■「泥と水と虫と子どもとおとなと」
遠山洋一 筒井書房 1500円

久しぶりに遠山洋一さんからお手紙をいただきました。
新著が同封されていました。

遠山さんはバオバブ保育園ちいさな家の園長です。
全国私立保育園連盟の常務理事でもあります。
私とのご縁はそこでの出会いです。
保育に関して、理念と情熱をお持ちの方です。

この本は、バオバブ保育園で展開されている、さまざまな生活と事件をまとめた本です。
3冊目で、今回は1999年から2002年の報告です。

保育の世界をみれば、おそらく時代が見えてくるでしょう。今も未来も、です。
そういう思いで、私も少しだけ保育の世界を見た時期があります。
正直に言えば、少し失望しました。
閉じられた特殊な世界だったからです。
そこでの現実をもっと社会と共有していくべきだと言ってきました。

保育の世界でも、新しい試みはたくさんあります。
そうしたこともしっかりと伝えていく必要があります。
今のジャーナリストは事実を伝える能力に欠けています。

この5年くらいの間に、しかし事態はかなり変わってきました。
それがいい方向か悪い方向か、私は判断に迷いますが、
遠山さんの取り組みは確かなものだと、この本を読んで改めて納得しました。
遠山さんはいつも理念的で、現実的です。

この本をぜひ皆さんに読んでほしいと思うのは、時代が見えてくるからです。
前の2冊は私には少し退屈でしたが、今回はとても刺激的でした。
私が成長したのか、時代が変わったのか、わかりませんが。

「はじめに」から、遠山さんの言葉を紹介します。


今問題なのは、増大する保育需要に対して、
できるかぎり安いコストでその受け皿をつくろうという動き、
保育にかかるコストを切り詰めさせようという動きが
政治や行政のいろいろなところから出されていることです。
保育に社会的な費用が注ぎ込まれている以上、
コストが検討の対象となるのは当然のことで、
高ければ高いほど良いなどとはもちろんいえません。
しかし、現在のこういう流れの中で、
これまで保育園が培ってきた良質なものを守っていけるのだろうかという危機感を
多くの保育関係者が抱いているのが現状だと思います。

もう一つの現実として、
「キレやすい子が増えている」
「背景にはさまざまな問題を持った家庭の増加がある」
「児童虐待が増えている」
などが指摘され、データや事例でも示されています。
だからこそ、家庭への援助までを視野に入れた保育が必要になっているのですが、
お母さんたちとのコミュニケーションがとりにくくなっているという保育者の声もよく聞かれます。

(私もこうした)危機感をひしひしと感じています。
でも私は、
危機感よりも希望を、
問題点の指摘よりも励ましを、
違和感よりも共感を
語りたいと思ってメッセージ(この本)を書きました。

遠山さんのお人柄が伝わってきます。
私は今の社会の現実に保育園も荷担してきたという認識を持っています。
さらに、 「保育園が培ってきた良質なもの」にもいささかの疑問があります。
しかし、遠山さんの最後の言葉には共感します。
そして、この本を保育関係者でない人たちにも読んでほしいと思っています。

■「やってあげる保育から見守る保育へ」

藤森平司 学習研究社 1429円

アクションの2002年4月24日で触れましたが、新しい保育園づくりに取り組んでいる藤森平司さんの著書です。藤森さんはもともとは建築家ですが、建築は総合芸術だと考えています。そして、同じ総合芸術である保育に活動の主舞台を移して、いま、大きな新しい風を起こしつつあります。建築は総合芸術。バウハウスを思い出します。建築の世界では、その視点がいま、あまりにも欠落しているように思いますが。ちなみに藤森さんは「保育とは人と人との関係をデザインする仕事」と考えています。

私は藤森さんの活動をしっかりと把握しているわけではありません。しかし、藤森さんが本気で新しい風を起こそうとして大きな取り組みをしていることに共感しています。藤森さんの視野に歴史と社会を感じるからです。

その藤森さんの「子どもたちが自発的に活動できる保育環境づくり」の実践的なメッセージをわかりやすく、コンパクトにまとめた本です。保育関係者はもちろんですが、すべての人に読んでもらいたい本です。なにしろ子育ては、私たち自身のこれからの生活環境に大きな影響を与える、私たち自身のテーマなのです。ご自身の子育てが終わったからといって、子育てから無縁になったなどと思ってはいけません。未来はいつも子どもたちによって、もたらされるのですから。子育ては高齢者対策でもあるのです。そして、子育てはまちづくりそのものなのです。

藤森さんは「21世紀型保育のススメ」(世界文化社)という本も出されています。とても示唆に富む本です。いつか、藤森さんを囲んで、子どもについて語り合う場を実現したいと思っています。この本を読んだ感想をぜひおよせください。藤森さんに伝えます。

■「子育ては、いま」
前田正子 岩波書店 1700円

前田正子さんは、この4月から横浜市の副市長です。
中田宏市長から直接に頼まれての就任です。
3月までは、シンクタンク(ライフデザイン研究所/第一生命経済研究所)の研究員で、
自らも働く母親の立場から保育制度や育児支援策などの研究に取り組んでいました。
少子化関係の委員会などでも活躍されてきました。

私は、全国私立保育園連盟の経営委員会の同じ特別委員として、
この数年、お付き合いがあります。
しっかりした見識と実践を踏まえて、とてもはっきりと自己主張される人です。
私がとても共感できるのは、前田さんはいつも現場に立脚した自分の言葉で語るからです。

この新著も、現場を踏まえての発言です。
私も少しは知っている保育園も登場します。
家庭における子育て支援も取り上げられています。
「誰もが無理なく子育てできる社会へ」と帯にかかれていますが、
そうした社会はきっと、だれにもやさいい気持ちのいい社会でしょう。

子育ては若い母親たちだけの問題ではありません。
みんなにとっての重要な問題です。
そうした意味で、この本をできるだけ多くの人に読んでほしいと思います。
とても読みやすい本ですので。