岸田さんの『モノづくりのヒント』の紹介記事と著者のプロフィール
■ へそ曲がりデザイナーの岸田能和さんの処女作
岸田さんは実に哲学的な人です。私がなぜそう思うかというと、彼は朝、パンを食べる時に、パンの気持ちになれる人だからです。みなさん、パンの気持ちを考えてパンを食べていますか。彼が哲学の人であることは間違いありません。その彼の処女作です。
とても面白い本です。私は何回か笑い転げてしまいました。もちろん笑わずに最後まで読んだ不幸な人もいます。 面白いだけではなく、大きな示唆も得られます。モノづくりというよりも、生き方のヒントと言うべき内容です。もちろん、パンの気持ちの話もあります。
この本は、私もメンバーである、ユニバーサルデザイン関係の集まりのメーリングリストで毎週発表されたものを再編集したものです。そのメーリングリストでは、まだ連載が続いていますので、パート2も期待できます。
この本のファンが集まって、「ものづくり塾」を始めようかという話も生まれています。そのプロデューサーは、この本を企画した人物です。関心のある人はご連絡下さい。岸田さんは間違いなく、これからまた本を書くことになるでしょう。楽しみにしていてください。
■本の紹介
いまどきの優等生ビジネスマンならば、これからのモノづくりは、「デジタルツールを武器に、データを科学的に分析し、ロジカルなコンセプトをプランニングし、バーチャルな検討によって短期開発を実現し、グローバルなマーケットに通用する戦略的な商品を…」とでも言うのだろうか?
しかし、ものの向こうにいるのは「生身の人間」のはずだ。しかも、ひとりひとりが違う個性を持っている。
だからこそ、へそ曲がりの筆者は、あえて 「アナログ」「人情」「情感」 「現場」といったものづくりにこだわっている。彼は、カメラ、住宅、クルマなどのメーカーで商品デザイン、商品企画などに20年以上も関わってきた。そうした経験を通して、人のくらしをさまざまな角度から見てきている。その結果、モノづくりに関わる人、あるいは生活者自身が、もっと自分たちの足下を見るべきだと考えるようになった。
たしかに、政治、社会構造、経済システム、市場など人々をとりまく環境は、たった10年前には想像もつかなったくらい、大きく変化している。そのため、ものをつくる人、選ぶ人、使う人……だれもが、あおりたてられるようにして、変化に遅れまいと無我夢中で走っている。しかし、たまには立ち止まって足下を見ないと、つまずいたり息切れして、やがて苦しくなるはずだ。
本書は、そんな足下にある大切なことを「見るためのヒント」「考えるためのヒント」「伝えるためのヒント」として整理し、商品企画やデザインに関わる人たちはもとより、一般ビジネスマン、さらには生活者も気軽に読めるように、軽妙なタッチのエッセイとしてまとめている。
■著者プロフィール
岸田能和(きしだ・よしかず) 1953年生まれ。
多摩美術大学(立体デザイン専攻)を卒業後、カメラメーカー、住宅メーカーで工業デザイン実務を担当。
1982年、自動車メーカーに入社。自動車のインテリアデザインを担当後、デザイン部門の長期戦略企画、デザイン企画、全社VA活動の企画、特装車のマーケティング、戦略商品の先行企画などを担当。
2000年3月に同社を希望退職。
■書名:『モノづくりのヒント』商品開発のネタが、身近にこんなにもある!
■著者:コンセプトデザイナー 岸田 能和
■イラスト:立花 尚之介
■刊行日:2001年6月
■出版社:かんき出版 〒102-0083東京都千代田区麹町4-1-4 西脇ビル Tel.03−3262−8011
■定価:1400円(本体価格)
■岸田さんの肩書きがまたひとつ増えました。「漂流者」です。岸田さんからのフォーラム投稿からの転載です。
私の本棚には鎖国をしていた江戸時代の漂流民に関する本が何冊かあります。
漂流民と言えばジョン万次郎が有名ですが、彼のほかにも嵐や船の故障で流され、アメリカ、メキシコ、ロシアなどに漂着した漁師や輸送船の乗組員たちがいます。私がそうした漂着民に興味があるのは、自らの意志とは関係なく、ことばも通じない異国にたどり着き、それでも生き抜いた人たちに敬意を感じるからです。(もちろん、多くは、望郷の思いを募らせながら命を落としたり、奴隷になるなど悲惨な結果も多いのは悲しいことですが)
先日、鹿児島大学の梅田教授(佐藤修さんのオープンサロンでもおなじみの元・トヨタのカーデザイナー)にお会いしたのですが、ひょんなことから、鹿児島から漂流した「ゴンザ」の話になりました。
私がゴンザのことを知ったのは、「漂流民・ゴンザ」(かごしま文庫47/田頭 壽雄 著/春苑堂出版)という本です。この本は地方出版社の本ですので、地元以外ではなかなか目にふれることは少ないのですが、私が有楽町を「漂流」していたとき鹿児島の物産館になぜか入ってしまい、そこで見つけたものです。
ゴンザは1728年に太平洋で漂流、1729年にカムチャッカ南部に漂着。1734年女帝に拝謁。1736年日本語学校教師になる。露日辞典の編集開始。1738年「新スラブ・日本語辞典」完成。1739年没(21歳?)
当然、この時代に日本は鎖国をしていましたが、ロシア側はやがて日本と国交を結ぶことを目指して日本語学校を設立していたそうです。そこへ、漂流したゴンザ(本名はゴンザエモン?)が赴任し、初めての露日辞典の編集に携わるのです。その辞典は現在の露日辞典の基礎になっているものです。しかも、当時の鹿児島弁の発音が分かるという民俗学的、言語学的な価値もある辞典でもあります。
そんなふうに漂流民のお話をしたあと、梅田さんからいただいたメールには、私のことを「もともと(岸田は)漂流志向だね」とありました。そうなんです。さすがは、梅田さんです。私は積極的に海へ漕ぎ出す勇気はありませんが、流されるのなら、それもオモシロイと考えるほうです。ですから、いくつかの会社を経た「漂流サラリーマン」なのです。
したがって、これからは、肩書きを「コンセプトデザイナー」から「漂流者」としようかと思っています。でも、そろそろ、どこかへ漂着して定住民になりたいと思っています。
ちなみに、拙宅にある漂流民関係の本ですが、 「私のジョン万次郎」中浜博著(四代目):小学館 「新世界へ」佐野芳和著:法政大学出版局 「世界をみてしまった男たち」春名徹著:ちくま文庫 「最初にアメリカ人を見た日本人」キャサリン・プラマー著 酒井正子訳 すこし、ずれますが 「黒船前夜の出会い」平尾信子著:NHKブックス 「ペリーはなぜ日本に来たか」曽村保信:新潮選書 などです。他にもあったと思いますが、見当たりません。