■ 開発援助か社会運動か―現場から問い直すNGOの存在意義
定松栄一著 コモンズ社 2400円

定松さんは、このホームページの「ボルガタンガ便り」を書いている田中雅子さんのパートナーです。長年、国際開発の現場で「住民主体の開発」に取り組まれてきました。この本は、シャプラニールのネパール駐在員のときの体験を中心に、実にわかりやすく(具体的に)、しかし本質的に、開発協力のあり方を整理し、読者に大きな問題をなげかけてくれています。もちろん、定松さんご自身の姿勢も明確に出ています。国際開発に関心のある方はもちろんですが、すべての方に読んでいただきたい本です。開発やNGOの関係の本は、私もそれなりに読んでいますが、この本はぜひお勧めしたい1冊です。

紹介したいことはたくさんありますが、ふたつだけ紹介します。
まずは「カマイヤ」。この本の書き出しは次の一文です。
「カマイヤ」と呼ばれる「奴隷」がネパールにいることを私が知ったのは、1994年にこの国を初めて訪れたときである。
実はこのカマイヤが、我々が考える「奴隷」ではなかったことが本の中で解き明かされていきます。異文化の接触の中で、それぞれの文化の文脈で相手が解釈されることの危険性が実例をもって語られています。
もうひとつはインドラの知恵です。インドラはカイヒラ村の住民ですが、社会構造化されている高利貸し依存の泥沼から自分たちが自立していく仕組みを、外国のNGOを活用しながら実現した人物です。この話も実に示唆に富みます。日本の高利貸し社会(日本の金融システムに私は犯罪性を感じています)にも大きな示唆を与えてくれます。

中途半端な紹介ですが、この二つの話を読むだけでも、この本は価値があります。NGOは政治の問題を避けていていいのか、という、もっと大きな問題提起もありますが、それについて書き出したら、それこそ私も1冊の本を書きたくなりますので、止めておきます。