川本兼さんの平和の本
■『「日本国民発」の平和学』
川本兼 明石書店 2600円(税別)
平和をライフワークにしている川本兼さんの最新作です。
本書は、川本平和理論の集大成ともいえますが、同時にいまの日本の状況を踏まえた「警告の書」でもあります。
しかも昨今の平和への取り組みに対しても、なぜそれが奏功していないのか、川本さん独自の視点で理論化しています。
若者を意識して書かれていますが、論旨明快で、とても説得力があります。
若者をだめにしてしまった、私たち世代も読みたい本です。
川本さんは「平和」を「民衆の戦争の苦しみからの解放が基本的人権として保障されている状態」と定義しています。
この定義には、実にさまざまなことが含意されています。
そうした平和を実現するためにどうしたらいいか。
それは本書を読んでください。
これまでの多くの「平和関係の書」とは違います。
目線が常に生活者個人にあるのです。
川本さんはいくつかの具体的な概念を提起します。
たとえば基本的人権としての「平和権」、そして「民衆の非武装権」。
これまでの平和学からは出てこない発想です。
「民衆の非武装権」とは、民衆が国家の兵員になることを拒否する権利です。
民衆による暴力を禁止し、暴力を独占することによって、近代国家は権力の基盤を確立しましたが、
それは同時に「国民を暴力に狩り出す権利」の獲得でもありました。
そのため、これまでの平和理論の中では「民衆の武装権」が問題になりました。
民衆が圧制からの自由を求めて、立ち上がる権利です。
その典型的なものが市民革命ですが、川本さんはそうした「民衆の武装権」はもはや必要なくなったといいます。
むしろそうした武装権は国家に組み込まれてしまい、実質的には国家に対する兵役義務に転化してしまったというのです。
国家による暴力行使の主体は国民です。
国家が戦争を遂行できるのは、兵員としての国民を自由に暴力遂行パワーとして使えるからです。
ブッシュや小泉が戦争をするわけではなく、現地で戦いを担うのは兵隊や自衛隊員です。
しかも彼らは原則として戦場で人を殺すことも含めた暴力の行使を拒否することは出来ないのです。
そこでは「平和のために人を殺傷する」というおかしなことが起こります。
そこで、国家による暴力行使のために強制されることを拒否する権利として、非武装権が重要になってくるというわけです。
これはガンジーの非暴力主義とも違います。
この非武装権は川本平和論のキーワードの一つですが、
こうしたいくつかの重要な概念が私たちの生活の視点で語られているのです。
そして、日本人の貴重な戦争体験を踏まえて、平和への革命をスタートさせようと呼びかけています。
その第一歩は、「戦争ができる国家」に制約を加えることだといいます。
具体的には、新しい平和憲法の制定です。
この点に関しては、今の日本の状況は全く反対の方向を向いており、
戦争をしやすくしようと多くの政治家や経済人は考えていますし、多くの国民もまたそれを支持しています。
川本さんは、そうした状況を知っていればこそ、あえて新しい平和学を提唱しているわけです。
ちなみに、川本さんは新しい平和憲法も起案しています。
これに関してはすでに別著「自分で書こう!日本国憲法改正案」を書いていますが、本書にも川本平和憲法案が掲載されています。
在野の研究者の新しい平和論。ぜひ多くの人に読んでほしいと思います。
川本さんがこれまで出版された本も、併せてお読みください。
もし著者と話し合いたいという方がいたらお知らせください。
川本さんをご紹介します。
5人以上集まれば、川本さんをお呼びして話し合いの場をつくるようにします。
いま「平和」の問題をしっかりと考えておかなければ、
この先100年、私たちはたぶん平和を手に入れることはないのではないかと私は思っています。
そうならないようにするのが、日本人のミッションではないかと思っています。
本書を読んで、平和についてぜひ考えてみてください。
■「平和のための政治学」
川本兼 明石書店 2600円(税別)
川本兼さんは積極的に若者向けへの平和の働きかけをしていますが、この4年で6冊の本を出版されました。
しかも、極めて密度の濃い内容を、高校生でも理解し興味を持てるように、十分に咀嚼した本です。
単なる知識を整理した本ではなく、川本さんオリジナルのメッセージもあります。
川本さんへの平和への思いの深さや危機感の強さが伝わってきます。
本書は前著「平和のための経済学」の姉妹編ですが、副題には「近代民主主義を発展させよう」とあります。
高校生や大学生を意識した書き方になっており、言葉の概念整理をしっかりしていますので、
言葉だけの議論ではなく、実体議論がなされていることに好感が持てます。
知識を持っている大人たちには、時に教科書的な印象を与えるかもしれませんが、
今こそこうしたしっかりした本を多くの大人たちにも読んでほしいと思います。
決して、若者向けだけの本ではありません。
政治とは何か、国家とは何か、民主主義とは何か、といった基本的な概念を、
私たちはあいまいにしたまま、政治論義をし、平和論議をしがちですが、それでは議論は出来ても行動にはつながりません。
本書の内容は別のサイトをお読みください。
http://www.hanmoto.com/bd/ISBN4-7503-2404-3.html
私が面白かったのは、「民衆」「公衆」「大衆」「群集」の議論です。
そうした言葉に本質が含まれていることは少なくありません。
「民主主義は平和と結びつくことによって発展する」も面白かったです。
普通は「平和は民主主義に結びつくことによって発展する」という議論が多いのですが。
最終の項目は「近代民主主義はもはや『遅れた民主主義』である」です。
国家権限の再配分の提案もあります。
どうですか。読んでみたくなりましたでしょうか。
もう少し薄くして、安くしてほしいですが、まあじっくり消化すれば格安の本です。
高校生に戻ったつもりになって、読んでみるととても楽しいかもしれません。
そして、読んだら是非行動に移してもらえればと思います。
平和に向けてできることはたくさんあります 。
今の日本は、まさに歴史の帰路にあります。
ちなみに川本さんの本書以外の最近の5冊は次の通りです。
いずれもブックのコーナーで紹介しています。
●「平和のための経済学」
●「自分で書こう!日本国憲法改正案」
■Q&A「新」平和憲法
― 平和を権利として憲法にうたおう
●「どんな世界を構想するか」
●「どんな日本をつくるか」
川本さんを囲んでの平和論議に関心のある方は私にご連絡ください。
3人以上のご希望があれば、企画します。
■「平和のための経済学」
川本兼 明石書店 2500円(税別)
先週、週間報告で紹介した川本兼さんの新著です。
これまでも川本さんの著作は数冊紹介してきましたが、
川本さんがこれほど著作活動に力を入れるのは、「平和に関する新しい考え方」を広げていきたいからです。
その考え方を川本さんは次の3点に整理しています。
@平和を民衆の解放の歴史の中に位置づける。
A民衆の解放は基本的人権で表される。
B平和は基本的人権の形にして民衆が獲得していくべきものである。
この3点をベースにして、川本さんはこれまで数々の著作を書いてきました。
しかし、もっと広い見地で、政治や経済に対する考え方を伝えていかないとだめだということに気づいたそうです。
そして、新たに書き下ろしたのが、本書です。今回は経済が扱われています。
川本さんが発想の根底においている独自の考えが2つあります。
「人権革命」と「新社会契約説」です。
その視点から「平和権的基本権獲得のための第3の革命」を問題提起しています。
言葉だけだと伝わりにくいと思いますが、こうした発想の基本にあるのは「すべての人間の個人の尊厳」です。
統治のための基本的人権や民主主義の限界を川本さんは指摘します。
こうしたことはこれまでの川本さんの著作で詳しく述べられてきましたが、
本書でも最終章「資本主義経済に枠組みを与える社会的価値」に簡潔に整理されています。
次の文章を読んでもらえれば、川本さんの視座と視野を理解してもらえるでしょう。
近代民主主義は、人間の尊厳と基本的人権を認められる人々の範囲が余りにも狭すぎる。
資本主義の利潤原理は「他者の『人間の尊厳』に対する配慮」を欠いた経済原理だった!
近代民主主義も「他者の『人間の尊厳』に対する配慮」を欠いた政治原理だった!
その原因を、川本さんはそれらの淵源のカルヴァニズムに求めています。
そうした考えを基本において、本書では経済学の基本がわかりやすく書かれています。
平和を獲得していくためには、
私たち一人ひとりが、自分の考えに基づいて主体的に行動していくことが必要であり、
そのためには経済に対する知識が必要だと川本さんは言います。
これまで学校で教えていた経済学は果たして平和のための経済学だったのかどうか、
というのが川本さんからのもうひとつの問題提起かもしれません。
本書は是非若い人たちに読んでほしい本ですが、
「経済を知って平和や福祉のことを考えよう」(本書の副題)という川本さんからの呼びかけは、若者だけに向いているわけではありません。
読んでいただけるとうれしいです。
そして平和に向けての何か行動を起こしてもれるととてもうれしいです。
■Q&A「新」平和憲法 ― 平和を権利として憲法にうたおう
川本兼 明石書店 840円 2004年
このホームページで何回もご紹介した川本兼さんの新著です。
これまで書かれたものを「もっと短く!もっと安く!」をモットーに手ごろなブックレットスタイルでまとめたものです。
川本さんは、「普通の国」および「半封建国家」への反動が進む現状を打破するために、
精力的に静かな活動を展開しています。
この本は若者向きの本ですが、若者に限らずに、一人でも多くの人たちに読んでほしい本です。
はしがきから引用します。
「新」平和憲法としたのは、「護憲」「護憲」と唱えても、
今の憲法のままではもう支えられないと考えるからであり、
平和憲法もその欠点を革めて、新しいものにすることが必要だと考えるからです。
憲法の「革新」こそが必要なのです。
(中略)
日本人の戦争体験を無視した改正論議がまかり通るのは、
私たちがまだ近代憲法の本質についての十分な議論をしていないからだと思います。
近代憲法の本質とは何か。
川本さんは、近代憲法には人権原理と統治原理があるが、
人権原理が統治権利の目的になることが近代憲法のパラダイムだと考えます。
したがって、憲法論議は人権原理の議論から始めなければいけません。
そして、人権原理に基づいて語られる平和原理(戦争体験から導き出される平和原理)を保障するために、
第9条がいかにあるべきかが考察されなければならないと、川本さんはいいます。
共感します。
こう考えると、抽象的な平和概念が具体的な実感をもちだします。
800円と手ごろな本ですので、ぜひ購入されてまわりの若者に読んでもらってください。
武田さんの憲法サロンは継続できませんでしたが、
今度は、川本さんの憲法サロンを開催したいと思います。
2月ころを想定しています。
まずはその前に、ぜひお読みください。
ちなみに、12月13日の毎日新聞に、漢字学者の白川静さんが、こう書いています。
戦争をどこまで知っておるのかね。小泉さん、62歳か、ご存じなかろう。
この記事もとても感動しました。ぜひお読みください。
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2004/12/13/20041213dde012070096000c.html
■「自分で書こう!日本国憲法改正案」
川本兼 明石書店 2004年
平和権に取り組む川本兼さんの最新刊です。
とてもわかりやすく、特に若い世代に読んでほしい本です。
川本さんには構想学会のラウンドテーブルを企画してもらいましたが、
その経験も、この本づくりの動機の一つだといいます。
議論するにも情報共有があまりに不足していることを感じられたのかもしれません。
川本さんの思いが読み取れます。
憲法改正案ももちろん書かれていますが、たぶんそれが目的ではなく、
その案が出てくる背景にある考え方をていねいに説明しています。
最近の改憲論の粗雑な議論に嫌気がさしている私としては、
こうしたコンテンツのある議論に共感します。
基本にある考えは、平和権であり、獲得する平和論です。
何でもないようなことですが、本質的なパラダイム転換が含意されています。
読み込んでいくと、様々なメッセージが含意されているのに気づきます。
ご自身はもちろんですが、
できれば周辺にいる若者に勧めてください。
もし若者たちの集まりで、川本さんと議論したいと言うグループがあれば、川本さんに頼んでみます。
川本さんと一緒に、平和議論を広げたいと思っていましたが、
一度、平和サロンをやってみて、平和は議論するべき問題ではないことに気づきました。
同時に、平和は「平和の議論」ではなく、
福祉や環境、文化や教育の議論から出てくるものだと思いました。
従って平和サロンはしばらくお休みです。
しかし、できるだけ早い時期に、川本さんをお呼びしてのサロンを開催したいと思います。
参加者は、この本を読まれた方にしたいと思います。
読まれた方はぜひご参加下さい。
7月になったらご案内します。
■ 「どんな世界を構想するのか」
川本兼 明石書店 2400円
このコーナーで紹介している「どんな日本をつくるのか」との二部作の新著です。
川本さんのことは、前著に関連して紹介しましたし、また週間記録でも紹介しました。
この本の基調は、人権体系や平和構想を、国家起点ではなく人間起点で再構築していこうというものです。
人権や平和も、どこに起点をおいて考えるかによってまったく違ったものになります。
私は、そうした川本さんの基本姿勢に共感しています。
人間起点、個人起点で考えると、決して理屈や言葉では議論できなくなるからです。
つまり自分の生活と重ねながら、具体的に語らないといけなくなるから、話が理屈で終わらなくなるのです。
言葉だけで語っている人を私は信頼できません。
川本さんは憲法9条を持った日本は、時代を先取りした平和国家への可能性を持つ国家だと考えています。
敗戦と占領という事件が、そうした状況を偶然にも実現させたのです。
しかし、その理想国家の芽が、いままた、「普通の国」へと回帰しだしていることに危機感を持っています。
この本は前著に比べるとかなり読む努力が必要です。
新しい社会契約説や新しい基本的人権観が丁寧に書かれています。
私は読み終わるのに、前著の2倍の時間がかかりました。
それだけ密度が高いのですが、
しかし難解なわけではありません。
終章に学校の話も出てきます。
学校でも社会契約を学ぼうと言う章です。
「学校だからこそ許される犯罪」と言う刺激的な節もあります。
学校は小さな「国家」ですから、国家の本質は学校に顕現しています。
学校のいじめの問題を解決するのは学校だけでは無理でしょう。
川本さんは、この二部作を若者たちへのメッセージとして書いているような気がしますが、
私はこの二部作を、ぜひすべての世代の人たちに読んでもらいたいと思っています。
お読みいただき、川本さんに感想を送っていただけたらすごくうれしいです。
なお、5月に川本さんを囲む会を開催します。
参加ご希望の方はご連絡ください。
正式の案内はまた改めて「お知らせ」のコーナーに掲載します。
■
「どんな日本をつくるのか」
川本兼 明石書店 2400円
副題に「戦争を知らない戦後生まれの大人から21世紀を生きる若者へのメッセージ」とあります。実に素晴らしい本です。皆さんのまわりの若者たちにぜひ勧めてほしい本です。いや、皆さんご自身にもぜひ読んでほしい本です。
著者の川本さんは以前、オープンサロンにも参加してくれましたが、神奈川県の高校の先生です。私とはリンカーンクラブでお会いしました。日本平和学会の仲間でもあります。
川本さんは「平和権」「国民主権に耐えられるか」(いずれもすずさわ書店)など、すでに何冊かの著書を出していますが、いずれも極めてメッセージが明確で、川本さんの思いがしっかりと書き込まれています。この2冊もお勧めです。
川本さんは、昨今の日本は「半封建国家」「ファシズム国家」への回帰が急速に進展しており、もはや危険水域に達しているといいます。私も同感です。
そして、若者たちに、自分の頭で「考え」、その自分の「考え」に基づいて「行動」できる人間になってほしいという思いから、この本を書いたということです。どうでしょうか。皆さんは大丈夫でしょうか。自分の頭で考え、行動していますか。
ちょっと引用が長くなりますが、3つほど引用させてもらいます。
「(最近の日本の状況は)どう考えても戦後社会ではありません。それは戦前社会そのものです。特に「君が代」を歌うことが強制される社会やボランティアという名目で奉仕活動が強制される可能性がある社会は、わが世代(戦争を知らない子供たち世代)が想像したこともない社会です。」
「今の60歳前後から70歳中頃までの世代は「戦争を知っている子供たち」です。彼らは戦争の時には戦場ではなく学校にいて、戦前の教育を受けていたのです。天皇制ファシズムが完成した時代に教育を受けたという意味で、彼らは「天皇制ファシズムの純粋培養世代」です。当時、大人だった世代は、戦争に参加したという後ろめたさもあり、また、あの戦争がやはり「正義」ばかりの戦争ではなかったことを知っていますが、その子供たちは、学校で軍国教育を受け、実態とはかけはなれた「正義」の戦争に思いを抱いていた世代であり、何のうしろめたさもありません。」
「国家の平和と安全を自分の平和と安全と一体視してはなりません。国家の平和と安全が自分の平和と安全につながっていると考えてはなりません。「国家の安全と平和」と「自分の安全と平和」は明らかに異なっており、前者は後者の犠牲の上に成り立っているのです。それが一体であると考えるのは、戦争と戦争の合間の、国民がすでに過去の戦争を忘れかけはじめた時に発生する錯覚でしかないのです。」
反論もあるかもしれません。しかし、本書にはきちんとその論拠も書き込まれています。
それに川本さんは感情的なアジテーターではありません。それはこの本を読んでもらえればよくわかります。非常に真摯で、信頼できる人です。
もし多くの方が読んでくださり、共感を持ってもらえれば、川本さんを中心にしたフォーラムを企画したいと思います。ご関心のある方は是非ご連絡ください。
この本の読者を一人でも増やすために、皆さんのご支援をお願いいたします。
読後感も是非お寄せください。
なお、川本さんは「平和権」(すずさわ書店)という、とてもいい本も書いています。これもお勧めです。