「団塊世代のミッションビジネス」(大川新人編著 日本地域社会研究所)所収の序文


〔序に代えて〕
■団塊世代の新しい舞台が広がりだしています

団塊世代がまた社会を大きく変えていく鍵を握りだしました。
日本経済の発展に大きな役割を果たしてきた団塊世代が、そろそろ企業を卒業し、それぞれの地域に戻りだす年齢になってきました。厳しい企業社会で活躍してきた団塊世代が、今度は舞台を地域社会に代えて、どんな活動に取り組むのか。それによってこれからの日本が大きく変わっていくことは間違いありません。
過疎化に悩む自治体ではそうした団塊世代を呼び込もうとさまざまな呼びかけを行ないだしましたし、財政難に直面している大都市周辺のベッドタウンでは地域に戻ってくる団塊世代のエネルギーをまちづくりの新たな戦力にしようとその仕組みづくりに余念がありません。
これまで働き蜂のようにがんばってきた団塊世代が、今度は消費者として新たな市場を創出するのではないかという期待も広がっています。たしかに新たなシニア市場は生まれるでしょうが、さまざまな調査結果によれば、団塊世代はただ消費者として生活をエンジョイするだけでは満足できないようです。たとえば野村総研の「団塊世代のセカンドライフに関するアンケート調査」(2005年8月)によれば、8割近い人たちが60歳を過ぎても仕事を続けたいと考えています。新たな事業を起こしたいという起業意欲を持っている人も15%もいるのです。さすが「団塊世代」です。
団塊世代は、やはり前に進んでいくのが好きなのです。

時代の大きな変わり目の中で、社会には課題が山積されています。団塊世代の豊富なノウハウやネットワークが社会に向けられることになれば、その解決に大きな威力を発揮するはずです。新たな団塊世代の時代の始まりです。
しかし危惧がないわけではありません。これまで主に組織人として活動してきた団塊世代が、組織を離れた時に果たしてうまくやれるのだろうか。経済合理性一本やりの世界と違い、多様な価値観が混在している地域社会のなかで思い切り能力を発揮できるだろうか。いや、それ以前に、どうやって最初の一歩を踏み出すかという問題もあります。
団塊世代の地域社会戻りに重なるように、日本の社会もまた大きな見直しの時期に入ってきました。財政赤字が限界を超えつつある行政の構造改革はもはや先送りできない問題ですし、産業社会も目先の業績改善とは裏腹に、さまざまな矛盾を露呈させ始めています。そうした壁を破る動きのひとつとして期待されたNPOも、数だけは増えていますが、その実態はお寒い限りです。NPOにも経営発想が必要だといわれていますが、組織としての自立性をもったNPOはまだ少ないのが実状です。経営や事業になじみの少ない人たちが、その主役ですから、仕方がないのかもしれません。
こうした状況のなかで、団塊世代への期待が高まっています。これまでの企業やNPOとはちょっと違った、事業型NPOや社会重視のコミュニティビジネスの担い手として、団塊世代が社会に大きな役割を果たしていく時代が始まろうとしています。

コミュニティケア活動支援センター(コムケアセンター)は、6年前に発足し、みんなが気持ちよく暮らせる社会を目指して、汗をかきながら活動している人たちの輪を広げていく活動に取り組んでいます。活動を通して、さまざまな新しいタイプの起業家やその支援者たちとの出会いがありました。いわゆる「社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)」です。
本書の編著者の大川新人さんも、その一人です。米国でNPOマネジメントを学んできた大川さんは、さまざまなNPOの活動支援に取り組むコムケアセンターの活動(コムケア活動)に共感し、事務局に参加してくれましたが、そこでの体験をベースに、「成功するNPO・失敗するNPO」(日本地域社会研究所)を上梓しました。コムケア活動に参加したNPOを取材して、NPOの経営ノウハウをまとめた実践の書です。
その出版から4年、日本のNPO法人の数は3倍以上に増えましたが、その実態は残念ながら進化したとは言えません。相変わらず行政の下請けや企業の逃げ場としての存在が多く、形骸化したNPOも少なくありません。
しかし、新しい社会事業の担い手としてのNPOへの期待はますます高まっています。今こそ、本来的な意味での経営発想がNPOにも求められているのです。事業感覚を身につけた団塊世代たちが、この世界に入ることの意義はとても大きいといえるでしょう。
本書にも出てくるNPO法人イー・エルダーは、そうしたなかでいち早く経済的自立を目指し、事業活動を展開してきたNPOです。日本における事業型NPOのさきがけとして注目を浴びていますが、その理事長の鈴木政孝さんは社会性と収益性の両立という難題を見事に解決し、新しい事業モデルを構築されてきた先駆者の一人です。本書の座談会でも語られていますが、最近の企業からともすると失われている経営の原点を鈴木さんは実践の場で模索してきたのです。

鈴木さんもまた、コムケア活動の仲間の一人ですが、団塊世代を対象にした多摩市での連続講座を大川さんと鈴木さんがコラボレーションしたことが契機になって本書が生まれました。組織から解放された団塊世代に、ぜひともその力を活かして、社会の閉塞感を打破し、自らの人生も充実していってほしいというのが二人の思いです。その思いに共感して、私も協力させてもらいました。
事業型NPOで成功したイー・エルダーの実践体験とNPOに外部から関わってきた大川さんとのコラボレーションの成果である本書は、団塊世代(に限りませんが)が事業型NPOや社会事業を起こしていく上での実践的なガイドブックになるはずです。
この本の出版を契機に、新しい事業起こしを目指す団塊世代のネットワークづくりや本書をテキストにした各地での出前講座も計画されています。
本書はただ読むだけの本ではなく、行動を起こすための本なのです。読者のみなさんと一緒になって、そうした構想をコラボレーションしていければと思っています。
まずは本書を読んでいただき、みなさんご自身の夢を膨らませ、実現への一歩を踏み出すとともに、構想の実現にも参加してもらえるとうれしいです。
お会いできるのを楽しみにしています。

2007年12月12日
コミュニティケア活動支援センター
事務局長 佐藤修