰国され、今は青山学院大学大学院の助教授です。
英国での事例はもちろんですが、日本の事例もたくさんご存知の研究者です。
須田さんも本書のまえがきで書いているように、日本ではアメリカ流のMBAが今もって人気がありますが、
それを生かすためにも、もっと専門的なコースでの学びが必要になってきていると思います。
とりわけ重要なのがHRM、Human Resource Managementです。
人を活かせるかどうかが、これからの企業の業績を規定していくからです。
須田さんは英国でHRMの専門マスターコースで学び研究してきましたが、その成果を踏まえてまとめたのが本書です。
本書の解説文を引用させてもらいます。

グローバル化時代に活躍する人事スペシャリストを目指す人のための本格テキスト。
ビジネススクールで学ぶ人材マネジメントの専門マスターコースがこれ一冊で理解できる画期的な書。
人事の全体戦略や個別人事制度のシステム設計と運用に関する分野から、
労働組合や労使協議会など集団的な労使関係に関する分野、人事管理に関する法律分野、
さらにこれらの前提となる人間理解のための組織行動分野、セレクションやアプレイザルなどで用いる数多くの技法に関する知識まで、
人事担当者に求められる知識・スキルを範囲は広く紹介する。

じっくりと読むべき本ですが、内容は実践的で、しかも読みやすい構成になっています。
最新の理論や情報も紹介されています。基本的な姿勢は、「自律型人材育成」です。
これからの企業にとって必要な人材は、自律型人材であり、
そのためにしっかりした体系的な知識とスキルを習得させることが不可欠であると著者は考えています。
単なる個別の手法論ではなく、人を活かすためのスキームと方法が体系的に学べますから、
自らのHRM論を再編集していくための基盤づくりに最適の好著だと思います。
私も久しぶりにHRMを体系的にレビューさせてもらいました。

著者自らが学んできた体験を踏まえての著作であるおかげで、
本書の構成は、読みやすいばかりでなく、問題意識を持ちやすく、また段階的に関心を深められる工夫がされています。
たとえば最終の第5部は、「組織行動のHRMへの応用分野」なのですが、
ここは「コンピテンシー」「アプレイザル」「セレクション」の3つの章からなっています。
このそれぞれのテーマは、すでにそれまでの章で整理されているのですが、
それを踏まえて、今度は極めて実践的に語られています。
しかも、それらがきちんとつながるような形で解説されているのです。
つまり単なるスキルの解説にならずに、HRM視点から読み取れるようになっています。

体系的であるということは、個々のテーマに関してはやや物足りなさを感じますが、それは著者も前書きで明言されています。
このテキストを読み込んだ上で、個々のテーマを掘り下げて読んでいくと、効果的な理解ができるはずです。
もう少し知りたいという余韻は、学習意欲を高めます。
本書はHRMを考える上でのガイドブックと言ってもいいかもしれません。

最近、企業の方と話していて、こういう基本的なスキームが軽視されているのが気になっています。
研究者にはもちろんですが、企業の経営幹部の方にも、これまでの体験をレビューする意味でぜひお勧めしたい1冊です。
ちなみに須田さんは「日本型賃金制度の行方」も書いています。

■「私のだいじな場所―公共施設の市民運営を考える」
市民活動情報センター・ハンズオン埼玉  1000円

コムケア仲間のハンズオン埼玉の「協働→参加のまちづくり市民研究会」がまとめた報告書が出版されました。
テーマは「公共施設のあり方」ですが、最初に書かれているメッセージが本書の内容を生き生きと伝えています。

そこに行けばホッとできる、
仲間に会える、
新しい出会いがある、
そこに行けば「明日もなんとかなるよ」って思える
・・・・・・そんな場所をつくりたい。

そう思う私たちから、
同じように思っているあなたへの
ささやかなエールとして
この本をつくりました。

さまざまな「魅力的な場所」の紹介があります。
里山、プレーパーク、子どものまち、公民館、広場、ケアセンター、年中行事など、
新しい社会のあり方を視野におきながら、研究会のメンバーが自分たちの言葉で紹介してくれます。
いずれも新しい主張と実践がある公共空間モデルです。
しかも、その合間に示唆に富むメッセージがふんだんに送られてきます。

本書を貫く考え方は、編集長の西川正さんが書いている「はじめに」に明確に読み取れます。
それは「官か民かを超えて」新しい公共空間をみんなで創っていこうという発想です。
私の発想と重なっています。

大きな福祉やまちづくりに関心のある方、特に自治体の職員の皆さんにはぜひ読んでほしい本です。
注文は次のサイトからできます。
http://www.hands-on-s.org/blog/2005/11/post_6.html

 



■「日露戦争 勝利のあとの誤算」
黒岩比佐子 文春新書 890円

黒岩比佐子さんがまたとても興味深い新書を出版しました。
今度はなんと日露戦争の後の「日比谷焼打ち事件」がテーマです。
ポーツマス講和に反対した国民が起こした2日間の帝都騒擾事件で、
それを契機に、言論統制が強化され、日本は戦争の時代へと進んでいった、歴史的な事件です。
司馬遼太郎は、この暴動が、それからの40年の魔の季節への出発点ではなかったかと考えていたようです。
そして黒岩さんも、この事件が近代日本の一大転換期だったといっています。
私はこの事件を知りませんでした。
黒岩さんが着目してくれたおかげで、私もこの事件とそこから始まった日本社会の変質を知ることができました。
そこには今現在の状況を理解し、これからを見通す大きなヒントが含意されているように思います。
黒岩さんは、あとがきで、
本書は、日露戦争直後の激動の日本を、百年の視座で描こうとした試みである
と書いています。著者としての思いが伝わってきます。

大きな流れに重なるように、いくつかのサブテーマが絡み合っています。
たとえば政府と新聞の関係、新聞の大衆操作、新聞人たちの生き様など、そのいくつかはそれだけでも一冊の新書になるでしょう。
昨今の政治状況や社会状況と重ね合わせて読んでもとても面白いですが、
黒岩さんらしい、丹念な文献調査を踏まえていますので、
大きな流れの中に出てくる小さな挿話や現代の有名人とのつながりなども、実に生き生きとしていて興味深いです。

ブログにも書きましたが、私がとても印象深かったところをひとつだけ紹介します。
ロシア人捕虜に対して日本人は極めて寛容で親切な対応をしていたようです。
その文化はその後、変質し、次第に捕虜虐待へと変わっていくわけですが、
日本にそうした「ホスピタリティ文化」が明治前半まであったことを知って、とてもうれしい気分になれました。
その文化は間違いなく、今も日本社会の根底に流れています。
しかし一方で、捕虜になって帰還した同胞には日本社会は極めて厳しかったようです。
黒岩さんは「生きて虜囚の辱めを受けず」という、1941年に全陸軍に下されたあの戦陣訓が招くことになる悲劇のプロローグは、「この時点」から始まっていたと書いています。
外国人捕虜には優しく、捕虜になった同胞には厳しい文化は、別個のものでなくセットのものでしょうか。
私にはとても気になる問題です。

ちょっと読み応えのある新書ですが、皆さん読んでみませんか。
これからを考える示唆もありますし、なによりも面白いエピソードや雑学の宝庫でもあります。
加山雄三や小泉純一郎の名前まで出てきます。もちろん村井弦斎も出てきます。
お時間の許す方はじっくりとお読みください。

なお、黒岩さんのブログに執筆動機などが詳しく書かれています。
この文章だけでもぜひお読みください。
http://blog.livedoor.jp/hisako9618/archives/50146881.html



■「あなたの子どもを加害者にしないために」
中尾英司 生活情報センター 2005 1500円(税別)

コムケアの公開選考会でお会いしたのが中尾さんです。
そして著書をもらいました。それがこの本です。
副題に「思いやりと共感力を育てる17の法則」とあります。

子育てを通して自分の深淵が見えるということに私も最近漸く気づいてきたのですが、
そんなこともあって表題に惹かれて気楽に読み出しました。
しかし、読み出した途端に、中尾さんのするどいメッセージが心に深く突き刺さり、一気に読み終わってしまいました。
実に多くのことに気づかされる書です。
この本に出合えたことを深く感謝します。
子育てももちろんですが、人との関係性を考える上で、最近うすうす感じていた私自身の問題を正面から指摘された気がします。
自分への嫌悪感と自己変革の可能性への希望と言う、矛盾した二つのメッセージをもらった気がします。

あまりにも個人的な感想を書いてしまいましたが、すべての人に読んでほしい本です。
少なくとも子育てに取り組んでいる人には是非とも読んでほしいです。
この本の題材になっているのは、酒鬼薔薇事件を起こした少年とその両親の話です。
私はこういう事件が生理的にだめで、事件そのものに関する報道や論評をほとんど読んでいませんでした。
そして特殊な事件と考えていました。
私が座り直して一気に引きずり込まれたのは、読み出してすぐの15頁目です。
そこには、事件を起こした少年と母親とが事件後に初めて面会した時の様子が、母親の手記から紹介されています。

(少年は)「ギョロッとした目を剥いた」「すごい形相」で抗議すると同時に、その目からは涙が溢れていました。
同時に溢れた二つの激情。母親は、「心底から私たちを憎んでいるという目」を見てショックを受けます。
そして、少年を「じーっとただ見つめて」観察し、ボロボロと涙をこぼしているのを見て、「これ」とハンカチを渡そうとします。
少年は、そのハンカチを「バーンと激しく払いのけ」ました。

中尾さんはこの情景に、問題の本質を読み取り、そこからさまざまなことを読者に気づかせてくれるのです。
その眼差しはまさに温かな人間の目であり心です。
そして、私たち親への厳しいメッセージを出してくれます。
少なくとも私は、中尾さんのメッセージを心の底まで実感させられました。
消化できるかどうかまだ自信はないのですが。

子育てだけの話ではありません。これは社会のあり方にも大きな示唆を与えています。
いや、私自身の生き方を改めて考えなければいけないと思い知らされました。
まだまだ私には観察者からの脱却できない自分、生理的に拒否するものから逃避してしまう自分がいます。
少年の母親とどれほどの違いがあるか、自信がありません。
大人になることを極力忌避してきたつもりですが、もう十分に大人になってしまっているのかもしれません。
様々なことを考えさせられてしまいました。
そして、ちょっと違った一歩を踏み出す契機をもらいました。
中尾さんに感謝しています。

中尾さんは、たくさんのサイトを持っています。
あなたの自律支援COM
http://www.jiritusien.com/index.htm#kankyo
組織改革ご支援COM
http://www.jiritusien.com/sosikikaikaku/index.htm
などはいずれも示唆に富む内容が満載です。

ともかく今はたくさんの人にこの本を読んでほしいと思っています。
第一章だけでもいいです。ぜひお読みください。
感想をきかせてもらえれば、もっとうれしいです。

■「子育ち支援の創造」
小木美代子、立柳聡、深作拓郎、星野一人編著 学文社 2005 2400円(税別)

編著者の一人、星野さんの紹介文を先ずはお読みください。

この本は、「社会教育研究全国集会」で行われている「子ども分科会」の世話人が中心となって編集したものです。
私たちは、子どもを育てるおとなに対する支援=「子育て支援」だけでは不十分で、
実際に子どもたちに寄り添いながら、子どもたちの育ちを側面から支援していく=「子育ち支援」が大事であると主張してきました。
この本もそうしたスタンスで書かれており、地域での子どもの育ちをどう見るのか、
どういう支援が必要とされ、今行われているのか・・・といった点に迫るべく、東奔西走してきました。

星野さんが言うとおり、全国各地の子育ち支援の動きが豊富に語られています。
そして、それらの背景にある、社会教育の動きを「理論編」と「実践編」に分けて、年代別に丁寧に整理してくれています。
研究書としても、実践事例集としても、読み応えのある本です。

星野さんも書いていますが、本書の底に流れる姿勢は、子育て支援ではなく、子育ち支援です。
「子育ち」という言葉は、今でこそ厚生労働省でも言い出していますが、言い出したのはこのグループなのです。
そこにはしっかりしたパラダイムシフトがあります。
言葉だけの対応ではありません。
ぜひそのエッセンスを読み取ってほしいと思います。

今回、私が感心したのは、最初の章「グローバリゼーションのもとでの日本の政策動向・概論」で小木さんが、
昨今のITに支えられたネオリベラリズムへの警告を出していることです。
しかも補論で、ブッシュのイラク攻撃を批判しています。
まさか、小木さんがそういう話をする方だとはこれまで思ってもいなかったのです。感激しました。

子育てとイラク攻撃、無縁のようですが、私もまさにその二つのつながりを強く感じている人間です。
そして、子育ち環境を壊しているのは、ネオリベラリズムを大義名分にした「民営化論者」であり、政財官学のシンジケートだと思っています。
私が「学」を信じないのは、現場を対象化しているからです。
本書を読んで、学の世界にもまだ良識が残っていることを知ってとてもうれしいです。

それはともかく、子育て関係者にはぜひ読んでほしい本です。
装丁はWAPの高橋雅子さん。コムケア仲間です。とてもやさしい想定です。

なお、この本の書き手と読み手を中心にした、公開フォーラムが12月18日に開催されます。
私も参加する予定です。著者たちとも話し合う交流会も予定されています。良かったらご参加ください。
案内をお知らせに掲載しておきます。


■「ボランティア・セラピー」
木原孝久 中央法規 2005年 2000円

住民流福祉の元祖、木原孝久さんの新著です。
木原さんは、福祉とかボランティアの世界にパラダイムシフトを持ち込んだ人です。
しかも素晴らしいのは、そのパラダイムシフトは木原さんの実践から生まれ、実践を通してさらに具現化していることです。
書名でわかるように、ボランティアのセラピー効果が本書のテーマですが、これは実践者にはすぐ共感できることでしょう。
寝たきりになっても、認知症になっても、だれでもが「人に尽くしたい」という思いを持っている、と木原さんは言います。
そして、人に尽くすことで、元気になっていく、つまりセラピー効果が出てくると言うのです。
私たちもよく体験することです。

木原さんは、また、「人にやさしい社会」ではなく、「人を活かす社会」を目指すべきだと言います。
福祉の対象にされてうれしいと思う人はいないでしょう。
みなさんはどうですか。うれしくないでしょう。
それを基本に考えれば、いまの「上からの福祉」のおかしさに気づき、木原さんの主張する住民流福祉に共感するはずなのですが、
なぜか木原思想はなかなか広がらないのです。
きっとみんな他人事で考える思考回路をしっかりと叩き込まれてしまっているのでしょうね。
しかし、いざ自分がその立場になれば、みんな気づくはずです。
小泉内閣の悪政も同じなのですが。
これは蛇足です。はい。

人を活かす社会とは、相互に支え合う社会でもあると思います。
私が目指すコムケアの理念、共創型相互支援社会です。
支援する人と支援される人を分ける社会は、勝ち組みと負け組みを分けるのと同じく、持続はできません。

最近、このコーナーで推薦した「ハートフル・ソサエティ」(一条真也)の中に、
生命が進化する条件は「相互扶助」にあることを確証したピョートル・クロポトキンのことが書かれています。
農村の共同牧草地から中世のギルドにいたるまで、 人々が助けあえば助けあうほど、共同体は繁栄してきたと、
クロポトキンは論じているそうですが、
これは今でも、そして未来にも通用する真理でしょう。
ここにこそ、ソーシャル・キャピタルの本質があると私は思います。

なにやら難しいことを書いてしまいましたが、この本は木原さんらしく実例がたくさん出てくるので読みやすくわかりやすいです。
最近、お薦めの本が多くて気が引けますが、ぜひお読みいただきたい1冊です。


■「経営と技術のための企業倫理」

杉浦泰治 丸善 1900円

NPO科学技術倫理フォーラムの代表でもある杉本さんは、技術者、経営者を経て、大学で法律を学び、
現在はその3つのテーマを統合する視点で、技術者倫理の問題に取り組んでいます。
すでにこの分野ではとてもいい大学のテキストも出版していますが、
この本は企業の経営者や技術者に向けての杉本さんからのメッセージです。

本書のスタイルにも杉本さんらしい工夫がされています。
開くと右側が縦書き、左側が横書きなのです。
時間のない人は縦書きの右側を読めばいいのですが、左側はその解説や補足資料が出ています。
事例がふんだんに紹介されているのも本書の特徴ですが、
私自身はそれ以上に、企業倫理の問題を根本から、しかも多角的に考えていこうという杉本さんの姿勢に、本書の特徴を感じます。
読み込めば読み込むほどに、示唆を得られる本といっていいでしょう。

私が一番共感を持ったのは、次の文章です。

技術に直接の責任を負うことができるのは、技術者である。
技術者が「道具」ではなく、責任を問われる「人」として位置づけられなくてはならない。(228頁)

なんということのない当然の文章ですが、本書をここまで読んだ上で、この文章を読むと実に腹の底に伝わってくる文章なのです。
そして、ここから現在の会社制度と技術者意識の「解放」が議論されていきます。

研究者でもあり、実践者でもある杉本さんのメッセージには説得力があります。
ぜひ企業の経営者や技術者には読んでもらいたい本です。

一度、技術者は道具か人かという議論を、杉本さんをゲストに呼んでやってみるのも面白いかもしれません。
関心のある方がいたら企画したいと思います。


■「ハートフル・ソサエティ」
一条真也 三五館 1500円

一条真也さんが戻ってきました。
執筆を再開されたのは昨年で、昨年も2冊の新著「結魂論」「老福論」を書き下ろしましたが、まだ本来の一条さんらしさを感じませんでした。
今回の新著は一条さんらしい大きな構想に基づく魅力的な新作です。
一条さんからの手紙によれば、「ハートフル・マネジメント」「ハートフル・カンパニー」へと続く「平成心学三部作」の幕開けの書です。
待ち望んでいた著作です。

私が一条さんと出会ったのは、たぶん北九州市でのホスピタリティをテーマにしたフォーラムだったと思います。
もしそうなら10年前です。すでにその時、一条さんは執筆活動をやめて経営者業に専念していました。
彼の何冊かの著作を読ませてもらい、その広がりと深さに驚きを感じていた私は、ぜひ執筆再開を望んでいましたが、
いよいよ本格的な執筆が再開され、とてもうれしいです。
この間、会社経営を体験され、新たな視点が吹かされているはずですから、自作以降への期待も高まります。

3部作の1作目にあたる本書は、ドラッカーの「ネクスト・ソサエティ」での問題提起に対する具体的な回答書だと著者は位置づけています。
著者の意気込みが伝わってきますが、読み終えてその思いがとても納得できました。
これほど全面的に共感できた本は、あまりありません。
一条さんのこれまでの本には、時々異論も感じたのですが、本書に関しては全面的に共感します。
この考えを具体的な企業経営に発展させていく次作が実に楽しみです。

私も20年ほど前に「21世紀は真心の時代」という小論を書き、
当時所属していた東レで「真心集約産業」や「デディケイテッド・マーケティング」などを提案したりしていましたが、
この本はそんな上っ調子な論調ではなく、実に生真面目に理論を整理し、心豊かな社会のデザインを描いています。
高齢社会の指針としての実践的な示唆にも富んでいます。
内容の密度が高いので容易には要約できませんが、熟読されることをお勧めする好著です。
視野も広いですが、それらが見事につながっています。

一条さんは、本文で、
21世紀における私たちの課題というのは、共同体の新しい形を構築していくことなのだ(87頁)。
と述べています、そしてそのモデルの一つとして、結いや講をあげています。
全く同感です。
私が取り組んでいるNPO活動やまちづくりは、すべてその視点に立っています。
このシリーズは企業経営へと書き進められていく予定ですが、
新しい共同体社会への展開もぜひ期待したいと思っています。
本書は、そうした新しい大きな物語のプロローグです。

ちょっと褒めすぎの感もありますが、今読み終えて、実に心がワクワクしていますので、仕方がありません。
本の内容は、出版社のサイトで見てください。
ともかくお勧めしたい1冊です。

これを読んで、改めて昨年の2冊を読むとまた違った印象になるかもしれません。

コモンズ書店での購入

■「戦争が終わってもーぼくの出会ったリベリアの子どもたち」
高橋邦典 ポプラ社 1365円

以前、ご紹介したアメリカ在住の写真家、高橋邦典さんの写真絵本の2作目です。
前回の「ぼくの見た戦争」はとても好評で、私のところにも反響がありました。
今回は、高橋さんがリベリアの内戦中に出会った子供達数人のその後の生活を追ったドキュメンタリーです。
私には前作以上に考えさせられるものがありました。
前回もお知らせしましたが、高橋さんのホームページもぜひご覧ください。
とてもライブな動きのある写真からさまざまなメッセージが受け取れます。
写真集は説明を書くよりも見てもらうことですね。
書店にまだ出ているはずです。ぜひお手にとって見てください。

http://www.kuniphoto.com
http://www.jmag.com/kuni.html (kuni journal)

■「幻都バンティアイ・チュマールの神々」
BAKU斉藤 梧桐書院(03-5825-3620) 3500円

このコーナーは、原則として、私の友人知人の本に限って紹介しているのですが、この本とのつながりはデザインを担当したのがインキュベーションハウス仲間の宮部浩司さんです。
オフィスで宮部さんが作業しているので聞いたら、この本は関心を持った人たちのボランタリーな活動に支えられて出版が実現したのだそうです。
そういう話には参加しないわけには行かず、私はささやかにホームページなどでPR面の協力をすることにしました。
ちょっと高価で、ちょっと特殊ではありますが、よろしくお願いします。
お近くの図書館などにもお勧めください。

ところで、幻都バンティアイ・チュマールとはカンボジアのクメール遺跡のあるところです。
BAKU斉藤さんは10年以上前からカンボジアでクメール遺跡の撮影に取り組んでいる写真家ですが、
特にアンコール地域に残る顔面塔の撮影では国際的にも評価されている人だそうです。
最近、発見されたタイ国境近くの2つの遺跡群の一つがバンティアイ・チュマールですが、
この写真集にはそこと未だに森林の中にあるもう一つの遺跡の顔面塔の写真が収録されています。
それがどうしたといわれそうですが、表紙の写真をちょっと見てください。

楽しくなりませんか。ワクワクしませんか。ドキドキしませんか。
この笑顔を見たら他の顔も見たくなるでしょう。なりませんか?
写真集を見るとわかるのですが、この顔の背後に洗練した仏像スタイルの彫り物もあるのです。
私は最初、この顔面塔を見て、大日如来と11面観音の合体をイメージしましたが、なにやら親しみがもてませんか。
この写真集を見てから、どうもこの笑顔が目の前をちらつくのです。
すごくワクワクする顔ではないですか。
いや、これは私だけの感想ですかね。
でもまあ、是非とも近くの図書館に買ってもらって、じっくり眺めてください。
気分が晴れます。
いつかぜひ行って見たい気が高まっています。

■「モノづくり維新! 山口発「超」ベンチャー企業」
上坂且 日本地域社会研究所 1524円

週間報告で紹介した上坂さんの新著です。
山口県を拠点に活躍している、世界オンリーワンを目指す13の超ベンチャー企業の紹介と、それを支える人々の情熱と涙の開発物語です。
上坂さんは長年、山口県で地場企業と付き合いながら、その技術や事業を応援してきました。
上坂さん自信も、かつては企業の開発者でしたから、その思いや苦労が痛いほどわかったはずです。
そうした体験から、ともかくもっとみんなに知ってほしいというのがこの本に取り組んだ動機です。
上坂さんは「始めに」で、こう書いています。

すべての開発の発端は「感動」に始まります。
「ロマン」と、その夢を実現する精神的エネルギー「熱意の持続」は開発成功の必須条件です。
これは、わたし自身が長年商品開発の仕事につき、また多くの企業と間近に接してきて得た結論であります。

この本に取り上げられた事例にはもうひとつの特徴があります。
登場する開発者の多くが団塊の世代だと言うことです。そこで上坂さんは、こうも言います。

これまで日本の経済発展を支えてきた多くの団塊の世代の人たちが、
それぞれの地域でこぞって奮起すれば、地域の活性化はもとより「ものづくり日本」は復活するでしょう。

マスコミからはなかなか伝わってこない、地域のパワーを感じることができます。
ご関心のある方が何人かいれば、上坂さんを囲む会をやってもいいかと思っています。関心のある方はご連絡ください。
その前にまずは読んでもらえるとうれしいですが。

■「NPOと社会をつなぐ―NPOを変える評価とインターメディアリー」
田中弥生 東京大学出版会 2800円(税別)

田中さんとは15年以上前からのお付き合いです。
最初の出会いのテーマは「コーポレートシチズンシップ」。
一緒に新しい保育システムの開発に取り組んだこともありますが、いまや東大大学院の助教授です。
それも男性職場の工学系です。
また本を出しました。田中さんがこの数年、じっくりと取り組んできたテーマです。
内容はかなり熟成させていますので、安心して読めます。
いささか難しいのは田中さんの気負いがまだ抜けていないからですが、その分、彼女の思いも伝わってきます。
たとえば、「はじめに」を田中さんはこう締めくくっています。

1990年代前半から、私はインターメディアリーを学んできたが、
これらの実例が教えてくれたのは、単なる仲介機能ではなく、"ビジョンある社会装置"の存在であった。
そして、それは従来のNPO論では説明しきれず、新たなNPO論が必要であることも示唆していた。
次なるチャレンジの予感をもって本文のむすびにした。

彼女の取り組みを横からずっと見てきたものとして、この思いは良くわかりますし、単なる言葉だけではないことも確信できます。
NPOが広がりだしてから研究を始めた多くの大学教授とは違って、
田中さんはそのかなり前から現場をしっかりと見ながら実践的に問題意識を深化させてきたのです。
そうした大きな視野の中でまとめられたのが本書です。
事例も多いですし、分析の視点にもオリジナリティを持ち込み、具体的な評価手法に関しても丁寧に書き込んでいますので、
実践者にも研究者にも興味をもってもらえるはずです。
読み応えがあります。

ちなみに、私が取り組んでいるコムケアセンターも、ささやかながらNPOインターメディアリーを目指していますが、
ビジョンは社会のリフレーミングと価値創造です。
そういう立場から現状を評価すると、日本のインターメディアリーにはまだ不満があります。
本書で方向づけられたビジョンに基づく具体的な社会デザインと新たなNPO論を早く読みたい気分です。
次の著作が待ち遠しいです。

しかし、実践者であれば、そうしたことに関しても、本書からさまざまな示唆が得られるでしょう。
NPOが社会を変革していくと考えている方にはぜひお勧めの1冊です。

■「榛名山麓みどりの大学―夢と挫折から将来へ」
太田敬雄 サンジョルディ(オンデマンド出版) 1200円

コムケアで知り合った太田敬雄さんは実践する構想家です。
毎年、高崎でひだまり交流会も開いています。
日本構想学会でも時々お会いします。
根っからの教育者です。そして無邪気な童心を時に感じさせる哲学者でもあります。

今、日本の教育は危ないという批判は山ほどあります。
しかし今必要なのは批判ではなくて、どのような大学が必要とされているのか。
どのようにその大学を実現することができるのかの提案と実行です

というのが太田さんの姿勢です。
その信念のもとに、15万人の人からの寄付によって、みんなの大学を創ろうというのが、「榛名山麓みどりの大学構想」です。
提唱者の太田さんは「民立大学」といっています。みんながお金を出し合って創る構想です。

趣意書が出されたのが2000年です。
創設者の会もできました。太田さんが主宰されている国際比較文化研究所の中に事務局をおいて、活動を始めました。
みんなで納得できる大学を創りたいという太田さんの夢が動き出したのです。
しかし残念ながらなかなか資金は集まりませんでした。資産家に出資してもらうのでは太田さんの夢とは違うものになってしまいます。そうした申し出もあったようですが、太田さんは15万人の人が納得して2万円ずつ出資することを目指していたのです。
立地は榛名山麓を目指していました。

しかし、15万人を集めるのは大変です。
残念ながら、活動は難航し、計画を見直すことになりました。
この本は、その中間報告です。副題に「夢と挫折から将来へ」とあるように、太田さんは諦めてはいないのです。
太田さんの記録が、「アースデイ環境出版大賞 in 愛・地球博」で、オンデマンド出版賞に選ばれて、オンデマンド出版されたのがこの本です。
太田さんの構想に関心のある人、太田さんを応援したい人は、ぜひ本書を購読してみてください。
太田さんの思いと夢がよくわかります。
もし購読したい方がいたら、太田さんにメールで発注してください。
送料ともで1200円で送ってくださるそうです。
太田さんへのメールは、ここをクリックしてください。
書籍代の一部は太田さんたちの活動に寄付されます。

太田さんの国際比較文化研究所のホームページもぜひご覧ください。

■「国際主婦学部卒」
竹澤泰子 自費出版 1000円(送料210円)

竹澤さんは前橋市でさまざまな活動をしているコムケア仲間の一人です。
私の直接の接点は、カドリーベア・デン・イン・ジャパンというNPOの代表としての竹澤さんです。
犯罪被害者にテディベアを贈ろうというプロジェクトに共感しました。
残念ながらそのプロジェクトでは支援大賞には選ばれなかったのですが、竹澤さんは昨年、癒しのテディベアーコンテストを開催してくれました。
私も参加させてもらいました。
その記録があると思って週間記録を探したのですが、なぜかありません。
とても印象的なイベントでしたので書いているはずですが、時々、こうして大きな記事が抜けていることがあります。
残念です。そのイベントでお会いした何人かの方の記録もあるはずなのですが。

それはともかく、竹澤さんのこの1年は大きな変化に見舞われた年だったと思います。
そのイベントの1か月前にパートナーを見送ったのです。
そして、それから1年以上、連絡が途絶えました。とても気になっていました。
週間記録にも書きましたが、今週、1冊の本が届きました。それがこの本です。
書き出しはこうです。

二人合わせて140歳のバースデイを企画中に夫は旅立ちました。
73歳の誕生日の1週間あとのことでした。
共有した43年間の年月は、私達に何を残してくれたのだろう。
ひたすら走ってきた道を振り返ってみると、いろんな形をした二人の足跡で詰まっていました。

この本は竹澤さんのこれまでの活動をまとめたものです。
結婚のこと、ボストンでの14年間の生活のこと、日本に戻ってきてから「恩返し」として取り組んだ法廷通訳や調停委員、
大学での非常勤講師での体験、そしてNPO法人カドリーベア・デン・イン・ジャパンのこと、それらが竹澤さんらしい勢いのある文章で生き生きと報告されています。
ちょっと感傷的なエピローグもついています。

この本はカドリーベア・デン・イン・ジャパンの活動資金を集めるために書かれました。
1冊1000円(送料別途210円)で購入してもらって、NPO活動基金にしたいそうです。
もし関心を持っていただけたら、あるいは協力してもらえるのであれば、竹澤さんにメールでご注文ください。
竹澤さんへのメール



■「『偶キャリ。』偶然からキャリアをつくった10人」
所由紀 経済界 1429円

久しくお会いしていない福田敦之さんから本が送られてきました。
福田さんとはどこでお会いしたか今では思い出せないのですが、最近は手紙やメールだけのお付き合いになっていました。
しかし雑誌などの連載記事で福田さんの活躍ぶりにはよく触れていました。精力的に活躍されています。
福田さんご自身が本を出版されたのだと思って開いてみると、福田さんのパートナーの本でした。

福田さんからの紹介のお手紙によると、
「成功」や「勝ち組」を目指して計画的に作っていくキャリアだけでなく、
「いま」をきちんと生きて、人生の中で出会う「偶然」と真摯に向き合い、
しなやかにつくっていくキャリアがあってもいいのではないか、

というのが、所さんがこの本を書いた動機だそうです。
この考えは福田さんの思いでもあるようですが、まさに私の生き方そのものでもあります。

この本で初めて知ったのですが、「計画的偶発性(Planned Happenstance)理論)」というのがあるのだそうです。
そのポイントは
「偶発的な出来事を意図的に生み出すように、積極的に行動することでキャリアを創造する機会を生み出すことができる」
という考えで、米国のビジネスパーソンを対象とした調査では
「個人のキャリアは、予期しない偶然の出来事によってその8割が形成される」
という結果も得られているようです。

著者の所さんも指摘されていますが、最近の計画的管理的なキャリア形成発想には大きな不満を持っている一人としてはとても共感できます。
この理論の提唱者であるクランボルツ博士が先月来日されていたようで、福田さんからは著者と博士のツーショットの写真も送られてきました。

本書では著者はまず最近のキャリアブームへの疑問を投げかけた上で、Planned Happenstance理論を紹介し、
続いて「キャリアを意図的につくってこなかった10人の物語」でその理論をとてもわかりやすく解説してくれています。
そして最後に、著者としての整理とメッセージをだしています。
全体に読みやすくわかりやすく、それにとても元気が出る本です。

若い世代に特に読んでほしいですが、定年前後で新しい人生を開こうとしている世代の人たちにもお勧めです。

ちなみに、私の知人の内海房子さんも10人のお一人に取り上げられていました。
15年ほど前に個性的な企業人を集めた研究会をやっていましたが、内海さんはその時のメンバーの一人でした。
その後NECの初の女性人事課長になり話題になった人です。
内海さんの人柄を少しは知っている一人として、所さんの取材力と編集力にも感心しました。

さて、「偶キャリ」は流行語になるでしょうか。

■「日本人の宗教『神と仏』を読む」
黒塚信一郎 かんき出版 2005年 1400円

かんき出版の編集者、藤原雅夫さんが手がけた本です。
日本人は無信教とよくいわれますが、日本人ほど信仰心が篤く、宗教を日常化してきた民族はいないのではないかと私は思っています。
しかし、その宗教はどうも不定形でとらえにくかったのですが、この本を読んで非常にすっきりしました。
本書では、神と仏の成立の歴史がわかりやすく、しかも本質を示唆しながら簡潔にまとめられています。
しかも、そこに今の日本社会の基本的な問題や新しい国家のかたちが示唆されています。
いま起こっているさまざまな問題を考えるための視座も与えてくれます。
私はやや過剰に、組織起点ではなく個人起点の国家にもう一度戻るべきだというメッセージすら受けてしまいました。

明治政府という新しい国家が、それまでの日本古来の神や仏を葬って、新たな「神」を創りだした政治的事情がよくわかります。
それを推進したひとつが、生活圏に立脚していた町村を国家統治の視点から合併していく明治の大合併です。
神社もまた「神社合祀令」によって合併され、習俗的な神仏が否定されていったわけですが、そのあたりの事情がよくわかります。
著者は明言していませんが、それこそが日本社会を変質させてきた最大の原因でしょう。
そしていままた、同じような思想での市町村合併が進められています。
最後に書かれている著者からの次のメッセージにとても共感します。
読みやすい本ですので、ぜひ読んでみてください。

伝統的な神仏殺害の報いが、道徳性の崩壊という形で徐々にあらわれてきているのだろうか。
もう一度、神と仏について考えてみたいものである。

■「中山間地『介護ネットワーク』形成をどう見るか」
宮田喜代志 明篤館で頒布(500円)

コムケア仲間の宮田さんがある雑誌に連載していたものを小冊子にまとめたものです。
これまでも宮田さんの論文は読ませてもらっていましたが、改めて彼のまとめたものを読ませてもらいました。
とても面白いです。
テーマがちょっと特殊だと思われるかもしれませんが、
副題が「農村高齢者福祉の新しい担い手像」となっているように、
これからの地域福祉を考えるヒントがたくさんあります。
そしてそれ以上に伝わってくるのは、実践と研究に並行して取り組んできた宮田さんの思いの広がりと深まりです。
具体的な事例を材料に、しかしそこで語られていることはきわめて普遍的な考え方なのです。
それが豊かな表情を持った言葉で語られています。
決して中山間地や農村の話ではないのです。とても示唆に富む小論集です。

市販されていないので入手が難しいですが、宮田さんに頼むと分けてもらえるのではないかと思います。
もし是非という方がいたら、私にご連絡ください。
いつか宮田さんには、さらに論考を深めて、本にしてもらいたいと思っています。

■「恵みのとき−病気になったら」

晴佐久昌英 サンマーク出版 1200円 

週間報告に書きましたが、NPOライフリンクの鈴木七沖さんからもらいました。
鈴木さんが、ドナー家族の会の記念祭で、この本の詩を読み上げてくれたのです。
すばらしい詩です。

作者が病気のときに書いた1篇の詩が、人から人へと読み次がれ、全国に広がったのですが、
それに森雅之さんが絵をつけて1冊の本にしました。
詩作の背景をつづった「泣いてもいいよ」という作者の思いも収録されていますが、心を打たれます。
涙もろくなっている私は、電車の中で読んで、涙が出ました。電車ではよまないほうがいいです。

書名は「恵みのとき」、そして詩の題は「病気になったら」。
つまり、「病のときは恵みのとき」というメッセージです。その1文が詩の最後になっています。
全文を書くことはできませんが、最初の4行くらいであれば、許してもらえるでしょう。
引用させてもらいます。

病気になったら、どんどん泣こう
痛くて眠れないといって泣き
手術がこわいといって涙ぐみ
死にたくないよといって めそめそしよう

いかがでしょうか。
もう下手な紹介文は不要ですね。
続きを読みたい人はぜひ購入してください。
この詩は、きっとたくさんの人を救ってきたと思います。


■「社会教育・生涯学習入門」
深作拓郎 三恵社 1200円(税込)2005

子育ち学ネットワークの深作さんはいま、2つの大学で教鞭をとっていますが、
そのテキストもかねて、社会教育概論をまとめたのがこの本です。
「人はなぜ学習するのか」からはじまり、終章は「子どもの育ちと社会教育」まで、
社会教育や生涯学習の歴史から方向性、社会的意義や問題点などが、体系的にわかりやすく編集されている好著です。
入門書ではありますが、著者の価値観や問題意識もしっかりと読み取れます。メッセージも感じます。

深作さんは社会教育をライフワークにしている新進気鋭の実践者であり、研究者です。
私は美野里町での文化センターづくりの時に出会ったのですが、いつの間にか彼の活動に巻き込まれてしまっています。
そのひとつが、週間報告でも書いているように、彼が中心の一人でもある子育ち学ネットワークです。
その一方で、私が取り組んでいるコムケア活動には彼を引き込んでおり、
コムケア仲間のホスピタルアート活動には深作さんも学生と一緒に参加してくれています。

ホスピタルアートと言えば、深作さんはまた、アートマネジメントの分野でも活躍しています。
美野里町ではとてもいいプログラムを推進しました。

社会教育や生涯学習は、私もとても関心を持っていますが、それはそれらがまちづくりそのものだと思っているからです。
問題は、その分野でイニシアティブをとるのは誰かです。
国家主導の、これまでのような統治的な教育姿勢で行くのか、
個人起点の民主的な学習重視でいくのかによって、まったく違ったものになるでしょう。
そうしたことを考える材料が本書にはたくさん書かれています。

大学のテキストとして書かれているので、ちょっとかたい感じですが、逆にとても読みやすく、簡潔です。
大学生に限らず、ぜひとも自治体職員の方々にも読んでほしいですし、
これから住民活動に取り組んでいこうという方にも、地域返りの入門書として読んでほしい本です。

深作さんには、ぜひとも今度は事例をふんだんに入れた一般の人向けの読み物風新書を書いてもらいたいと思いますが、
とりあえずはこの本も推薦します。
もし読んでみたいという方がいたら、ご連絡ください。深作さんをご紹介します。




■「家族と住まない家」
島村八重子+寺田和代  春秋社 2004 1700円

全国マイケアプラン・ネットワークの島村八重子さんはライターとしても活躍されています。
最近、友人と一緒に書いた本をいただきました。「家族と住まない家」です。
ちょっと書名が刺激的ですね。皆さん、気になりませんか。
家族と暮らさずに、誰と暮らすのか。
血縁に代わって置かれているのが「暮らし縁」です。
何かトートロジーのような気もしますが、「選択縁」とも表現されています。
この本では、実際にそうした縁に基づいて、他者と一緒に暮らしている10人の人の物語が紹介されています。
面白いのは、そのなかに、夫婦もいるのですが、それぞれが別の物語として登場していることです。
ちなみに、夫婦は家族予備軍でしかありません。
そうした家族でない人が住まいを同じくするということはどういうことなのか、このことは逆に家族とは何なのかを考えさせてくれます。
それはまた、新しい暮らし方の紹介でもありますが、同時に。生活空間としての住居づくりにもたくさんのヒントを与えてくれます。
ですから、家族論としても暮らし論としても、住居論としても興味深い内容になっています。
もちろん今の社会に対する問題提起も含意されています。

<暮らし縁>での気持ちよく一緒に暮らすための7つのポイントが上げられていますが、
「家族のような関係を理想としないこと」が、その第一にあげられています。
また「外部とのかかわりや交流を大切にしている」こともあげられています。とても意味深長です。

本書は、そうした生活を実践している10人の住まいと暮らしの物語なのです。
ついつい読んでしまいました。みなさんもどうでしょうか。

紹介記事が長くなりすぎたので、この本から触発されたことを別ページに書きました。
時間のある方はお読みください。

内容は目次をご覧ください。イメージが膨らんでくるでしょう。
もし膨らまないとしたら、かなり問題です。はい。

序 章 「家族と住まない家」のいま
第1章 大切なのは家の名より、関係
第2章 もうワンルームの暮らしには戻れない
第3章 コレクティブに暮らす、という新しい経験
第4章 住まいも仕事も、服を着替える感覚で
第5章 家族とは一瞬の状況である
第6章 あるべき暮らし、なんてない
第7章 共生の住まいに不可欠なのは対等な関係
第8章 自分の老後は、自分で設計したい
第9章 結婚をへて到達した「ひとりの愉楽」
第10章 ほどよい距離のなかで暮らす心地よさ
第11章 ひとりとみんなと。両方を大切にした住まい
第12章 「選択縁」のなかで暮らすということ
終 章 「暮らし縁」という名のまだ見ぬ未来

■「技術者の倫理入門」(第三版)
杉本泰治・高城重厚著 丸善(株)出版事業部 2005 1700円(税別)

「沈黙の春」を読む会のメンバーである杉本泰治さんと高城重厚さんが、
大学での講義のために書かれた本ですが、どんどん内容が進化しています。

基本テキストをどんどん進化させていくという姿勢にとても共感します。
私がそうした本づくりにスタイルを知ったのは、学生時代のサミュエルソンの「経済学」ですが、
日本の大学教授にはそうした真摯さが欠けているといつも思っていました。
杉本さんから、アメリカの基本テキストである「コーポレートロー」の話を聞いたときは感動しました。
その翻訳を日本でも実現したいという杉本さんの思いに共感し、出版社の友人に相談しましたが、実現できませんでした。
杉本さんは、それを自分たちで実現したわけです。
日本の経済学者や経営学者は、ぜひ考え直してもらいたいと思います。
テキストは決して消耗品ではありません。

まあ、それはそれとして、本書の紹介です。
出版社による紹介文を一部転記します。

「技術者倫理」の基本的考え方を平易に解説した定番教科書。
日米のさまざまな事例を取り上げながら、
社会的条件の違い、組織と個人の関係における日本の実状をふまえ、理解が得られるよう書かれている。
技術者倫理を、科学技術・法・倫理の三つの視点から捉える本書の考え方は、すべての技術者の参考になろう。

目次は下記の通りですが、ともかく技術者やMOTに取り組む人には読んでほしい本です。
一般の人が読んでも面白いですし、学ぶところがたくさんあります。
財界のリーダーたちにも読んでほしいです。少しは言動が変わるでしょう。
私は第1版から読ませてもらっていますが、内容の進化度は驚くほどです。
著者のお二人の誠実さと努力に敬服します。
テキストではありますが、すべての人にお勧めです。

第1章 モラルへのとびら
第2章 技術者と倫理
第3章 組織のなかの一人の人の役割
第4章 モラル上の人間関係
第5章 技術者のアイデンティティ
第6章 技術者の資格
第7章 倫理実行の手法
第8章 注意義務
第9章 法的責任とモラル責任
第10章 正直性・真実性・信頼性
第11章 説明責任
第12章 警笛ならし(または内部告発)
第13章 環境と技術者
第14章 技術者の財産的権利
第15章 技術者の国際関係


■「富と活力を生む! コミュニティビジネス」
大川新人+コミュニティビジネス研究会編 日本地域社会研究所 1524円

大川新人さんの最新作です。
今回は、コミュニティビジネスに焦点を当てています。

さまざまなコミュニティビジネスの支援に取り組んでいるコミュニティビジネスサポートセンター事務局長の永沢映さん、
実際に多摩ニュータウンでコミュニティビジネスに取り組んでいる富永一郎さん(NPO法人フュージョン理事長)と
堤香苗さん(潟Lャリア・マム代表)などの体験談などを中心に、
コミュニティビジネスとは何か、どう取り組んでいけばいいか、成功のポイントは何か、
などをわかりやすく実践的にまとめています。
前半は講演の記録ですのでとても読みやすいです。

この本のメッセージは、
企業中心の時代から地域中心の時代へと大きく時代が変わる中で、
誰でもがその気になれば、地域ビジネスを起こし、
地域を元気にすることができる、ということです。
皆さんも、その気になりませんか。

編者の大川さんは、コムケアの応援団の一人です。
彼からのメッセージをお読みください。
定年退職者の方々には、新しい人生のガイドになるかもしれません。
お勧めします。

大川さんからのメッセージをお伝えしておきます。

初心者向けのコミュニティビジネスの本です。
今後、団塊世代700万人が定年退職する"大定年時代"を迎えます。
そこで、地域に戻ったお父さんが、地域に密着した事業をおこない、
"地域のお困りごと"を解決する「コミュニティビジネス」が必要とされているのです。
コミュニティビジネスを成功させるためのノウハウがつまっている本です。


大川さんの前著「成功するNPO 失敗するNPO」もまだの方はどうぞ



■「『引きこもり』から『社会』へ」

荒川龍 学陽書房 2004 1500円(税別)

若者たちのそれぞれの新しいスタートを支援するニュースタート事務局で活動している引きこもり経験者、引きこもりの子どもを持つ親、支援スタッフなどの、それぞれの物語を赤裸々に紹介した本です。生き方を考え直す、たくさんの示唆が含まれています。
ニュースタート事務局はテレビなどでも紹介されたことがありますので、ご存知の方も多いと思います。不登校や引きこもりに苦しむ若者たちを、イタリア・トスカーナ地方にある農園に送り、農作業と共同生活を体験させようという「ニュースタート・プロジェクト」が、その出発点で、活動を開始してから、すでに10年以上たっています。

次世代人材育成研究会で、その代表の二神能基さんとお会いしました。その研究会で、私は「今の働き方や働きの場の仕組みに、若者を合わせるだけでは問題は解決しない」という主旨の発言を毎回させてもらっていますが、その発言に共感してもらい、二神さんが送ってきてくださったのが、この本です。
早速読ませてもらいました。自らの生き方を見直すたくさんの示唆をいただきました。
この本は、事実を淡々と語っているだけですが、そこからのメッセージはいろいろとあります。
ちょっと重い本ですが、大事なことを気づかせてくれる本です。

■「公民の協働とその政策課題」
傘木宏夫ほか 自治体研究社 2381円(税別)

地域づくり工房の傘木さんたちが書いた本です。傘木さんの担当した章は、「公共部門における環境NGO・NPOの役割を考える」です。傘木さんのまさに得意な分野の話です。
傘木さんの書いた本の良さは、環境ならずご自分の体験を踏まえたリアルな話が基本に置かれていることです。そして、ただ紹介するだけではなく、それを踏まえたメッセージがしっかりと出されていることです。言葉だけの知識本は退屈ですが、そうではないのです。
今回も傘木さんがご自身の住んでいる信濃大町での実践も踏まえて、環境NPOの役割をどうしたら高めていけるかを具体的に書いています。実践者ならではの知見を感じます。
他に、社会福祉事業における新しい公民関係や都市計画やまちづくりにおける協働、さらには公共性と公務労働などの話が取り上げられています。全体の基本論調は、統治から協治へ、です。

傘木さんの活動フィールドの大町に行った時に、傘木さんからもらってきました。
帰路に読ませてもらいました。
新しいまちづくりの動きをいろいろと実感させてくれる本です。

■「学校評価」
金子郁容編著 ちくま新書 680円

著者の一人である玉村雅俊さんから贈られてきました。
玉村さんとはソーシャルマネジメント研究会で先日お会いしてこの話をしたところでした。
最初の小項目に「与えられた学校」から「みんなでつくる学校へ」という小見出しがありますが、それがこの本の底流にある考え方です。
ソーシャル・キャピタルコモンズの話が出てきて、まさに私の発想にかなり重なります。

この本の扉に書かれているように、
本書では、「学校評価を学校・生徒・保護者・地域コミュニティのあいだの情報共有プロセスとして捉え、
そのデザインと具体的な実践ツールを提示」しています。
非常に実践的具体的に書かれていますので、実際の学校評価にも有効です。

私は最近の「評価」ブームには違和感を持っていますが、本書が提案する評価は「コモンズ型評価」です。
とても共感できます。
評価がブームになりだした頃、私も社会福祉関係の評価の研究会に関わったことがあります。
そのときにまとめた報告書の一部を今回このホームページに掲載しましたが、そこで提案したのが「共創型評価」です。
その発想につながるところがあります。

金子さんとは以前、あるプロジェクト(一緒のコモンズハウスでした)でご一緒しましたが、実践的な姿勢をお持ちです。
この本も実践的な視点で書かれていますのでとても参考になります。
それに地域でつくる教育という発想は、まさにまちづくりそのものですから、私にもとても馴染める話でした。
なお、この本ではソーシャル・キャピタルを地域力と同義に使っています。
とてもわかりやすいです。

■「それでも学校は再生できる」
ばばこういち+福田眞由美 リベルタ出版 1500円

朝日ニュースターの番組のキャスターのばばさんから贈呈されました。
福田さんは、2年半前まで小学生の先生でした。
38年間お勤めになったそうです。
その間、読み語りや交換日記などを通して、子どもたちと真剣に付き合ってきた様子が、本書から見事に伝わってきます。
福田さんが書いた教師時代のさまざまなエピソードを編集し、
それにばばさんがテーマに応じたコメントやメッセージを書いています。
とても読みやすく、またメッセージも明確に伝わってくる本です。
基調は書名にあるように、まだ学校は充分再生できるというものですが、
逆に言えば、今の学校はもう壊れているということでもあります。

私は最近の保育園の集まりでも子育ちの集まりでも申し上げたのですが、
子どもの世界が見えにくくなったことが大きな問題です。
保育園や幼稚園、あるいは小中学校に関わる先生や職員は、
目の前で起こっている風景をもっと社会に情報発信しなければいけません。
それがないためにおかしなことがますます増えているのだろうと私は思います。
保育園や学校の責任はとても大きいのですが、責任はどうも違う視点で議論されてるのが残念です。

ですからこうした現場のエピソードはどんどん出版してほしいものです。
そしてそれを材料に、もっと具体的で生き生きした教育論が広がってほしいと思っています。
今は、あまりにも現場のことを知らない「有識者」たちが、「善意」で「真剣」に議論し、
それに社会が強く反応しずぎているような気がしてなりません。

もっと現場をしっかりと実感していくことが大切です。
そういう意味で、これもお勧めの1冊です。

■「『つながり』の教育」
木村浩則 三省堂 2003年 1600円(税別)

日本構想学会メンバーの木村さん(熊本大学教育学部助教授)の本です。
私が近年読んだ教育関係の本の中で一番共感できた本です。
視点と視野に共感します。
最近の表層的な教育論や議論のための言葉遊びの教育論とは違います。
著者の思いと現場実践に裏付けられた、とても良い本です。
久しぶりにじっくりと読みました。

木村さんとお会いしたのは3年前の構想学会の大会です。
私がコムケア活動をテーマにラウンドテーブルセッションを開かせてもらった時です。
その時はコモンズ通貨ジョンギの話に議論が行ったのですが、
それに関して木村さんは構想学会のホームページに投稿してくれていました。
不覚にもそれに気づかず、2年たってからそれへのコメントを送ったら、
ハンナ・アレントの本とご自身のこの著書を教えてくれました。

ハンナ・アレントは前に挑戦して挫折した経験がありますので、まずは木村さんの本と思い、読み出しました。
実に面白く示唆に富む本です。
私は、教育関係の本があまり好きではないのですが、久しぶりにワクワクして最後まで読みました。
うなづけるところがたくさんありました。
内容の濃密な本なので、簡単には要約できませんが、本の帯に書かれた文章を紹介しておきます。

「ゆとり教育」「父性復権」「子どもの荒れ」「若者の自立」などのさまざまな現象・局面から、
現代の学校・家族がかかえる病理を分析。
「教育危機=人間危機」の克服の道すじを、<つながり>の創造のなかから展望する。

はじめにとあとがきと目次も次のサイトで紹介されています。
http://www.sanseido-publ.co.jp/publ/roppou/gyosei_kyouiku/tunagari_no_kyoiku.html
はじめにの一部を引用します。

いま求められるのは、国家共同体や伝統への回帰ではなく、
新たな〈つながり〉の時空を創造すること、
すなわち子どもを含む市民の「参加」と「共同」を通じて、
新たな関係の網の目を編みだしていくことである。
しかも、その〈つながり〉は、人間の画一化に反対し、
互いのかけがえのなさと多様性を承認しあう場でなければならない。

昨今の学校現場の「荒れ」の話を聞かされている私たちは、規範主義的な教育論に傾きがちですが、
管理された規範は逆効果であることが説得力を持って書かれています。
教育関係者だけではなく、一人でも多くの人に読んでもらいたい本です。
私たちの生き方に対するメッセージも強く感じました。

コモンズ書店

■「生きがいの教室」
飯田史彦 PHP研究所 2004年 1400円(税別)

ベストセラー「生きがいの創造」の著者、飯田史彦さんは福島大学の経営学の助教授です。
最初に出会ったのは、飯田さんがまだ大学院生だった時です。
ある理由で私を訪ねてきてくれたのですが、それ以来のお付き合いです。
以来、いろいろとありましたが、飯田さんが「生きがいの創造」を出版された時は正直、驚きました。
意外だったのではありません。私の発想とかなり同じだったからです。
私も、臨死体験や輪廻転生に関心があり、それなりの世界観を持っていましたし、その種の文献も読んでいました。
第一、私は大のSFファンでしたから、その世界は理解というよりも自然と馴染んでいたのです。
ですから私のとっては、飯田さんの著書は何の抵抗もなく、共感できながら読ませてもらったのですが、
この書は経営学の先生が方ということで、さまざまな波紋を投げかけました。

飯田さんはその後も次々と生きがいシリーズを発表し、
医療や福祉や教育の世界にも大きな影響を与えました。
その生きがいシリーズの最新作が、この「生きがいの教室」です。
本の帯に、
「心の真ん中が空っぽの子どもたち」を救う、画期的な「生きがい教育」の手法と実践レポート」とありますが、
飯田さんの生きがい論に共感した各地の教師たちの実践を通しての、示唆に富むメッセージがこめられています。

飯田さんは
「教師は「生徒を豊かで充実した人生へと導く道案内人」としての役割を、果たさなくてはなりません。
そのためには。先ず教師自身が、人生の意味や価値についての考察を深め、
自分なりの人生観を持っておく必要があります」

と書いています。共感です。
今の日本の教育の危機の根源はここにあるように思います。

飯田さんの生きがい論は、要約すれば、
人生の本質を「自分の成長のために自分自身で計画した問題集」と考えるところから出発します。
そして、それぞれの教師が、指導する生徒たちの事情に応じて、
「生きがい論」を適切な形に加工しながら、効果的に活用しようと心がけることが、「生きがい教育」なのです。

こうした飯田さんの考えに共感して、各地の大学から小学校まで幅広い実践が展開されています。
本書にはそうした実践報告が先生や生徒たちの言葉で語られています。

教育関係者には特にお勧めの1冊ですが、それ以外の人にもお勧めしたい訳は、
飯田さんの生きがい論を一つの発想法として受け入れると、世界が変わってくるからです。

飯田さんの生きがい論を理解するには、生きがい三部作といわれるものがいいかもしれませんが、
この「生きがいの教室」では、第1章で「生きがい論のエッセンス」が簡潔に整理されていますから、
生きがい論入門編にもなっています。
ここで興味を持ったら三部作に進んでもいいかもしれません。

新刊紹介ではありませんが、ご紹介させてもらいました。

飯田さんのホームページ


■旅する視点―自分流海外散歩のすすめ
藤沢孝之 成山堂書店 2005年 1600円(税別)

今年最初のご紹介は、私の東レ時代の同僚の藤沢さんの「旅する視点」です。
藤沢さんは1995年から8年間、東レ・トラベル株式会社の社長として活躍されましたが、
その体験も含め、自らの旅を素材にした、旅を楽しむための視点とそこからのメッセージをまとめた、一味違った旅のガイドブックです。

「人はなぜ旅に出るのか」からはじまり、「旅を通じて人間を知る」の終章にいたるまで、
ヨーロッパ、アメリカ、アジアと、それぞれにいくつかのテーマの話が次々と展開されていますが、
それぞれがとても面白く、旅を離れて読んでもとても楽しいです。
たとえば、「コロンブスに寄せるスペインの思い」とか「天安門事件とベルリンの壁」といった見出しだけでも興味をそそられます。

最後に書かれている文章が、私にはとても印象的でした。
長いので一部しか引用できませんが。

旅の視点とは結局は人間の視点だとして、こう書いています。

旅の視点は、別に「旅」だけに限ったことではないということです。
それらは、日ごろの日常の生活を見る目にもつながる、毎日の生活の視点でもあるということなのです。
いわば、「『人生の旅』の視点」ともなる、といっても差し支えありません。

そして、さらにこう続けています。

旅先ならば、きっと少しあらたまった気分で思いを巡らし、刺激や感激が多い分だけ、
ものごとを考えてみるよい機会になるとの期待が込められています。
(中略)しかし、そこで考えられる「旅の視点」というのは、なんのことはない、
私たちの普段の生活の視点にも通じるということです。
(中略)
そしてよく考えれば、その機会は、どうやら海外旅行などという、
それなりに思い切りや勇気を必要とする、特別の旅に限ったことではないように思えるのです。
むしろ、私たちの毎日の生活が、そういう大切な「旅のうち」と考えることも出来そうです。
このこともまた、旅をすることによってあらためて気づくことになった、新たな発見といえるかもしれません。

全く同感です。
時間の合間に各章を読んでも楽しめます。軽い読み物として、お勧めの1冊です。



■「輝いて生きる」
浅野良雄/妹尾信孝共著 文芸社 1200円(税別)

2000年に出版されましたが、好評でもう4刷目です。
浅野さんが主宰している対話法研究所はこのホームページともリンクされていますが。
私たちの出会いは、高崎で行われたひだまり交流会で出でした。
妹尾さんもご一緒でした。
その後、コムケアサロンにも参加してくださり、何回かお会いする機会がありました。
浅野さんは、独自に開発された対話法を全国に広げたいという思いで、各地に出かけています。
その行動力と真摯な思いには頭が下がります。
この本は、その浅野さんが活動の過程で出会った、妹尾さんとの共著です。
妹尾さんは身体に障害があるのですが、とても元気で明るい方です。
日本福祉教育研究所
を主宰され、浅野さんと同じように、各地に出かけて、元気を広めています。
そのお2人の講演をもとにしてまとめられたのが本書です。

この本のことは浅野さんから今年の初めに教えてもらっていたのですが、
読んだのは先月です。
お2人のことを知っているからかもしれませんが、とても教えられました。
そして、多くの人に読んでほしいと思ったのです。

本の帯にこう書いてあります。

―傷つけあうこと、相手のこころが分からないでいること―
これは自分だけでなく、相手も、そして周りをも不幸にします。
あなたは人のこころが分かりますか?
こころを豊かに生きるために、
こころのバリアフリーを築くための一書。


まさにそうした一書です。
詳しくは、次のサイトをご覧下さい。
http://www.taiwa.org/institute/about/chosaku/ikiru.html

春に東京で、浅野さんにお願いして、対話法の学習会を開こうと考えています。
その前に、コムNPO化サロンでも対話法の真髄を浅野さんに語ってもらう予定です。
またお知らせに案内をさせてもらいますので、ぜひご参加下さい。

■Q&A「新」平和憲法 ― 平和を権利として憲法にうたおう
  川本兼 明石書店 840円 2004年

このホームページで何回もご紹介した川本兼さんの新著です。
これまで書かれたものを「もっと短く!もっと安く!」をモットーに手ごろなブックレットスタイルでまとめたものです。

川本さんは、「普通の国」および「半封建国家」への反動が進む現状を打破するために、
精力的に静かな活動を展開しています。
この本は若者向きの本ですが、若者に限らずに、一人でも多くの人たちに読んでほしい本です。
はしがきから引用します。

「新」平和憲法としたのは、「護憲」「護憲」と唱えても、
今の憲法のままではもう支えられないと考えるからであり、
平和憲法もその欠点を革めて、新しいものにすることが必要だと考えるからです。
憲法の「革新」こそが必要なのです。
(中略)
日本人の戦争体験を無視した改正論議がまかり通るのは、
私たちがまだ近代憲法の本質についての十分な議論をしていないからだと思います。

近代憲法の本質とは何か。
川本さんは、近代憲法には人権原理と統治原理があるが、
人権原理が統治権利の目的になることが近代憲法のパラダイムだと考えます。
したがって、憲法論議は人権原理の議論から始めなければいけません。
そして、人権原理に基づいて語られる平和原理(戦争体験から導き出される平和原理)を保障するために、
第9条がいかにあるべきかが考察されなければならないと、川本さんはいいます。
共感します。
こう考えると、抽象的な平和概念が具体的な実感をもちだします。
800円と手ごろな本ですので、ぜひ購入されてまわりの若者に読んでもらってください。

武田さんの憲法サロンは継続できませんでしたが、
今度は、川本さんの憲法サロンを開催したいと思います。
2月ころを想定しています。
まずはその前に、ぜひお読みください。

ちなみに、12月13日の毎日新聞に、漢字学者の白川静さんが、こう書いています。
戦争をどこまで知っておるのかね。小泉さん、62歳か、ご存じなかろう。

この記事もとても感動しました。ぜひお読みください。
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2004/12/13/20041213dde012070096000c.html


■「サステイナブル時代のコミュニケーション戦略」
宮田穣 同友館 2500円

宮田さんは潟xネッセコーポレーションで広報の仕事をしていますが、
その傍ら、東京経済大学大学院に社会人入学し、企業のコミュニケーション戦略に関する研究を重ねてきました。
そして今春、日本では第1号のコミュニケーション学の博士号を取得しました。
地元での市民活動もされており、コムケア活動にも参加してくれています。

数年前、ベネッセの第3次CIの時に、私も関わらせていただき、その時、知り合ったのですが、
以来、時々、論文を読ませてもらったり、お話を聞かせていただいたりしています。
私も会社を辞めた時に、経済広報センターに提案させてもらい、日本広報学会の立ち上げに取り組みましたが、
その関係で多くの企業実務者や広報研究者に会いましたが、
宮田さんのように真摯に企業コミュニケーションの問題に、実践的かつ研究的に取り組んでいる人はめずらしいです。
宮田さんが他の人と違うのは、視点が社会にあることです。
また早くからインターネットの動きにも関心を持っていました。

本書は、その宮田さんの博士論文をベースにまとめたビジネス書ですが、
とても読みやすく、またこれからの方向性を的確に明示しているので、示唆的です。
昨今の企業広報の動向も簡潔にまとめられています。
また、博士論文らしく、企業のサステイナビリティ・レポートの分析や企業とNPOのパートナーシップ調査なども行っており、
それを踏まえての論考ですので、具体的で説得力があります。
宮田さんは、これからの企業がサステイナビリティを高めていくためのコミュニケーション原則として、
「透明性」「対話性」「変革性」の3つを提案しています。
とても共感できます。
残念ながら、現在の日本企業の多くは、このいずれにおいても本気で取り組んでいないように思いますが、
それこそが企業に元気が出てこない理由かもしれません。

コミュニケーションは、これからの組織活動にとって、まさに戦略的なテーマです。
企業関係者はもちろんですが、NPO関係者にもぜひお勧めしたい1冊です。


12月3日日本所の出版パーティが開催されます。
ご関心のある方はご連絡下さい。


■「泥棒国家の完成」
ベンジャミン・フルフォード  光文社 2004年 952円

クリプトクラシー。泥棒政治。このホームページでも一度紹介した言葉です。
私が出会ったのは、済世会栗橋病院の本田宏さんの講演でした。
その本田さんから、翻訳が出たのでと読むようにと勧められました。
読みました。実に共感できます。
後半が少し退屈ですが、前半だけでもぜひお読みください。
実に頭が整理されます。

この種の本をあまり読みたがらない、わが女房もめずらしく前半を一気に読みました。
そのくらい面白いです。

本田さんはこれまでもご紹介しているように、
日本の医療制度の改革に向けて、精力的に活動している医師です。
単に医療制度だけをみているわけではありません。
今の日本社会の仕組みや実態をしっかりと視野に入れて、行動しています。
以前、このコーナーでも紹介させていただいた「犬と鬼」を私に紹介してくれたのも本田さんです。

冒頭の文章を紹介します。

なぜ、多くの日本国民が、いまだに自民党政治が、国民の財布からお金を巻き上げるだけの「泥棒政治」(クリプトクラシー)であることに気がつかないのだろうか? 
なぜ、毎日一生懸命働いているのに、暮らしがどんどん劣化していく原因がこのシステムにあると、気づかないのだろうか?

どうですか。読みたくなりませんか。
表紙に書かれている文章も少し紹介しておきます。

現在の日本は「泥棒国家」(クリプトクラシー)である。
日本をダメにした「政・官・業・ヤクザ」連合という泥棒たちが国家の金を巻き上げ、それで延命をはかっているだけだからだ。
日本人はいまこそ、勇気をもってこの構造を破壊し、自分たちの手で本当の民主主義国家をつくるべきではないか?
日本人はいつからこんなに臆病になってしまったのだろうか?
日本の危機は、経済の危機ではなく、日本人が勇気をなくしてしまった危機である。

ぜひお読みください。
1000円もしない本です。それに軽く読めてしまう本です。

そして、何らかの行動を起こしませんか。
一人でもできることはたくさんあります。
読後感などを投稿してもらえるとうれしいです。
本田さんにも伝えます。
本田さんのホームページも見てください

■「ライフスタイル発想から、ビジネスは変わる」
今成宗和 半蔵門出版 1500円

今成さんは、かつてはマス・マーケティングの世界で活躍していたプランナーです。
物まねではなく、自らの実践から積み上げてきた独創的な発想とメソドロジーを駆使して、
マーケティング活動を楽しんでいた、バリバリのプランナーだったのですが、
90年代の終わりごろに、自分が荷担してきたマス・マーケティングに対する疑問を持つようになってしまいました。
仕事が楽しくなくなり、ついには仕事ができなくなってしまったのです。
そこから自らの生き方も含めての、今成さんの挑戦が始まります。
そして、ようやく今年、これまでとは違った視点でのマーケティング活動に取り組むことを決意しました。
脱マス・マーケティングへの挑戦です。
この本は、そうした今成さんが行きついた、新たなマーケティング宣言です。

表題の「ライフスタイル発想」という言葉に、今成さんの思いが凝縮されているのですが、
ここでの「ライフスタイル」は、これまでのマーケティングの世界で使い古された「ライフスタイル」ではありません。
私も25年ほど前に、ライフスタイル・マーケティングに取り組んでいた時期がありましたが、
当時のライフスタイル論は、結局はマス・マーケティングの枠の中でのライフスタイル論でした。
しかし、本書で今成さんが主張されている「ライフスタイル発想」は違います。
全くパラダイムの違う「ライフスタイル・マーケティング」の登場です。

今成さん自身の生活体験からの宣言ですから、わかりやすく、面白いです。
それにちょっとラジカルです。私には共感できることがとても多かったです。
マーケティング関係者だけではなく、生き方を考える上でも,すべての人にお勧めの一冊です。

カバーに書かれている文章をご紹介します。

これでもかと、欲望をあおり続けるマス・マーケティング。
浪費、濫費させなければ成り立たない資本主義経済。
そしてあふれ出るゴミ、またゴミ。
どこかおかしくないですか?
生産と消費、資源と環境のバランスの上に立った経済活動は、できないものでしょうか?
作り手と使い手双方に、喜びが通い合うような価値創造は、できないものでしょうか?
安心して生活ができ、仕事にも誇りが持てるような社会は、できないものでしょうか?
その一歩を、ライフスタイル・マーケティングへの転換から。

どうですか。
読んでみたくなりませんか。
書店にはあまりないかと思いますので、ネットでお申込み下さい
著者への連絡も中継ぎします。
コモンズ書店でも受注しましょう。

■「赤ペンを持って「憲法」を読もう―とんでもない言い回しがいっぱい!」
リンカーンクラブ代表 武田文彦著 かんき出版
2色刷 224頁 定価1470円  9/6発売

憲法にこだわっている友人が2人います。
高校教師の川本兼さんとリンカーンクラブ代表の武田文彦さんです。
川本さんの「自分で書こう!日本国憲法改正案」は、前に紹介しましたが、今回は武田さんの新著です。
題して「赤ペンを持って「憲法」を読もう!」です。二色刷りのとてもも読みやすい本です。
このホームページでも武田さんの憲法談義を作ったのですが、2回で終わっています。
困ったものです。そこに少しだけさわりが出ています。

憲法などは関心ない、などと言わずに、まずは開いて下さい。
20頁までは一気に読め、その後はやめられなくなります。


憲法って、こんなのか、と驚くはずです。
著者の武田さんの「怒り」をお聞きください。

憲法問題は戦争放棄や天皇制のことばかりではない。
赤ペンを手に丹念に読んでいくと、ほとんどの条文に「論理的な矛盾」「幾通りもできる解釈」「主語がない」「目的語が不明」
「同じ内容の繰り返し」「誤解させる表現」「理解不能の表現」「用語の不統一」「立法・行政・司法の不平等」「非民主的表現」「事実無根」などが見つかる。
最高法規である憲法に、これほどたくさんの間違い、不備があっていいものなのか!


武田さんは、そこで赤ペンを入れだしたのですね。そうしたら真っ赤になってしまったのです。
まあ、法律なんてモノはそんなものです。
しかし、それでいいのかと言えば、それは別問題。
なにしろ憲法に従って、私たちは戦争にも行かされ、生活を管理され、税金を徴収されるのですから。
いい加減な条文は権力者にとっては好都合なのです。
しかし生活者にとっては、不都合なのです。
全体発想の時代と個人発想の時代の法治国家の意味は全く違うのです。
こうした「まともな法律論」「憲法論」は、私もいつか書きたいですが、
今回は武田さんの本の話です。

この本を編集した藤原雅夫さんの推薦の弁です。

憲法の本というとみな学者・研究者で、素人から見ればアプローチの仕方はだいたい同じようなものです。
そういうまじめな政治論、法律論として扱っても、人はなかなか読んでくれません。
しかし本書は、普通の人が常識をベースに丹念に読み進むと見えてくる憲法のおかしなところを全条文について逐条解説し、
言いっぱなしになってもいけないので、だからこう直したほうがいいという添削指導付き≠ナす。
いわば先生が赤ペンを持って、言葉の選び方・使い方、構成、主語と述語、論理的矛盾などについて朱入れしているようなものです。
こういう本なら、憲法論議も高まりつつあり、手にしてみようという人も結構いるのではないかと思います。
偉い人の憲法論(固定した正面玄関)は読む気にはなれないけど、
このような入り方(裏の玄関、勝手口)なら、まじめだけど面白い――そういう一般人を狙っています。
ただ、議員や行政マンにとっても、質問に答えられないと困るので、読んで勉強しておかなければならない本とも言えます。


そうです、ともかく面白いのです。それに読みやすい。
私たちの生活を方向づける憲法です。
ぜひ読んでみませんか。
この本を購入してくれることも、平和へのアクションの一つかもしれません。

なお、年内に「憲法添削会」サロンと公開フォーラム憲法をまともにしよう」(仮称)を計画しています。
リンカーンクラブ主宰の予定です。
手伝ってくれる人はいませんか。
手伝ってくれる人はすぐメール下さい。
佐藤修へのメール

読後感をぜひお寄せ下さい。

■「地域づくりワークショップ入門−対話を楽しむ計画づくり」
傘木宏夫 自治体研究社 2004年 1700円

傘木さんは、長野県の大町市に拠点を置く、地域づくり工房というNPOの代表です。
コムケア活動の中で知り合いになりました。
このホームページにも一度登場しています。

ご自身の実践を材料にして、とてもわかりやすいワークショップ実践の本をまとめられました。
ワークショップはどんどん広がっていますが、人によって流儀はかなり違います。
私も、先月、「人材教育」という雑誌にインタビュー記事を載せてもらいましたが、私の端極めていい加減なワークショップです。
状況主義的ワークショップと言ってもいいかもしれません。

私の会社の名前は「コンセプトワークショップ」ですが、
設立当初は「販売店」と間違われ、何を売っているのですかと、新聞社からの取材で聞かれたこともあります。
時代は大きく変わりました。

傘木さんのこの本は、地道な実践を踏まえていますので、実に実践的です。
しかし、そればかりではありません。
しっかりしたビジョンと思想を感じます。
昨今の安直なNPOブームやワークショップブームへの鋭い批判精神も感じます。

たとえば、
市民の価値観を大切にしたNPO活動をしっかりやっていかないと、
護送船団方式とか企業国家とかいわれるわが国のイメージは払拭できず、
そうした社会のあり方を維持する仕組みとしてNPOが組み込まれる事になるでしょう。
私は、わが国のNPO活動の真価が問われるのはこれからだと考えています。(130頁)

同感です。
現実はすでに国家体制に組み込まれつつあると思っていますが、
その一方で、再びしっかりした市民活動もまた回復し、育ちだしているように思います。
しかし、多くのNPO有識者たちは、あまりその点を真剣に考えていないように思えてなりません。
私が知っている限りでは、浜辺哲夫さんくらいです。

終章に、傘木さんの遍歴が紹介されています。感激しました。
本書は、実践書であり、思想書です。
まちづくり関係者、NPO関係者、行政関係者、いやすべての人にお勧めします。

■社会起業家−社会責任ビジネスの新しい潮流
斎藤槙  岩波新書  2004

斎藤さんは、ロサンゼルスに住みながら、日米を拠点に、
企業の社会責任(CSR)や社会責任投資(SRI)の分野でンサルティングの仕事をしています。

彼女からきたメールを引用します。
(仕事を通して)悩みを抱えながらも活躍する企業担当者や、素敵な社会起業家たちとの出会いがたくさんあります。
2000年に出した「企業評価の新しいモノサシ〜社会責任社会責任からみた格付基準(生産性出版)」では、
ご紹介しきれなかったこれらの方々の魅力や想いをお伝えしたいと思い、
今回は人に焦点を当てた本を書きました。

前著もとても示唆に富むものでしたが、今回の「社会起業家」は、私がこれまでに読んだ類書の中で一番明確なメッセージを感じました。
企業人にぜひ読んでほしい1冊です。

内容などに関しては、
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/
をご覧下さい。

日本でも最近、社会起業家が話題になっていますが、私自身はどうもすっきりしない気分がぬぐえません。
定義はまあ、いいとして、そうした議論に取り組んでいる人たちが、
社会や経済についての変革のビジョンがあまり考えていないような気がするのです。
私の理解不足かもしれません。
しかし、 そのためか、これまでの起業家とどこがちがうのか、また経営のメソドロジーの違いは何なのか、がどうも見えてきません。
それに本来、起業家は社会性を重視していたはずです。

斎藤さんは、本書でこう書いています。

社会起業家は、本当に社会を変える救世主になるのか、あるいは単に一過性の流行で終わるのか。
それは、こらから10年、20年という時間が経たなければ、分からないかもしれない。
しかし、高まりつつある潮流をみることで、ビジネスや社会のことを深く考えている人々にとって、本書が何らかのヒントになればと思う。1頁。

この姿勢に共感します。
またこうも言っています。

社会起業家は、政府と企業とNPOの垣根を取り払うことによって、もっと効率的に目標を達成していこうとする。232頁。

本書の第1章は、「NPOのような企業、企業のようなNPO」です。
これからもわかるように、斎藤さんは企業の社会化やNPOのビジネス化によって、市民社会が形成されていくと考えています。
私もそう思っています。
つまり、企業や行政、ボランティア活動の枠組みが改めてリフレームされていく契機が、昨今の社会事業発想だと思っています。
大きな違いは、視点の違いなのです。
枠組みから考えるのをやめて個人生活や社会から発想するとこれまでの枠組みは再編集されざるをえないのです。
生活を事業に合わせて市場化するのではなく、事業を生活に合わせて社会化していくことが必要なのです。

斎藤さんは、社会起業家を次のように定義しています。

単に収入を得る手段としてではなく、自己実現のために、そして環境・人権などの課題に使命感を持って事業に取り組む人。

したがって、社会起業家は会社にも行政にもいることになります。
つまり社会起業家とは、生き方と働き方の問題なのです。
企業人や行政人、あるいはNPO関係者と違う特別の人たちではないのです。
ここにおそらく、社会起業家議論のポイントがありそうです。
たくさんの事例と人が登場します。

最後のメッセージがとてもいいです。

時代は、多様な個性を求めている。
社会起業家的な生き方、働き方を選び、自分が好きなことや楽しいと思えることを仕事に反映し、夢のある新しい日本を作る時が来ている。

さあ、皆さん、何に取り組みますか。
すぐに思いつかない人は、まずは本書を読みましょう。
お勧めします。

■日本型賃金制度の行方
須田敏子 慶應義塾大学出版会 2004年 4000円

副題が「日英の比較で探る職務・人・市場」となっていますが、
日本と英国との賃金制度を、それぞれのコンテクストとの関係を視野に入れて、
豊富なケーススタディを基に、時代の流れを意識しながら、「機能する制度」の設計方法を提示した専門書です。
著者は、このホームページにも何回か登場している須田敏子さん
須田さんは、現在は京都産業大学の専任講師ですが、
今春まで英国のバース大学大学院で、この問題に取り組んでいました。
英国での研究生活は7年に及んでいますが、その前は日本能率協会の「人材教育」の編集長でした。
その時代からのお付き合いです。

英国留学中の帰国時に、須田さんは時々、湯島に来てお話を聞かせてくれました。
日本ではアメリカの企業経営の話は良く聞きますが、イギリスの話はあまり出てきません。
彼女の話はいつも刺激的でした。
須田さんの姿勢は、社会慣習や社会常識が一種の制度として機能するという制度化理論に立脚しています。
ですから、賃金制度もそうした大きな枠組みの中で捉えて行こうと考えています。
そして、賃金制度の基本要素として、「職務」「市場」「人」の3つを特定し、
これまでの日本型賃金制度が、「人・ストック・組織ベース賃金制度」、
イギリスの賃金制度は「職務・フロー・市場ベース賃金制度」であることを論証。
その上で、これからの日本はイギリス型に変わっていくと推論しています。

博士論文が基調になっているために、やや難解なのが気になりますが、事例も多く、考える材料は豊富です。

なお、もっと実務的な著作の執筆も始まっているようです。
研究者はぜひ本書を、企業人は次の著作をお読みなるといいと思います。
イギリスの人事制度に関するお問い合わせはぜひどうぞ。
必要があればいつでもご紹介します。

「『食道楽』の人 村井弦斎」
黒岩比佐子 岩波書店 2004 (4410円)

これまでも何度かご紹介した、黒岩比佐子さん村井弦斎の評伝がついに完成しました。
内容については、今さら繰り返すまでもないですが、岩波書店による紹介文を再掲します。

明治の大ベストセラー『食道楽』の著者としてのみ知られる村井弦斎の初めての評伝。
幕末の儒家に生を亨け,新聞小説家として名をなし,婦人啓蒙へと転じて健筆を振るい,その晩年は仙人への途を歩んだ人。
厖大な資料を博捜し,その数奇な生の光と影を時代背景に溶かし込んで描き出す。
もう一つの近代の落丁を埋める力作!


実はきちんと読んだ上で紹介したかったのですが、私もいま読んでいるところです。
黒岩さんは、最初はちょっとかたいかもしれないが、後半に行くと面白くなってきますよ、ということでしたが、
書き出しからとても読みやすく、また面白いです。
黒岩さんらしい、緻密な調査とそれを踏まえた横道展開を楽しめます。
最初の章で、 村井弦斎のとりこになります。
黒岩さんがなぜ書きたくなったかがよくわかります。

今年の秋頃には、きっとテレビでも取り上げられだして、
もしかすると来年当たりは村井弦斎ブームがくるかもしれません。
そうした素地を持っている人であることが、最初の50ページでよくわかります。
今はまだ知る人は少ないですが、来年はきっと有名人になっているでしょう。
そんな気がします。

なお、村井弦斎のことに関しては、黒岩さんが昨年、産経新聞に書いた文章をお読みください。


読後感はまた来週にでも追記しますが、お勧めの一冊です。
読んでいないのに勧める理由は、たくさんの発見があるはずだからです。
黒岩さんのこれまでの著作がそうだったように、ともかく膨大な取材や論考をされての著作です。
その気になると、たくさんの発見が得られます。

CWSプライベートに黒岩さんがコメントを寄せています。
それも併せてお読みください。

なお、この本は書店にはあまり出回らないようです。
アマゾンでご購入下さい。
読まれたらぜひ黒岩さんに感想を送ってください。

私の読後の感想を書きました。

■「豊島 産業廃棄物不法投棄事件」

大川真郎 日本評論社 2001

ちょっと古い本ですが、ぜひ多くの人に読んで欲しいと思い、紹介します。
著者は、私の大学同窓生の弁護士です。
私が環境問題に関心があることを知って、贈ってくれたのです。
一気に読めました。最後のところでは涙が出そうでした。
自治体職員の方々、まちづくりに取り組む方々、ぜひ読んでください。

この事件は有名なので、皆さんもご存知でしょうが、
大川さんは、中坊さんが団長になった弁護団の当初からのメンバーです。
お上体質の県と住民たちの「たたかい」が、ていねいに冷静に書きこまれています。
書名は報告書風ですが、内容は、ヒューマンタッチの読み物スタイルです。
しかも、しっかりした事実をベースに、あたたかな目線で書かれているので、とても読みやすい好著です。
考えさせられることがたくさんありました。

日本の環境行政、廃棄物行政には、私はいまもって思想を感じませんが、
そうした思想のない国政のもとで、いかに県が住民不在の統治型行政をしているかがよくわかります。
豊島の事件は2000年に、住民の完全な勝利で終結しましたが、
日本全体の流れは、その後もほとんど変わっていないように思います。
このホームページでも紹介した茨城県のふじみ湖事件での県知事や職員の対応は、ほとんど初期の豊島と同じです。
そうした犯罪的行政は相変わらず横行しているように思います。

環境問題に限ったことではありません。
日本の自治の現実も生々しく伝わってきます。
詳しくは書かれていませんが、議員や職員の住民自治への姿勢がうかがえます。
現場を知らない県職員の破廉恥な行為は、霞ヶ関を頂点とする、現場不在の「自治行政」の象徴です。
それを覆せない現場住民。直訴に頼らざるを得なかった江戸時代と変わりません。
悪代官は今も顕在です。長野県でもそれが明白でした。
しかも、直訴する相手がどこにいるか見えないのが、いまの日本です。
近代の組織原理は、現場からの距離と権限の大きさを比例させています。
自治などという言葉にごまかされてはいけません。「自治官僚」の自治なのです。
建前とは別に、地方分権や市町村合併の動きの中で、集権体制に向けての支配体制強化が今なお進められているのです。
しかし、それにめげることなく、各地には生活をかけた住民たちの誇りと強さがまだしっかりと残っているのです。

これまでの地方行政のパートナーは土建業者でした。
その現場を支えるのは素直で真面目な労働者たちですが、彼らを束ねる企業経営者は、お上という権力に群がる悪名主です。
霞ヶ関と地方行政の金銭を介した権力構造が、フラクタルに県と地場の土建業者との間にも存在しているように思います。
そして、そこにまた群がる小役人の管理職がけっこう多いのです。
彼らは住民を信頼せず、住民の生活には無関心です。
権力構造の歯車になって、上に登りたいのです。
虚しいビジョンですが、哀しいことに、彼らはそれしか知らないのです。

豊島の膨大な産廃は、となりの直島で三菱マテリアルによって処理されることになりました。
直島は、リサイクル産業で地域起こしをしようというわけです。
事件の調停が解決した直後、直島に行く機会があり、三菱マテリアルの処理施設予定地を見てきました。
三菱マテリアルの名前も含めて、私にはいささかの違和感があります。
直島がまただまされなければいいのですが。
行政と大企業はまだまだ信頼できません。
早く表情を持った個人が主役になる仕組みに変えていかねばなりません。
組織主導の時代は終わったのです。

この活動における弁護団の姿勢にも改めて感心しました。
しっかりと表情をもって活動しているのが伝わってきます。
中坊さんは、どうも好きにはなれませんでしたが、この本を読む限り、すごい人です。
認識を変えなければいけません。

しかし、最も感動的なのは、やはり住民たちのやさしさです。
それは、きっと自分たちの島という誇りに裏付けられているのです。
調停が成立した時のやり取りは感動的です。
小賢しい都会人には考えられないことです。

水俣の物語も感動的でしたが、両者に流れる住民たちの考えは同じです。
住民たちがやはり一番長い目で考えています。
彼らの目線は7代先を見ているように思います。
そうした住民たちの判断が間違うことはないでしょう。
彼らの声を聴かなくなったところから、地域の不幸が始まったのです。
そろそろ地方分権発想から抜け出て、住民自治へと流れを変えていかなければいけません。

豊島の感動的な物語を、ぜひ読んでもらいたいと思います。



■「自分で書こう!日本国憲法改正案」
川本兼 明石書店 2004年

平和権に取り組む川本兼さんの最新刊です。
とてもわかりやすく、特に若い世代に読んでほしい本です。

川本さんには構想学会のラウンドテーブルを企画してもらいましたが、
その経験も、この本づくりの動機の一つだといいます。
議論するにも情報共有があまりに不足していることを感じられたのかもしれません。
川本さんの思いが読み取れます。

憲法改正案ももちろん書かれていますが、たぶんそれが目的ではなく、
その案が出てくる背景にある考え方をていねいに説明しています

最近の改憲論の粗雑な議論に嫌気がさしている私としては、
こうしたコンテンツのある議論に共感します。

基本にある考えは、平和権であり、獲得する平和論です。
何でもないようなことですが、本質的なパラダイム転換が含意されています。
読み込んでいくと、様々なメッセージが含意されているのに気づきます。

ご自身はもちろんですが、
できれば周辺にいる若者に勧めてください。
もし若者たちの集まりで、川本さんと議論したいと言うグループがあれば、川本さんに頼んでみます。

川本さんと一緒に、平和議論を広げたいと思っていましたが、
一度、平和サロンをやってみて、平和は議論するべき問題ではないことに気づきました。
同時に、平和は「平和の議論」ではなく、
福祉や環境、文化や教育の議論から出てくるものだと思いました。
従って平和サロンはしばらくお休みです。
しかし、できるだけ早い時期に、川本さんをお呼びしてのサロンを開催したいと思います。
参加者は、この本を読まれた方にしたいと思います。
読まれた方はぜひご参加下さい。

7月になったらご案内します。


■「自治創造の原点」(ビデオマガジン)
遠藤哲哉監修 潟潟Xペクト 9800円

自治体組織を「学習する組織」にしたいと健闘している遠藤哲哉さんの監修でつくられたものです。
遠藤さんは、ふくしま自治研修センター教授です。

創刊号の「自治創造の原点」で取り上げられているのは、
情報共有と参加を基本、住民主体の自治体経営を実践しているニセコです。
自治基本条例や公共施設運営の市民団体委託等が紹介されています。


このビデオマガジンは、引き続き遠藤さんの監修で、これからも発売されて行く予定です。
これからのシリーズに期待しています。

自治体経営はまさに大きな岐路に立っています。
自治体職員の方には、ぜひみていただきたいです。
お勧めします。
発行元のリスペクトか、または遠藤さんまでご注文下さい。
遠藤さんは何時でもご紹介します。

「自治体職員の起業家精神」
東京都職員研修所 2004

東京都職員研修所の坂谷さんが企画編集した、政策課題ライブラリーの最新号です。
自治体職員の企業家精神と言う、最新のトピックをとりあげています。
次の4つの論文からなっています。

○公民起業家ー行政サービスをつくりかえる人(町田洋次)

○自治体職員が起業できる時代がやってきた(佐藤修)
○公務員よ、まちへ出よう!(竹中ナミ)
○新時代の都市公園経営へのチャレンジ(小口健蔵)

最近、ソーシャルベンチャーとかソーシャルアントレプレナーが話題になっていますが、
そうしたテーマを4人の人が勝手に書いた論文集です。
職員研修所で市販しています。

〔購入方法〕

本冊子は1部180円で都民情報ルーム(都庁第一本庁舎3階、電話03-5388-2276)で発売中です。
別途切手代等がかかりますが、郵送も可能です。
なお、切手代金を払えば、郵送も可というのは、上記に電話しただけでは教えてくれませんので、
新宿の都庁舎によほど近い人以外は、最初から郵送で購入したいと電話で頼んだ方が良いと思います。
http://www.soumu.metro.tokyo.jp/06kenshu/23.htm
都民情報ルームは、
所在地  東京都庁第一本庁舎3階北側
利用時間 午前9時〜午後6時15分
休室日 ・土曜・日曜・祝日及び年末年始(12/29〜1/3)
です。

■「山に想えば」
岡紘一郎 創造工房ノア(06−6373−3641) 2000円

著者は私の東レ時代の同期生です。
滋賀の工場で4年間一緒でした。
ロマンチストであると同時に、リアリストでした。
批判力をもった見識者でした。
口が悪いのが問題でしたが。

久しく会っていないのですが、
本が送られてきました。
2冊目の作品です。
1冊目は「青天は揺籃」です。
日本百名山を完登した記録です。

今回は前作に比べて、心が深く感じられる作品です。
個人の記録の域を超えて、なかなか読ませる作品になっています。
正直ちょっと退屈な章はありましたが、私は一気に読みました。
感動的なところもありました。

後半は、山々で見つけた碑に書かれた言葉を題材にしています。
とても興味深いです。
山登りを愛する人にはぜひともお勧めです。
彼はこう書いています。

マウントセラピー。こんな言葉があるかどうか知らないが、
ぼくの場合、これが一番ぴったりくる。

山登り以外にも、著者の人生を書きこんでいるところが面白いです。
生き方をちょっと考えなおしてみようかという人にもお勧めです。

企業や時代への批判の眼はまったく変わっていません。
こうした自分の眼を持つ人が減ってしまいました。

読後感がとてもさわやかないい本だと思います。
ちょっと高いですが、よかったら読んでください。


■「気がついたらトップランナー」
吉井正澄・上甲晃(対談) 燦葉出版社 1500円

吉井さんは、前の水俣市長です。水俣病問題に区切りをつけて、水俣市を環境モデル都市に育てた人です。
体調の関係で、2期で市長をやめましたが、すばらしい方です。
最初にお会いしたのは、水俣市でした。
講演記録を読んで、共感し、その時企画していた「全国まちづくり先進事例会議」の基調講演はこの人だと思って、頼みに行きました。
その会議は山形市でやったのですが、実に示唆に富む話をしてくれました。
また、夜学で「星寛治塾」というのを開いたのですが、そこにも飛び入り参加してくれました。
林業のリズムは60年、今のまちづくりの時間軸とは違う、という趣旨の発言が印象的でした。
前置きが長くなりましたが、その吉井さんと松下政経塾の塾頭だった上甲さんとの対談の記録です。
上甲さんも水俣にはかなり関わっています。

吉井さんは、水俣を「小さな地球」と位置づけています。
できれば、そのあたりのことをもっと引き出してほしかったですが、
上甲さんの問題意識はリーダー論や政治論にちょっと重点がありすぎたためか、
その辺りの話は少し不満です。
しかし、吉井さんの人柄やリーダー論が読み取れて、
これまでのものとはちょっと違った水俣論になっています。

自治体職員の方々に、呼んでほしい一冊です。
そして、できれば是非とも一度、水俣を訪問してほしいです。
水俣は、実に美しいところです。
海にはサンゴ礁も復活してきています。


■ 「うれしいの『歩き方』」
岡本建彦編 ブレーン社 1900円

「あなたがいちばん、うれしかったことは何ですか?」と、帯に書かれた、
実学マーケティング講座です。
「嬉象余報」とも書かれています。
こうした呼びかけからもわかるように、
「うれしさ」をキーワードにした、わかりやすいマーケティング書です。
内容が盛りだくさんで、消化するのが大変ですが、
示唆に富むメッセージや発想を促進するヒントなどがたくさんあります。
実際の「嬉開発物語」の事例報告も面白いです。

編者とは面識はありませんが、
この一部を、今成宗和さんが担当しています。
どこを担当されたのか、正解を出された方にはコーヒーをご馳走します。
今成さんのホームページのある年頭所感もぜひお読みください。

■「ぼくの見た戦争―2003年イラク」(写真集)
高橋邦典 ポプラ社 1300円

「アメリカは、イラクへの攻撃を「正義のため」のものだという。
しかし、その正義は、イラクの人びとにとっても、同じ正義といえるのだろうか。」

高橋さんの言葉です。

高橋さんは、ボストン在住の写真家です。
作品は、高橋さんのホームページで見てください。
http://www.kuniphoto.com


とても、素直で、やさしい写真がたくさん見られます。
しかし、できれば、ぜひこの写真集を購入して、読んでください。
平和の向けての本を購入することも、平和に向けてできることの一つです。

「あとがき」が、とてもいいです。
こんな文章があります。

みな同じ地球人なのに、なぜ、せせこましく殺しあわなくてはならなにのだろう?

なぜでしょうか。
「イラク復興」とか「人道支援」とか、 そのために、殺し合いが続くのであれば、
復興も支援も、意味がないように思えます。
殺し合いを無くすために、軍隊が必要なのでしょうか。

この写真集にでてくる光景は、今の日本の現実とは全く異質なものです。
しかし、いまのままだと、そう遠くない未来に、
こんな光景が日本でも見られるのではないかという不安があります。

平和に向けてできることに、ぜひ取り組みたいと思います。

この本は、日本ドナー家族クラブの間澤容子さんから送ってもらいました。
間澤さん、ありがとうございました。

高橋さんからもこんなメールをもらいました。

この本がすこしでも多くの人に、特におおくの子供達に、戦争というものを「感じ」
そして何より「考える」機会になってくれると願っています。ひとり一人が疑問をも
ち、考え、自分の意見をもつこと、これが行動をおこす原動力になるはずだし、それ
が将来を良くしていく第一歩になるのではないでしょうか。

全くその通りだと思います。
ともかくお勧めの1冊です。

■「老福論」一条真也 成甲書房 1400円
■「結魂論」一条真也 成甲書房 1400円

一条真也は、株式会社サンレー社長の佐久間庸和さんのペンネームです。
佐久間さんは、12年ぶりに執筆活動を再開しました。
私が知り合ったのは、執筆を中断されてからですが、
それまでの著作を読ませてもらい、非常に感心しました.
視点の斬新さと発想の広がり、そして博識さに、です。
昨年、お会いした時に、執筆活動再開の話を聞いていたのですが、
その作品が一挙に2冊出版されました。

まず書名がユニークです。
佐久間さんの面目躍如たるところです。
副題は、それぞれ
「老いるほど豊かになる」
「なぜひとは結婚するのか」
です。

「結魂論」では、スウェデンボルグが登場します。
それが主韻律になっていないのが、私には残念ですが、
話題は幅広く、軽い読み物ふうでもあるので、気楽に読めます。
私としては、もっと強いメッセージを期待していましたが、
まあ、今回は、執筆再開のためのウォーミングアップという感じがします。
しかし、それぞれの問題を考える入門編としては、読みやすく、面白いです。

きっとこれから、次々と晋著が出てくるでしょう。
冠婚葬祭の世界に、新しい風を起こしていくかもしれません。
楽しみです。

■「岡上菊栄の生涯」 武井優 島影社 1800円

お勧めの1冊です。
岡上菊栄は坂本龍馬の姪です。
そして児童福祉や養育の先駆者です。
本書は、その
岡上菊栄の生涯を丁寧な取材を踏まえてまとめたノンフィクションです。

読み物としても面白いですが、福祉や養育の問題を考える上で、さまざまな示唆が得られます。
そればかりではなく、 自らの生き方を考えるヒントも得られます。

菊栄の母は、
龍馬の姉の乙女ですが、龍馬に勝るとも劣らぬ人物だったようです。
そして、その娘の菊栄もまた、大きな人だったようです。
著者の武井さんは、その生き方に心から共感しているようですが、
私もまた感動しました。
私が志向している生き方とも大きく重なります。
私自身も、本書を読んで、自分の生き方に確信が持てました。

福祉に関する示唆もたくさんあります。
特に後半は面白いです。
時間のない人は、是非とも6章から8章だけでもお読みください。
感動的なエピソードがたくさん語られています。
彼女がいかに子どもたちを愛していたかがわかります。

菊栄は「教育方針」を聞かれて、こう答えたそうです。

「愛なくして何の教育ぞ」(213頁)

愛と理解こそ人間教育の最も優秀な武器、というのが彼女の姿勢だったようです。

菊栄と高利貸しのエピソードも感動的です(295〜299頁)。
菊栄は、惜しげなくお金をつかっていますが、その秘密も書かれています。
かつての高利貸しには、今の金融機関の経営者が失ってしまったものがあったのです。

金融機関の経営者たちに読ませたいものです。

菊栄は、奇しくも児童福祉法が制定された2日前に81歳で亡くなりました。
その後を継いだ武田紀との出会いのやりとりも興味深いです。
いや、その出会いもまた、実にドラマなのですが、それは本文を読んでもらうとして、そのやりとりだけを紹介します(325頁)。

すりきれた畳に正座した菊栄は、向かい合わせに座っている紀の顔にピタと目をやった。
(中略)
紀はコチコチになって緊張した。
菊栄はいった。
「この仕事はよほどのバカかアホウか愚か者でなければできません」
それを聞いた途端、紀の緊張はいっ気にほぐれた。歓喜雀躍した紀は間髪を入れず大きな笑顔をつくって返答した。
「はいッ。ありがとうございます。私はまことに、そのとおりの人間でございます」
すると菊栄は毅然として言葉をかぶせた。
「ただし、 ほんとうのバカかアホウや愚か者にできる仕事ではありません」


武井さんはこの10年くらい、里親の問題も追いかけてきました。
この本の前に2冊の里親関係の著作を出しています。
里親関係のNPOでも講演をされています。
今回の本もじっくりと調査をして書いていますので、迫力があります。
有名作家の本とは違って、内容があります。

昨年末に武井さんと久しぶりにゆっくり話しましたが、共感できるところがたくさんありました。
武井さんがうれしい手紙をくれました。

「現在、取材している群馬県のファミリーグループホームや、この菊栄の本、あるいは前々の拙著のテーマ、メインテーマと呼んでも差し支えありませんが、一貫しているのは「現場重視」です。それはファムケーションの骨子的な考え方と少しも異ならず、私は地域に埋没している優れた人物を掘り起こしながら、社会を構成している人々がいかに汗と涙と喜びの実感をかみしているか、を言い残したいのです。その点、佐藤さんと同じ姿勢です。また機会を見て語り合いましょう」

この本は装丁がもう少し「今様」であればもっと売れたと思います。
しかし、伝統的なしっかりした本の体裁になっています。
あまり書店にはないかもしれませんが、ぜひ近くの図書館に購入希望を出してくれませんか。
ぜひ多くの方々に読んで欲しい本です。


■「仕事に直結する企画書の書き方」
平田英二 著 ナツメ社 1,400円

インキュベーションハウス仲間の平田英二さんの新著です。
平田さんは、名前は時々登場していますが、まだ本格的に紹介する機会がありません。
いつか紹介したいと思っている一人です。その生き方に、私は関心をもっています。
一見、論理的で冷静のようで、かなりいい加減で、極めて人間的なのです。

その平田さんが、これまでの体験から得たノウハウをすべて公開した、企画書の書き方の実務書です。
但し、単なる実務書ではありません。
自己主張の多い平田さんですので、それとは気づかないところにメッセージを込めています。
「企画」とは何か、について改めて考えるヒントも含まれています。

平田さんの紹介文も読んで欲しいですが(ここをクリックして下さい)、
ここには平田さん自薦の「この本のツボ」を紹介しておきます。
1)小さな紙に「ミニ下書き」を書く
2)ミニマム企画書の「5つの箱」
3)"流れ"のよい企画書
4)「レイアウト」のくふう

また、企画という作業を、
「発想→構想→企画→企画書→プレゼンテーション」
という一連の流れでとらえ、発想法やプレゼンテーションについても概説しています。

企画書を書くためだけではなく、発想をまとめるためにも役立つ本です。
見開き単位で、図解も入れて、すごく読みやすいです。
企業の人も、行政の人も、NPO関係者も、みんな辞書代わりに1冊、ぜひお手元に置かれることをお勧めします。
これからの仕事の決め手は「企画書力」だそうです。
「企画力」だけではだめなのです。

テキストや講演会でたくさんの部数を使いたい方は、著者の平田さんにご連絡下さい。
もしかしたら著者割引で購入できるかもしれません。
平田さんに講義を頼むのもいいと思います。
この人もちょっとわがままなので、引き受けるかどうかはわかりませんが、
気が乗ればきっと出かけてくれるはずです。意外と単純な人ですから。
メールアドレス:
hirata@terra.dti.ne.jp

■ コミュニティ・ビジネス戦略
藤江俊彦 第一法規 1800円

コミュニティビジネスは最近の流行です。
しかしどうも違和感があります。
これまでの地場産業とどこが違うのか、
コミュニティをどう考えているのか、
ビジネスモデルとしてのコンセプトはどうなのか、
などが余り見えてこないからです。
そうした議論をもっとしっかりとやることが大切です。

この本では、そうしたことがわかりやすく、多面的に書かれています。
時代背景を踏まえた、コミュニティビジネスの概念整理の展開に続いて、具
体的な事例がいくつかしっかりと紹介されています。
NPOや地域通貨などとの関係も語られています。
新しいビジネスモデルに向けての示唆も感じられます。
コミュニティビジネスに関心のある方は、きっと頭が整理されます。
読みやすいので気軽に読めるのもいいです。

藤江さんは、昔からの友人です。
企業のコミュニケーション戦略の分野で、実践と研究の両面で、しっかりと取り組んできた人です。
しかも、私と違って、活動や研究の成果をきちんとまとめて本にしてきています。
そのエネルギーにはいつも感服しています。
今は千葉商科大学の教授です。

最近はなかなか会う機会がないですが、不思議なことに、関心領域がいつもかなり重なっています。
いつか藤江さんともこの分野で何かをご一緒したいと思っています。 

■非営利組織の事業評価
大田黒夏生ほか、日本評論社 2400円

非営利組織の事業評価について、実践例を中心にわかりやすくまとめた本です。
ケースは日本財団が助成したプロジェクトです。
リサーチ&デベロップメントでは、かなり早い時期にこのテーマに取り組みだしました。
評価が今のように流行になる前のことです。

リサーチ&デベロップメントという会社をご存知でしょうか。
この会社の創業者のお一人牛窪一牛さんは、これもいち早く、米国のボルドリッジ賞に注目し、
日本での経営品質賞制度づくりに取り組んだ方です。
惜しくも急逝されましたが、本当に残念でした。
実はボルドリッジ賞の論文を日本で最初にハーバードビジネスレビューに翻訳したのは私と半田さんです。
まあ、それはどうでもいい話ですが、そのことをしっかりと評価してくれた最初の人が牛窪さんでした。
亡くなる少し前にサントリーホールで偶然にお会いしました。
もう少しいろいろとお話したかった方です。

今回、この本を送ってくださったのは、牛窪さんの後を継いで、
リサーチ&デベロップメントの経営に当たられている大田黒夏生さんです。
太田黒さんとのお付き合いも長いです。
東レ時代からです。
この人がまた実に個性的です。

今回、彼が手紙を添えてこの本を送ってきてくれたのは少し理由があります。
この事業評価プロジェクトの最初の段階で、私もささやかに関らせてもらったのです。
私も以前は「評価」に関心を持っていました。
それで委員会のコーディネーターを引き受けたのです。
その後、忘れていたのですが、
それが見事に育っていることを知って、とてもうれしく思いました。
そのことを言及して贈ってくれた大田黒さんにも感謝しなければいけません。

余計な前置きが長くなってしまいましたが、肝心の本の紹介です。
事例中心ですので、実践的です。
リサーチ&デベロップメントが実に丁寧に評価作業をしていることがよくわかります。

事業評価に関しては、多くの議論があります。
本もあります。
しかしみんな抽象的一般的です。
正直に言って、あんまり参考にはなりません。
しかし、この本はその点、現場や実務をベースにまとめられていますので、
実践者にはとても参考になると思います。

もちろん不満もあります。
言うまでもなく、「評価」は目的ではなく、「手段」です。
大切なのは評価ら始まる物語です。
その視点がもっとあるとよかったと思います。

私が昨今の行政評価の動きに否定的なのは、評価が目的になっている、あるいは管理型になっていいるからです。
目的のない活動が、今の日本には多すぎます。
目的が明確であれば、社会はもっとエネルギーを消費しないですむでしょう。
仕事も効率的になるでしょう。
理想は評価などない社会です。
昨今の評価ブームの現状にはどうしても違和感があります。

といいながら、山形市の行政評価に関らせてもらっています。
新しいスタイルが生み出されればいいのですが。

いろいろと書きましたが、
評価に関心のある人にはお勧めの1冊です。



■ 「ゲンバの知恵袋」
  
福祉のNPOを元気にするマネジメント【訪問介護編】
    編集発行:市民セクターよこはま 2500円

NPOカウンセラーの松原優佳さんが中心になってまとめた、
介護現場で困った時の知恵袋が満載の本です。
介護に関わる人にはとても実践的に役立つとともに、
ケアの問題を考えるためにたくさんのヒントがあります。
松原さんはこの本作りに、この1年、全力投球してきました。
その成果です。
実践に必ず役に立つでしょう。

松原さんからいただいたメッセージです。
ご関心のある方、ぜひお読み下さい

この本は、介護保険事業を行なうNPOの運営や事務をなさる方が、
「ほかの団体はどうしているのだろう?」と思うことに答えるための1冊です。
たとえば、
「ヘルパーの給与、手当て、社会保険は?」
「ヘルパーにプロ意識を持ってもらうには?」
「介護保険業務管理ソフト、どんなものを使ってる?」
「利用者個人ファイルの中身は?」
「理事の交代と候補者の育成は?」
など30以上の質問に答える形式で、
横浜市内のNPOから集めた、運営の現場の知恵やノウハウを満載。
ヘルパーの報告書など、
実際に使われている各種書式も数多く掲載しています。

お申し込み・お問い合わせ
は、市民セクターよこはま(info@shimin-sector.jp
http://www.shimin-sector.jp、TEL:045-222-2023)まで、どうぞ。

■「かもめに誘われて」
伊藤久助 五曜書房 2190円

現場の人の佐藤和美さんから、ぜひ読ませたいと言って本が送られてきました。
それがこの本です。
長年、漁場体験してきた「現場の人」が、
漁、海、魚について、体験談を語った本ですが、
何しろ長い体験ですから、時代の変化に対しても、とても含蓄のある、
貴重な本です。

和美さんからのメールです。

本を書いた伊藤久助さんは、小学校を出てすぐ漁師になり、
千葉県館山市を根拠地に、沿岸、近海、遠洋とかなりの体験を積み、体で漁業を覚えた人です。
40過ぎに請われて東京水産大学の技官になり、昭和53年に退官した後も漁師を続ける一方、
学生の育成に取り組んでいます。
昭和51年生まれである僕の長女の面倒まで見てくれた人です。
また、JAICAの派遣でアスワン湖に3回も行っています。
尊敬できる現場人間です。
米寿祝いにあわせて、7年間書きためた文章を本にして出版しました。
文章は簡潔、挿絵が暖かく、虜になりました。
挿絵は娘の友達で、やはり水産大を出ている加藤都子さんという人です。


どうですか。読みたくなりませんか。

私は早速読みました。
こんな文章がありました。

先輩達から受け継ぎ、自分なりの体験で消化し、納得した観天望気がここ数年通用しないことがある。

恐ろしい話です。
詳しくは、その本の197ページをお読みください。
環境が壊れているのではありません。
自然が変わってきているのです。
環境問題の捉え方を変えなければいけません。
ホリスティックな環境観に切り替える必要があります。
環境保全などと言う傲慢な姿勢は捨てなければいけません。
それが私の読後感のひとつです。
近くの図書館に購入を申し込んでください。
1000部しか発行していませんから、図書館におくのが一番効果的です。

加藤さんの挿絵は、心安らぎます。


■「我貌」
時田幻椏 朝日新聞社 2800円


時田幻椏、本名芳文さんは熊谷の人です。現在は時田工務店の社長ですが、実に多彩な人です。
しばらく縁が切れていましたが、先日、時田さんからお手紙をいただき、付き合いが復活しました。
時田産は多彩な人です。若い頃は市民活動で活躍したそうです。私もそうした場でお会いしたのですが、もう15年ほど前になります。

1991年から葉行くの世界にも入り、2000年からは朝日俳壇への投句を開始。その2句目が入選したという人です。

澄む川の鷺も二日の白さかな

私は俳句は全くの門外漢ですが、この句は何か情景と気分が見えてきて、感情移入できます。

これまでも句集をもらった事はあるのですが、
あまり関心をもちませんでした。
今回も実は、最初はほとんど興味なく、金子兜太さんや砂川肇さんなどの寄文を読んだ程度でしたが、
先週、時田さんからまたメールをもらって、少し読んでみようかと思って、開きました。
誘いこまれました。
含蓄のあるメッセージがいくつかありました。
気になる句もありました。
言葉の力には驚かされます。

そんなわけで、今回は時田さんの句集のお勧めです。

■「生きるっていいもんだ――下駄先生の泣き笑い人生!」
谷口恭教 燦葉出版社 1500円

燦葉出版社の白井さんがまた新著を送ってきてくれました。
白井さんはどうしてこういう出会いに恵まれているのか、いつも不思議に思いますが、
今度は熊本市の谷口恭教さんの本です。
とても感動的です。そして元気になる本です。

谷口さんは3歳の時に小児麻痺に罹り、左手と右足が不自由になりましたが、
あることがきっかけになって、自然体の生き方を貫き、英語教師として43年間、見事な人生を送ってきました。
その「障害教師の泣き笑い人生」は、読む人に元気を与えてくれます。
自分の人生で語っている人の話はいつも感動的です。

谷口さんは教師時代、「いかにして生徒に自信を持たせるか」という1点に精力を傾けてきたといいます。
多くの教師が、その反対のことをしているのではないかと私は思っていますが、すばらしい教師だったと思います。

学力の基本は自信です。
昨今の学力低下の議論は、そうした発想と全く逆のアプローチのように思います。
文部科学省の官僚が自信を持っていませんから、まあ当然の帰結なのですが。
また余分なことを書きました。反省。

谷口さんの座右の銘がまたいいです。
「喜ぶ人と共に喜ぶ、泣く人と共に泣く」です。

この本はあんまり書店では見つかりません。
もし読んでみようかと思われたら、書店に頼むか、燦葉出版社に注文してください。
ホームページも見てください。
http://www.nextftp.com/40th_over/sanyo.htm

ちなみに、燦葉とはオリーブの葉っぱです。
谷口さんも、出版社の社長の白井さんもクリスチャンです。

■ 犬と鬼
アレックス・カー 講談社 2002年 2500円

本田宏さんから送っていただいた本です。
遅くなりましたが、今日、読み終えました。
100%共感します。私が思っていることが、実にわかりやすく見事に書かれています。
もし私のホームページに共感してくれるのであれば、この本をぜひお読みください。
一人でも多くの方に読んでほしいです。

そこで、先月の「平和に向けてできること」と同じように、「子どもたちに向けてできること」という趣旨でこの本の購入をお勧めすることにしました。

最初のところに次のような衝撃的なメッセージがあります。

「(日本は)ひょっとすれば世界で最も醜いかもしれない国土である」

私は日本の価値は「優しい緑の豊かさ」にあると考えています。
これほどに優しい緑があることに感謝しています。
しかし、その緑が、急速に失われつつあることも事実です。
そして水すらも飲めなくなってしまってきています
このホームページでも書きましたが、茨城県のふじみ湖に象徴されるように、
その緑を壊しているのは企業ではなく、行政です。
国と都道府県です。
もちろん企業も荷担していますし、私たち個々人もまた荷担していますが、
一番の責任は政治家と行政の経営幹部です。
やれることをやっていないからです。

先週もテレビで、福岡県の産廃施設をめぐってのインタビューに県の部課長が応じていましたが、
笑いながら信じられない発言を繰り返していました。
こうした人がぬくぬくと社会の重職に就いているという事実には怒りを超えて、哀しさを感じます。
彼らの家族はどう思っているのでしょうか。
福岡県の人たちはどう感じているのでしょうか。

しかし、それはさほどめずらしいことではありません。
私も含めて、そうした言動は、社会に充満しています。

先週の週間記録で紹介した、
国東半島に住みついてしまった竹沢孝子さんから「百姓天国」という雑誌が送られてきました。
もう廃刊になった本ですが、その第11集の巻頭言に、山下惣一さんが、
今はもう故人の守田志郎さんの本から、こんな文章を引用しています。

「進歩というものは、人類が死滅に向かう道だから、なるべくゆっくり歩く方がよい」

昭和49年に農文協から出版された「農家と語る農業論」の中に出てくる文章です。
山下さんも守田さんも、私が多くのことを学ばせてもらった人です。
山下さんとは面識はありませんが、守田さんには一度お会いしました。
もう25年以上前のことです。
当時、私は工業の農業化を考えていましたし、生き方への疑問も感じていましたが、
結局は何もできずに、とりあえずはそれから10年後に会社を離脱してしまいました。
進歩主義の見直しは、当時もかなりありましたが、こういういい方をしていた人はいなかったと思います。
感動しました。流行としてのスローライフとは似て非なる姿勢だと思います。

「犬と鬼」の著者は、最近の日本の社会パラダイムを次のように言います。

「日本のパラダイム」とは「強国・貧民」をいい、過去に、海外のオブザーバーはこれをうらやましく思い続けてきた。このパラダイムの美徳は国民が大きな犠牲を払うことにより、国家の経済力が増してゆくことである。

これは私がメッセージ6でも少し書いた、組織起点の社会構造原理です。
私の発想のすべての根底にあるのが、それとは反対のベクトルをもった個人起点の社会構造発想です。

ちなみに、公益法人改革とNPO法廃案の動きに関して、
行政改革事務局の松本さんという官僚が個人ホームページを開きました。
こういう人が出てきたことに未来の確かさを感じますが、
そのホームページの投稿欄に、先週、同じ視点で私見を投稿しました。
関心のある人はお読みください。
ホームページのアドレスは、
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/3331/

参考までに私の投稿記事をここにも再掲します。

本論に戻します。

日本はなぜこうなってしまったのか。
著者の答えに私も100%共感します。つまり現場と実体を失ったためだというのです。
一部、文章を変えていますが、概略次のように著者は主張します。

「日本はなぜこうなってしまったのか。それは昔ながらの生け花と奇抜な今の生け花との違いに象徴されている。その違いは、現代の生け花には「実がない」ということである。伝統的な生け花には宗教上あるいは儀式という目的があった。昔の人々は自然の神秘に尊敬の念を持っていた。宇宙の創造力にあふれた息吹を見出し、応えるための手段として生け花を用いたのだ。しかし今日、それも失われ、単なる飾り物としての目的しか持たず、植物や花そのものの本質を問うことはない。代わりに、花は生け手の気まぐれなニーズに応えるためだけに使われる、ビニールや針金などの材料と、ほとんど変わらない「素材」として扱われている。要するに、「実」もなければ精神的な目的もなく、自然が本来持つ力に通ずるものも何もない、ただ空っぽなデザインなのだ」

私のメッセージも読んでもらえるとうれしいですが、本当に現代は実体がない時代です。
実体とは無縁のところで、事が進められている時代です。

本の紹介にかこつけて、自分の主張をおしつけてしまったかもしれません。
しかし、それはそれとして、この本は実に示唆に富んでいます。
もし子どもたちに胸を張って誇れるような社会を残したのであれば、ぜひこの本をお読みください。
2500円でちょっと高いですが、平和に向けてやってくださったように、
この本を購入することで、私たちの老後が少し変わるのであれば、安い投資です。

私も何人かの人にこの本を送らせてもらおうと思います。
本田宏さんへの感謝を、他の人に伝えます。
ペイフォワードです

読後感をぜひご連絡ください。
佐藤修へのメール


■「介護のための安心読本」
島村八重子 春秋社 1800円

全国マイケアプラン・ネットワーク代表の島村さんが本を出版されました。
島村さんは、義母の介護の体験から、家族が主体的にケアプランを作成する活動を展開しています。
その活動は島村さんたちのホームページを見てください。
私はコムケア活動のおかげで島村さんと知り合えました。
そしていろいろと支援してもらっています。

この本の「はじめに」の一部を紹介します。
島村さんの思いと姿勢がわかります。

「まだまだ十分とはいえないものの、介護をめぐる社会環境は30年前とは比べものにならないくらい整備されているはずです。
でも、「介護」に対する社会の認識はほとんど変わっていないような気がします。多くの人にとって「介護」は、いまだに得たいの知れない怪物ではないでしょうか? 本書は、その得体の知れない怪物の攻略本です。
わが身にだけはふりかかってこないようにと祈りながら暮らしている人には、これからこの怪物に遭遇してもかわしていけるかもしれないという安心を、また今、介護という貧乏くじを引いてしまって押しつぶされそうな人には、その貧乏くじを宝くじに変えてしまう元気を提供したいと思います」


読んでよかったと思える本だと保証します。
島村さんの行動と思いを少しだけ理解しているだけでも、そう確信できます。

介護は決して苦しいだけのものではありません。
発想を変えれば世界は変わってきます。

介護に直面している方はぜひお読みください。
この本にはケアプラン自己作成ソフトもCDでついています。
これももちろん島村さんたちが開発したものです。
現場に立脚した人たちは、万能なのです。
全国マイケアプラン・ネットワークの活動もぜひ応援してください。

ちなみに、島村さんは「福祉マンションにある暮らし」と言う本も書いています。


■「NPO・公益法人改革の罠―市民社会への提言」
NPOサポートセンター連絡会監修 第一書林 1500円

公益法人改革に関連して、NPO法が見直されようとしています。
それに関連して、公益法人改革オンブズマンが大きな風を起こしました。
風を起こしたのは、浜辺哲也さんです。

私はNPO法を作るときにもお誘いを受けましたが、参加しませんでした。
私のNPO観や法制度観からすれば、法制を作ることにはあまり関心がなかったからです。
それになにやら権益のにおいがしたからです。
大切なのは現場であり、実体だという意識がどうもぬぐえません。

私は法律を学びました。
検事になりたかったのです。
しかし、法曹界の管理志向を感じて、早々に志を捨ててしまいました。
法学部で学んだのは、実体をよくするためのよりどころが法だということです。
そうした視点からすれば、まずは実体が肝心です。

税制面で優遇されなければ育たないようなNPOには、私は全く関心がありません。
その意味では、NPO法そのものに、ある大きな罠を感じます。

そんな意識の持ち主ですから、
公益法人改革に絡んだNPO攻撃?の問題にはほとんど関心がありませんでした。
しかし、浜辺さんという人に会って、感動しました。
柄にもなく、公益法人改革オンブズマンに参加してしまいました。
あんまり真面目な活動家ではないですが。

この本は、今回の事件に関連した動きがまとめられています。
浜辺さんも執筆しています。

浜辺さんが、もし書いていなかったら、私は一顧だにしない本です。
しかし、浜辺さんが書いていますし、読みようによっては、今のNPO業界の問題点が良くわかる本でもあります。

浜辺さんが担当した「応益法人改革は21世紀の社会システムを壊していないか」は、
これからの社会のあり方を考える上で、いくつかの示唆を与えてくれます。
NPOに関連している人はもちろん、それ以外の人も、ここだけはぜひお読みください。

■相島新田井上邸の歴史と建物の活用保存
我孫子まちづくり交流会編  500円

我孫子市の井上邸のことは、以前、報告させてもらいました。
我孫子まちづくり交流会では、その井上邸の活用と保存に関心を持っていますが、
昨年の5月11日に井上邸をテーマにした公開シンポジウムを開催しました。
このたび、その記録を小冊子にしてまとめました。

こういう問題に興味のある方はぜひ、活動を支援する意味も込めて、購入してもらえるとうれしいです。
1冊500円ですので、コーヒーを飲む代わりに、日本の文化を味わってみてください。

読んでくださる方には、郵送します。
代金は今度お会いした時払いで結構です。

ぜひとも多くの人たちに読んでもらいたいと思っています。
よろしくお願いします。


■「いのち輝かせて生きる」
(市川覚峯 致知出版社 1400円)
日本経営道協会代表、市川覚峯さんの新著です。
市川さんのことについては別項をご覧下さい。

著者が前書きに書いているように、
「都会の企業コンサルタントが、山の行者の視座を入れながら、語った」本です。

「日本思想から学ぶことがたくさんある」というのが市川さんの考えです。
そうした考えから、市川さんは1200日の行を重ねました。
私も行の合間に、比叡山、高野山、大峯山に、市川さんの行のすごさを体感しにいきました。
いずれの行も、半端な勤めではありません。

この本は、そうした筆者の思いが込められた本です。
実践的な実体験に支えられた本ですから、含意することは大きいです。
読みやすい本です。

市川さんはいまも、経営者を対象に、比叡、高野、吉野で、短時間の行擬似体験をするプログラムを展開しています。
ご関心ののある方はぜひ参加して見てください。

■「松下幸之助の遺伝子」 (前岡宏和 かんき出版 1400円)
以前、一度、自費出版本を紹介した前岡宏和さんの本がかんき出版から出版されました。
前岡さんは幸之助の直弟子です。

前岡さんも前書きで書いているように、
「松下さんの企業観や経営観は、「運命観」や「人間観」と切り離せない」ために、
昨今の非人間的な企業経営の時代にははやりませんが、
今こそ改めて幸之助経営を新しい目で見直す必要があるように、私も考えています。

■「実践的ボランティア論」
宮田喜代志ほか 小林出版 2500円


コムケア仲間の宮田さんも参加して出版した、非常に読みやすい実践的なNPO論です。
副題に「ボランティア実践とNPO法人の概要」とあるように、実践面でもとても参考になります。
学生向けのテキストとしても、またボランティア入門者の手引きとしても最適です。
宮田さんは、このホームページにも時々登場しますが、熊本でさまざまな活動に取り組まれています。
福祉と農業が、専門です。
コムケアの理念に共感して、いろいろ応援してくださっています。
この本でも、コムケア活動のことを取り上げてくれています。

目次を紹介しておきます。
1.現代のボランティア論
2.勤労者ボランティア論
3.新しいボランティアとNPO活動の実践
4.NPOの基本的概念
5.NPOがつくる成熟した市民社会
6.NPO法人の運営と実践

読まれた方はぜひ感想などをお寄せください。

■「地球的平和の公共哲学」

公共哲学ネットワーク編 東大出版会 3400円

ブックのコーナーではご紹介しませんでしたが、
週間記録などで紹介した「非戦の哲学」(ちくま新書)の著者の小林正弥さんたちの公共哲学ネットワークが編纂した最新書です。
ちょっと高価ですが、まずはぜひ「購入」してほしいと思っています。その理由は下記します。

その前に内容ですが、出版社の案内では次のようになっています。
詳しくは出版社の案内をご覧ください。リンクしています。

9・11以後の世界をいかに捉えるか。
文明の衝突論の危険に抗し、デモクラシーの帝国アメリカを批判し、
文明間対話を可能とする平和の公共哲学をいかに構築すべきか。
リアルな政治認識をふまえて
多様な文化の相互理解と地球的平和の実現に向けての
第一線研究者による討議の記録。

このコーナーでは必ず私が読んでから紹介させていただいていますが、
今回は例外で、私もこれから読むところです。
しかし、小林さんが公共哲学ネットワークのメーリングリストで、次のように書かれていましたので、
読む前に紹介させてもらうことにしました。
ちょっと長いのですが、ぜひ読んでいただきたく、引用させてもらいました。

書籍は初めの1ヶ月の売れ行きによってその後本棚に残るかどうかが決まるそうです。
ですから、購入される方は、是非早くご購入して頂ければ幸いです。
このような平和志向の本が売れて本棚に多く残るということは、長期的に平和への風潮を作ることに役立つでしょう。
(中略)
まずは、この本が、より多くの人に読まれ、そして地球的平和問題への関心を高め理解を深めていくことが、
迂遠なようで、実は大きな効果を持つのではないか、と思います。
来月には、姉妹書『戦争批判の公共哲学――「反テロ」世界戦争における法と政治』(勁草書房)が刊行され、
現在その最終作業に大童です。
例えば、この2冊が学術書としては異例の売れ行きを示し、
一種の社会現象としてマスメディアなどに取り上げられればどうでしょうか。
おそらく、論壇や社会の雰囲気が変わるだろうと思います。
研究者以外の方には、このような本を読むのは、あまり習慣にはなっていないかもしれません。
しかし、この本は難解ではなく、会議の記録の性格を持っていますから、
前提の知識なしにも十分に読むことができるでしょう。
あるいは、以下の会に来て頂ければ、私達で説明することもできます。
(注:公共哲学ネットワークの会です。ここのホームページもぜひ訪問してください)
『地球的平和の公共哲学』を買うこと、そして読むことは、それ自体平和への努力だと思います。
街頭でデモをする場合にしても、その行動を支える知識や思想がある場合には、
平和運動がより力強いものになると思います。
ですから、研究者の方はもとより、平和を求める公共的市民の方々にも、是非お読み頂き、
周囲の方々にもお勧め頂ければ幸いです。

メールの前文は別項に掲載しました。

ちなみに、小林さんはデモにも参加されています。
行動の人です。
まだ私は面識はありませんが、「非戦の哲学」を読んで感激しました。この本もぜひお読みください。

「到津の森の詩」
原賀いずみほか北九州市インタープリテーション研究会 向陽舎 1500円

今年の2月、小倉北区でまちづくりトークライブを開催しました。
そこでさまざまな実践者とお会いしましたが、
そのお一人が原賀いずみさんです。

原賀さんたちは、北九州市の住民にとって、身近な動物園として親しまれてきた到津遊園の閉園が発表された後、存続に向けての活動を開始し、昨年、リニューアルオープンを実現しました。
その活動記録を、彼女たちが本にしたのが、「到津の森の詩」です。

原賀さんたちの活動の原点は、地域の人々の憩いの場であった到津遊園で育まれてきた児童文化と環境教育、市民参加の歴史をみんなでしっかりと振りかえり、新たな市民文化の創造につなげていこうという思いだといいます。
それは見事に実現したようです。
原賀さんは、
足元の文化を掘り起こして未来につなげることこそ、大切な事なのではないかと思っています」と手紙に書いてきました。
全く同感です。
各地でまちづくりに取り組まれている方々にとっても参考になると思います。

一般書店ではなかなか手にはいりませんが、ご関心のある方は出版社(向陽舎)にお問い合わせ下さい。
向陽舎の電話ファックスは、093−561−0944。
私にメールを下されば、先方に連絡します。

■ 「こっちの水はにーがいぞ」
(逆井萬吉 文芸社 1400円 2003)

■ 「忘れないで 季節のしきたり 日本の心」
(鮫島純子 小学館 1600円 2003)

今回は、私たちが忘れてしまった大切なことを思い出させてくれる2冊の本を紹介します。
よかったらお読みください。

まず1冊目は「こっちの水はにーがいぞ」。これはローカルな本です。しかし、実は極めて普遍的な本でもあります。著者の逆井さんは我孫子市の住民ですが、生まれたのは茨城県の菅生沼の近くの七郷村です。今は岩井市になっています。
昭和20年代に、逆井さんはそこで子供時代をすごしたのですが、当時の思い出を自然体でまとめた本です。逆井さんの日記のようなものですが、しかしそこに私たちが忘れてきた、大切な生活の文化、人としての幸せなどが見事に描かれています。私たちの原風景といっていいかもしれません。人と人とのつながり、人と自然とのつながり、時を超えた世代のつながり。私も自分の子供時代を思い出しながら、読ませてもらいました。
もし、ここで描かれているような生活文化が今もなお、大切にされていたら、最近の日本社会の不幸せはきっとないでしょう。私たちの世代は、子供たちのためと思いながら、実は子供たちから文化を奪ってしまったのかもしれません。文化がない社会では、人は安堵を得られません。不安の中で、憎悪を高めていくことになるでしょう。そのひずみが、最近、どんどん顕在化してきています。
哀しいことです。

2冊目は「忘れないで 季節のしきたり 日本の心」。以前、ご紹介したこともある鮫島純子さんの3冊目の作品集です。今回は歳時記です。鮫島さんのあざやかなイラストと解説で、これまた私たちの原風景を再現してくれる本です。
鮫島さんは渋沢栄一さんのひ孫です。といっても、もう80歳。
80歳ですが、実に活動的でパワフルな方です。この2年、お会いしていませんが、とても魅力的な方です。
この本はイラストが中心ですが、彼女はそれを何も見ずに、一気に描きあげてしまうのだそうです。
鮫島さんは、この本の中で、「しきたり」って最初に気持ちありきなのよね、と話しています。しきたりに、もう一度、気持ちを込めていくことにつとめたいものです。