上山信一さんの本

■政策連携の時代
上山信一 日本評論社 2500円

日本に行政評価の動きを広げた一人、上山さんの最新著作です。
副題は「地域・自治体・NPOのパートナーシップ」とありますが(この表現には異論がありますが)、米国の事例をベースにして、日本における行政とNPO、あるいは行政と企業の連携についての実践的なあり方を論じています。
上山さんとはこれまでちょっと視座が違うという思いを私は持っていたのですが、今回の本はすごく共感できました。

上山さんと会ったのはまだ私が東レにいた頃です。彼はマッキンゼーだったかと思います。その時は視座を共有していましたが、私が企業から脱落したため、少しずつ波長にずれが生まれてきたように感じていました。
今回はそうした違和感は全くありませんでした。
私が読んだ上山さんの著作の中で一番のお勧めです。

「政策連携」は上山さんの造語です。「社会問題」から発想し、さまざまな立場の個人が組織や専門性(立場)を背負いながら、連携していくという方法論です(かなり不正確なまとめかもしれませんが)。
これまでの組織連携とはもちろん、市民活動とも違うと上山さんはいいます。
このことは革命的な発想の転換です。
現場から遠い人たちには、なかなかその違いが実感できないかもしれませんが、現場にいる人たちはすでにそうした取り組みを知らず知らずのうちにはじめているような気がします。

上山さんは、しかも、実例を使いながら、丁寧に実践的なプロセスまで解説してくれています。
そこからのメッセージをしっかりと受け止めれば、これまでの行革の無意味さとそれを打破する展望が開けるはずです。
一人でも多くの人に読んでほしいと思います。
最もすべてをしっかりと読もうとすると、疲れますから、拾い読みをするのでもいいです。
ただし、繰り返しじっくりと読んでほしい本です。

行政評価やNPOとの連携、あるいはニューパブリック・マネジメントなどと、言葉の流行を追うのではなく、発想を変えましょう。今はそういう時代です。

なお、この本は行政関係者だけではなく、企業人やNPO関係者にもぜひ読んでほしいです。
必ず大きな示唆を得られます。

私がメッセージで書いている「個人から発想する時代」の発想や行動様式は、上山さんのいう政策連携です。
組織発想はもうやめましょう。

出発点は表情をもった人間でなければいけません。
そして、社会問題は現場から編集していくことの大切さに、みなさん、ぜひ気づきましょう。
世界が全く違って見えてくるはずです。

■「行政の経営改革」
上山信一 第一法規 2400円

上山さんは日本に行政評価や行政経営の風を起こしたおひとりです。
私が知り合った時は、マッキンゼーにいました。私がまだ東レにいた頃です。
多分、私が取り組んでいたCIに関心を持ってくれたのではないかと思います。
そんな話をした記憶があります。
今は米国ジョージタウン大学の教授です。
日本でも様々な場で活躍されています。

その上山さんの最新の著作です。
実務家を応援するために書いた、と上山さんは言っています。
そのせいか、私には今までの著書の中で一番なじめる本でした。

特に三重県のケーススタディの第5章は多くの人たちに読んでもらいたいと思いました。
できれば、このコーナーでも以前紹介したばばさんの三重県行政改革2部作(上山さんの本でも紹介されています)も合わせて読まれると効果的です。

本の紹介ではないのですが、上山さんからの手紙の一節を紹介します。

改革とは事態を変える事です。
行政改革も本来は「経営改革」のはずです。
そしてその要諦は、組織のメンバーに改革へのインセンティブを与えるところにあります。
しかし日本ではこの点も忘れられ、公務員パッシングが横行しています。

全く同感です。これは企業にもいえることだと思いますが。