社内誌コンペティション総評
毎年お引きうけしている社内誌コンペティションの報告書に寄稿している総評です。

2005年社内誌コンペティション総評
社内誌の記事はコミュニケーションの成果でありプロローグです
コンセプトワークショップ代表/佐藤修


2003年社内誌コンペティション総評

もっと自由に大きな社会と同期しましょう
コンセプトワークショップ代表/佐藤修

■ 社内誌は企業変革にとっての両刃の剣
日本の企業はいま、元気がない。ますます短視眼的な経済主義一辺倒になり、たこつぼ化し、時代の大きな流れから外れていっているように見える。企業も社会の子であれば、生きている社会に同期していなければ、元気が出るはずもない。企業に果たして、その気があるのだろうか。
そんな気分の中で、44の社内誌の企画を読ませてもらった。文化・コミュニケーション部門だったので、企業が社会とどう付き合おうとしているかを期待していたのだが、残念ながら企業の内向きの姿勢を確認するものが多かった。企業の現状を象徴していると同時に、企業の未来も示唆しているような気がする。
とまあ、かなり辛口の感想から書き始めたが、それは社内誌に対する期待が大きいからである。社内誌は企業変革の起爆剤であり、社会との同期を引き起こす触媒になりうる、極めて戦略的なメディアである。逆にいえば、企業文化を硬直化させ、組織を社会から隔離するメディアにも成りうるのだが。

■ 視野をもっと広い社会に向けて、自由に発想しよう
それぞれの企画はいずれも意欲的で読み応えがあった。社員の一体感を高め、企業文化の向上や広がりにつなげていく熱意も伝わってきたし、準備段階での周到さも感じられた。
しかし、全体を読ませてもらって、なぜか満足した気分にはなれなかった。なぜだろうか。
それはおそらく、ほとんどの企画がこれまでの経営管理発想の延長にあり、話題も企業や産業の内輪話に限られていることが多かったからではないかという気がする。登場人物もこれまでの優等生ばかり、という気もしないではない。社内誌である以上それは当然だ、と言われそうだが、企業変革期の社内誌として、本当にそれでいいのだろうか。
時代の変わり目のなかで、企業も変革が迫られている。しかし、どう変わればいいのか。それが必ずしも明確でないところに問題がある。もし社内誌が企業変革に関わるのであれば、編集者は変革のビジョンを持たなければいけない。変革のビジョンは組織の中からは生まれにくい。
日常の業務から少し距離をもち、しかも外部と接点をとりやすい編集者ならではの自由な発想が求められている。編集者は、それを経営層にも社員にも問いかけられるポジションにある。そのことをもっと意識するべきではないか。

■ 単発ではなく、企画の思いを継続し発展進化させる仕組み
今回の企画の多くには、そのビジョンがあまり感じられない。企画に対する熱意は感じられても、企業の未来へのもっと大きな熱意が見えてこない。そのため、せっかくの企画が大きく膨らみきれないでいる。そこから感じられるのは、編集者の世界もまた「たこつぼ」になっているのではないかという危惧である。編集者は自らの世界をもっと広げていく必要があるのではないか。
今回の審査では、個々の企画記事だけではなく、社内誌全体の構成との関係で評価させてもらった。たとえば、「かもめ」のいくつかの企画はすべて完成度が高く感心したが、同様な記事が多かったのと仕事中心だった点からかなり厳しく評価した。そのひとつ「もうひとつの肩書き」のような視野の広がりに期待したい。
また、記事の完成度よりも、その企画の発展性や具体的な活動の広がりへの期待を重視した。「社報ヤマハ」の「長谷川至の現場百回」は百回続けるという姿勢に共感した。この記事を契機に様々な活動が広がることを期待したい。「Family」の「ケンの英語講座」や「わ」の「編集部による整理術」も発展が楽しみである。社内誌の記事は新しい物語づくりのプロローグであってほしい。
組織を社会に向けて大きく開いていく社内誌の役割は大きい。そして、編集者の世界の大きさが、企業文化に大きな影響を与えていく。そのことをしっかりと認識しながら、自らの世界を広げ、ぜひとも組織の中に新しい風を起こしてほしい。


2004年社内誌コンペティション総評

社内誌を活かして実現したいことをしっかりと持っていますか。
コンセプトワークショップ代表/佐藤修

■ねらいをしっかり考えるのが企画の出発点
昨年も書きましたが、社内誌のパワーはとても大きいのです。しかし、編集者がそのことを認識し、効果的に取り組まないと、ただのフリーペーパーになってしまいます。それでは、社内誌のミッションは果たせません。
では社内誌編集者のミッションは何でしょうか。社内誌をつくることでしょうか。それは手段でしかありません。大切なのは「何のために」社内誌をつくるかです。
同じことは記事づくりにもいえます。いい記事を創るためには編集者の思いが大切です。読者にどんなメッセージを伝えたいのか、その記事を通してどんなことを実現したいのか、そうした編集者の思いは、読者には必ず伝わります。それがなければ単なる情報誌になってしまいます。会社にどういう変化を引き起こしたいのか、という企画のねらいがとても重要です。
そんなことを考えながら、48の社内誌を読ませてもらいました。同じテーマや題材でも、編集者の思い次第で、全く違ったものになることを実感しました。

■編集者の思いが実践を引き起こしていく
新入社員の紹介記事は社内誌の定番記事の一つですが、『新採奮闘記』(「ひびき」北九州市役所)には編集者の思いを強く感じました。ねらいは「新採職員から刺激を受ける」ことです。必ずしも成功しているわけではありませんが、職場に新しい風を吹き込む一助になったはずです。
『「営業力」とは何か?』(「月刊かもめ」リクルート)も編集者の思いが伝わってきます。「営業力」という言葉の根底にある多様な現実を見据えての取材と編集で、読者に営業ということの意味を考えさせようとしています。読者は、それぞれに考えるヒントを見つけたはずです。
『海外駐在員子女による誌上「絵画」展』(「MBK LIFE」三井物産)は、よくある海外事務所紹介を、子どもを主役にすることで一味違うものにして、事務所紹介を超えたコミュニケーション効果を実現しています。
感心したのは『イケてるバンド』(「ニッパツai」日本発条)です。小さな記事ですが、連載を通して、事業所間のバンドの交流が始まり、全社イベントが実現したそうです。
社内誌を活用して実現できることはたくさんあるのです。編集者が創っているのは、誌面ではなく、その向こうにある実体なのです。

■社内誌のパワーを活かして現実を変えていこう
昨年は、「もっと自由に大きな社会と同期してほしい」とメッセージさせてもらいました。題材や目線があまりに内向きで、大きな時代の流れに掉さしていると感じたからです。
『社会との絆』(「HUMAN ENERGY」中部電力)のような社員の社会活動を取り上げる記事が増えてきているのはうれしいことです。こうした記事を通して、社内に時代の風を取り込んでいく。これも、社内誌でなければできないことの一つです。
こうした記事には、編集者の世界の広さが影響を与えます。流行的に取り組んでも退屈な記事にしかなりません。社会との関わりを記事にしていくためには、編集者自らの世界を広げておかなくてはいけません。
情報環境はこの数年、激変しています。それに応じて社内誌もまた発想を大きく変えていく必要がありますが、読者を限定し、発行目的も明確な活字メディアの効用とパワーは、むしろ大きくなっていると思います。
社内誌でなければできないこと、社内誌であればこそできること。そういうことがたくさんあるはずです。しかし編集者の多くは、社内誌をつくることに精一杯で、記事の先のことを考えていないような気がしますが、それではいい社内誌にはなりませんし、第一、仕事が楽しくなりません。
社内誌のパワーを活かして、現実を変えていく。それが編集者のミッションであり、醍醐味です。みんながそんな姿勢で取り組めば、もっとワクワクするような社内誌が増えてくるはずです。
来年はもっとワクワクさせて下さい。楽しみにしています。

2005年社内誌コンペティション総評
社内誌の記事はコミュニケーションの成果でありプロローグです。
コンセプトワークショップ代表/佐藤修

■ボンディングとブリッジング
情報メディアが多様化する中で、社内誌の位置づけやスタイルは変化を求められています。社内誌にとっては、ますます面白い時代が開けつつあるように思います。
しかし、毎年、社内誌を読ませてもらっていて、そうした動きへの対応があまり感じられません。今回は、社内誌づくりを楽しんでいる人が増えてきていると感じましたが、それでも従来型の枠の中でしか楽しんでいないような気がしました。社会が大きく動いている中で、社内誌の世界はなぜか取り残されているような気がしてなりません。
今回、私は「コミュニケーション部門」を担当しましたが、組織におけるコミュニケーションには大きく分けて2種類あります。まずボンディング。これは組織内のつながりを深めていくことです。従業員の情報共有化や一体感の醸成が課題になります。もう一つはブリッジング。これは組織の外とのつながりを広げていくことです。ともすれば自閉化しがちな企業文化を社会に同期させていくことと従業員(経営者も含めて)の視野を広げ、組織の広がり(社会性)を高めていくことです。企業にとっては、このブリッジング活動がとても重要になってきています。最近話題のCSRは、ここに深くつながっています。

■社内誌の記事はコミュニケーション過程のひとつの節目
 コミュニケーションを考える場合、もう一つ大きな問題があります。情報伝達なのか情報創造なのか、です。多くの活字メディアは一方向的な情報伝達メディアですが、組織の中での社内誌は、さまざまな仕組みと連動させることで、双方向的で、継続的な情報創造がしやすい特性をもっています。これが、一般の雑誌とは全く違うところです。
 情報創造は新しい物語の始まりにつながります。社内誌の記事づくりは物語の準備過程であり、完成した記事はその成果であるとともに、新たな物語のプロローグなのです。そうした認識で記事がつくられているかどうかは誌面にしっかりと現れます。
 たとえば、ワーキングマザーを応援する「働くお母さんへの健康管理と仕事」(「One」)は、たった2頁の記事ですが、社員を巻き込んだ作成過程が伝わってくるばかりでなく、社内に新しい動きが始まることを予感させてくれます。もう少し発展させたら、時代の息吹を取り込んだブリッジング効果も果たせるでしょう。
「できることから始めよう」(「あいえす」)も社会の動きを意識しながら、読者に実際の行動を喚起し、組織全体の社会性を高めようという好企画です。小さな記事ですが、編集者の思いがどっさりと詰まっており、社内外とのコミュニケーションを広げ深めていく姿勢が感じられます。
 記事づくりは目的ではなく、手段なのです。そうしたことを強く意識すれば、できることがたくさんあることに気づくはずです。

■社内誌を活かしてやれることをもっと自由に考えましょう
「なんでも掲示板」(「BTトピックス))も面白かったです。現場の人から社長までが、そして社外の人までが自由に掲示板として投稿してきています。その自由さに感心しました。誌面をみんなに開放し、オープンプラットフォームにしてしまうことも、ネットの発展で十分可能になってきました。
「社内誌はみんなにとっての掲示板」という発想が浸透すれば、編集のスタイルも全く変わっていくでしょう。企画の段階にまで読者を巻き込むことで、最高のコミュニケーション効果が発揮できます。
 新しい社内誌のスタイルは残念ながらまだ見えてきませんでしたが、その予兆を感ずるいくつかの記事に出会えたのはうれしいことでした。
ところで、そう感じさせてくれた記事の多くが、2頁以内の小さな記事だったことも印象的です。誌面の背景に、あるいは誌面の先に、きっとさまざまなコミュニケーションの仕掛けがあるので誌面は2頁でもきっと十分だったのです。
 社内誌のすべてをモデルチェンジするのは難しいでしょうが、1〜2頁だったら、発想を自由に冒険ができるはずです。編集者のみなさん、もっと思いきった冒険を是非してみてください。1〜2頁でいいのです。
編集者ができることは本当にたくさんあるのです。もっと楽しんでください。