■文化センター建設計画から始まった住民主導のまちづくりの風
(地域振興アドバイザー通信から転載)

茨城県のほぼ中央に位置する美野里町(人口2万5千人)は、畜産と農業の盛んな自然豊かな田園都市である。そこに今、新しい風が吹き始めている。まだ成果を評価するのは早いかもしれないが、地方分権時代に向けての新しいまちづくりのひとつのモデルであることは間違いない。

ことの発端は文化センターの建設計画である。美野里町では、長期構想に基き、町の中心部に「四季の里」という、福祉、文化、情報の施設を集積する地域整備を進めているが、その中心である文化センターの基本構想を住民と行政との協働で取り組むことになった。

そして、住民と町役場職員に対して、活動への参加を呼びかけたところ、10人の住民と5人の職員から応募があった。全員、ほぼ完全な自発的応募である。そして委員会が発足した。

これまでのように、行政の計画案に対して意見を出し合うだけの委員会ではなく、白紙の段階から構想を描き、実際の計画にまでつなげていくという、住民主導の進め方を行政は考えていた。そのため委員会に専門家を加えることが必要だった。そうして呼ばれたのが、地方振興アドバイザーの、世古一穂さん(参加のデザイン研究所)、藤本信義さん(宇都宮大学)、そして私である。

住民ニーズを踏まえた美野里町らしい文化センターをつくって、それを活かしたまちづくりをしたいというのが、美野里町の要望だった。3人のアドバイザーが異口同音に言ったのは、どうせやるなら思い切り住民主導で進めるべきだということだった.

おそらく最初は、参加した住民も行政がどのくらい本気なのか疑問だっただろう。行政もどこまで任せられるのか一抹の不安があったことだろう。しかし、アドバイザーも参加した何回かの委員会で、住民も行政も少しずつ意識が変化するとともに、相互の信頼関係も深まっていった。

1年間の活動結果としてまとめられた委員会の報告書では「まちづくりの主役は住民」「取り組み過程が大切」ということが強調され、その結果、予定されたスケジュールを固守するよりも、住民が納得できるまで時間をかけて議論していこうということになった。

その後の美野里町の活動は実に見事だった。もちろんすべてが順風万歩で進んだわけではない。箱物行政批判の中での反対論、文化センターよりも体育館や図書館を優先さすべきだという意見、行政がもっと主導性をもって効率的に進めるべきだという意見、実に様々な意見が住民から寄せられた。

委員会の構想を住民に発表した文化シンポジウムでも反対論がたくさん出された。しかし、そうした批判に対しても「住民主導を目指す」という行政の基本姿勢は変わることがなかった。

新しい活動に対しては風当たりが強い。それに耐える人がいるかどうかが大切だが、美野里町には幸いそうした職員とそれを支える住民が存在した。

住民からの批判は、まちづくりにとっては決して悪いことではない。批判が顕在化してきたことは、住民がまちづくりに関心を高め、真剣に考えるとともに、それぞれの意見を自由に出し合える状況を創っていったということでもある。

次第に、文化センター建設の是非から、美野里町にはどんな施設が必要なのかという主体的な議論に発展していったことも大きな成果だった。そして、ワークショップや子供たちの作文コンテストなど、活動は住民たちの手で次々と広げられていった。予定よりも数年遅れはしたが、住民の手で構想がまとまり、設計も住民参加によって完成し、来年度(平成13年度)には待望の文化センターが着工されることになっている。

現在は、センターのオープンを目指す会が住民によって組織され、文化イベントの開催をはじめとして、オープンに向けての活発な活動が展開されている。 こうした成果が評価されて、美野里町の文化センター建設事業は平成12年度からはじまった建設省の対話型行政推進賞にも選ばれた。新しいまちづくりのモデルとして高く評価されたのである。

文化センター建設でつくられた住民と行政との信頼関係は、さらに大きな動きへと発展し始めている。美野里町の総合計画づくりが、住民の積極的な参加のもとで取り組まれだしたのである。しかも、計画づくりだけではなく、実施に関しても住民が積極的に関わり、評価していく方法が模索されだしている。

計画には、住民自らが責任を持って実践していく課題や計画も取り込むことになっている。住民と行政が共催するまちづくりを考えるシンポジウムも行われた。

文化センター建設から始まった美野里町の新しい風は確実に育ちだしている。もちろん住民主役のまちづくりはそう簡単なことではなく、これからも様々な問題が起こるだろう。だが、住民と行政との信頼関係が育っていれば、大きな流れは変わることはない。

美野里町の新しい風が、さらに大きく育ち、それが全国に大きな風を起こしていくことを確信している。

2000年11月 佐藤修

 

■ 美野里町の文化センター「みの〜れ」が開館しました(2002年11月3日)
これまで何回も経過報告してきた、美野里町の文化センター「みの〜れ」がついにオープンしました。こけら落としは住民劇団によるミュージカル。参加者へのお土産は、わが美野里出版社の製作した「文化がみの〜れ物語」(次項参照)です。
開館のテープカットは、住民も参加して100人によって行われました。式典はちょっと月並みでしたが、若者たちによる、みのり太鼓は素晴らしかったです。
こけら落としのミュージカルは、住民たちの演ずる「田んぼの神様」。4歳から72歳までの幅広い住民が自発的に劇団をつくっての公演です。専門家による厳しい指導の成果で、なかなかのものでした。住民主役の文化センターの幕開けにふさわしいものでした。

オープン式典では、「文化がみの〜れ物語」の冒頭の部分が一部読み上げられました。その部分をぜひお読み下さい。ここをクリックすると出てきますので。