■新しい時代を開くNPO活動のノウハウバンク構築に向けて
成功するNPO 失敗するNPO」序文原稿

最近の日本の社会はちょっと元気がありません。いや、元気がないどころか、おかしくなっているというべきかもしれません。新聞やテレビを賑わせている事件をみても、どこか社会がおかしな方向に向かっているような気がします。なぜこうなってしまったのでしょうか。
社会は、大きくは「公」と「私」から成るといわれます。「公の世界」で活躍しているのが行政、「私の世界」で活躍しているのが企業です。ところが、このいずれもが、最近、不祥事続きで、社会の信頼を失ってきています。これでは社会がおかしくなっても仕方がありません。
しかし、その責任は私たちの生き方にあるのかもしれません。私たちは、この数十年、行政や企業に自らの生活を預け過ぎてきました。何か問題があると行政や企業のせいにし、その一方で、企業や行政に依存してきたような気がします。
そんな状況への反省から、「公」と「私」とは別の第三の世界が注目されはじめています。「共の世界」です。みんなが支え合いながら、自分たちの問題を自分たちで解決していこうという世界です。そこでの主役として、いまNPOへの期待が高まっています。
たとえば福祉の問題。あるいは環境問題。そうした問題を行政や企業だけに任せるのではなく、問題解決に向けて自分たちでしっかりと知恵と汗を出していくための、いわば活動拠点が広義のNPOです。市民活動組織と呼び替えてもいいかもしれません。
法人格を取得するNPOも急速に増えています。間もなく1万を超すでしょう。そして、その裾野には膨大な数の市民活動組織があります。おそらく、社会の閉塞状況を打破し、新しい地平を開いていくのも、こうしたNPOの活動ではないかと思います。
しかし、そうしたNPO活動に問題がないわけではありません。いや、むしろ問題山積というべきでしょう。今は一種のブームとして、行政や企業からのNPO支援もあり、また社会的な評価もあって何となく持続できていますが、実体がしっかりしているNPO活動はそう多いわけではありません。むしろ、法人格はとったものの、これからどうすればいいか悩んでいるNPOも多いでしょう。このままいくと、NPOもまた壁にぶつかり、せっかく育ちだした「共の世界」の健全な発展を阻害しかねないとも限りません。
問題はいくつかありますが、一番の問題は、NPOという言葉の広がりの割には、その活動方法、組織づくり、あるいは経済基盤の確立などのノウハウが蓄積されていないことです。いや、それ以前に、NPOそのものの実体に関する議論が整理されておらず、実に雑多な活動がNPOという言葉で語られるがゆえの混乱も少なくありません。
確かに最近では、NPOに関するテキストや参考書が増えてきています。しかし、その多くは、理論の次元にとどまっており、実際の活動にはあまり役に立たないのも事実です。

私は、昨年、住友生命社会福祉事業団からNPO支援プログラムの事務局を受託されたのを契機に、コミュニティケア活動支援センター(コムケアセンター)を立ち上げました。誰でもが気持ちよく生活できる社会づくりを目指して、汗をかきながら活動している市民活動の相互支援の輪を広げていくというのが、この組織のミッションです。
そこを拠点に、全国各地のさまざまなNPO活動の実態にふれさせていただきました。そこでわかったことは、実にさまざまな活動が広がっていること、しかし、そこでの体験知が社会的に全くといっていいほど蓄積されていないということです。また、ちょっとしたアドバイスが大きな意味を持つほどに、日本のNPO活動は未成熟であることも改めて知らされました。
私たちが取り組んでいる活動(コムケア活動)の理念は、お互いに学び合い、支え合いの輪を広げようというものです。ですから、仲間になったNPOは、その体験知やノウハウを惜しげもなく公開してくれます。もちろん失敗の体験も含めてです。そうした体験知をみんなのものとして共有化する仕組みをつくっていきたいと考えています。
そんな思いを持っているときに、米国でNPOマネジメントについて学んできた大川新人さんに会いました。そして、彼が日本のNPOに対して、実践的に役立つ本を書こうとしていることを知りました。そこで、コムケア活動に共感してくださっているNPOに協力をお願いして、経験や実態をありのままに語ってもらい、そこからNPO活動に役立つ体験知を整理してもらうことにしました。
この本は、その成果です。協力してくださった団体の、汗と知恵の結晶を踏まえて抽出されてきたNPOの実践的マネジメントのチェックリストといってもいいでしょう。できるだけ実践的に役立つように、大川さんがさまざまな工夫をしていますので、必ず有益な示唆が得られるはずです。

しかし、ここで語られていることがすべて正しいわけではありません。NPO活動が直面する問題はそれぞれに違いますから、一概に正解を出すことが出来ない場合も少なくないからです。大切なのは、こうした知恵や情報が、どんどんと整理され、共有化されていくことです。誰でもが活用できる形で、知見が蓄積されていけば、これからのNPO活動にとって、大きな支えになるはずです。
この本が、そうしたNPOノウハウバンク実現の第一歩になればと思っています。そのためにも、この本の感想や異論反論をどんどん著者に送ってやっていただければ幸いです。

なお、本書で述べられている見解は、大川新人さんの個人的見解であり、コミュニティケア活動支援センターの見解ではないことを予めお断りしておきます。

コミュニティケア活動支援センター
事務局長 佐藤修