(1)新しい環境観に基づく日本型グローバル・コモンズの哲学の確立
環境とのつきあい方は、文化が持つ自然観に大きく影響される。現在の環境問題は、自
然を人間と切り離して捉える西洋思想に立脚する近代科学主義や工業化パラダイムと無縁
ではない。自然は、人間が管理し利用する対象であり、経済の視点から言えば、資源を獲
得し、廃棄物処理を委ねてきた「外部存在」だった。それに対して、東洋では、自然を人
間と一体で捉える。人間も「自然の内」であり、しかも自然は「山川草木国土悉皆成仏」
と言われるように、いのちを持った敬うべき対象だった。いずれの自然観をベースにして
環境問題を考えるかで、環境問題への対応は大きく変わってくる。
地球環境は地球に住むみんなのもの、という意味で、「グローバル・コモンズ」と言わ
れるが、大切なことは、そのコモンズ(みんなのもの)を人間にとっての「外部存在」と
見るか、人間もまたその一部と見るか、である。いま求められているのは、自然や環境を
人間と切り離された外部存在として捉えるのではなく、人間も含めた生態系として環境問
題を考えていく姿勢である。言い換えれば、循環する生態系の一員として自らも参加する
「共創存在」として環境を捉えていくことである。これは私たち日本人にとっては、馴染
みやすい考え方である。日本古来の自然観や環境哲学のなかにこそ、これからの環境問題
を解決するための大きな知恵が秘められているのではないだろうか。
日本の江戸時代が循環型社会だったことはよく引き合いにだされるし、日本の農業がゼ
ロエミッションの循環型構造だったことも事実である。規模の問題はあるものの、環境問
題解決のモデルとしての循環型社会や循環型産業構造を私たちは歴史の知恵として持って
いる。そうした知恵を、現在の最先端の科学技術や知恵と組み合わせながら改めて温故知
新していくのは、私たちの責務ではないかと思われる。
歴史の新しい地平を開くためにも、わが国産業界の知恵を結集して、日本発の環境哲学
や環境経営の理念を創出し、世界に発信していくべきである。
(2)日本型環境経営理念の開発と産業界としての共有化
新しい環境観に基づく日本型グローバル・コモンズの哲学は、これからの環境経営を考
えていく上で実践的な拠り所になる。
たとえば、この哲学のもとで、環境問題の地球規模におけるつながり構造が改めて認識
され、グローバルな視点からの日本の産業界の役割が見えてくるだろう。また、すべての
存在に価値がある、という哲学は、有価資源と廃棄物との分別発想を克服し、ゼロエミッ
ション指向の資源循環に取り組むことにつながっていく。おそらく環境と経済とのシナジ
ーを考える上での多くの示唆も含まれているはずである。さらに、日本企業のさまざまな
先駆的活動や伝統的な取り組みを、この哲学のもとに収集し体系化していくならば、そこ
から新しい知恵も生み出されるだろう。
日本型グローバル・コモンズの哲学を深め、さらにそれを日本型環境経営理念に具現化
していくために、環境問題に関心を持つ企業経営者を中心にした、知恵の結集の場が必要
である。自らの問題として環境にどう関わっていくか、環境と経済とのシナジーをどう実
現するか、こうしたことを体験も踏まえながら、業種業態を超えて議論することによって
、実践的な環境経営理念が見えてくるだろう。
大切なことは、その成果が産業界全体に共有化されていくことである。それも単に受け
身的に共有するのではなく、環境経営に対する共感が広がり、日本型環境経営理念の推進
に拍車がかかり、その成果がデファクト・スタンダードとして定着していくことが望まし
い。環境経営は個別対応するよりも産業界全体として取り組むほうが効果的なものが少な
くないから、日本の産業界全体としての環境経営水準の向上は大きな意味を持っている。
QC活動の広がりが日本企業の品質向上につながっていったことを想起すればいい。いい
意味での競い合いの仕組みや環境経営のベンチマーキングの仕組みをつくって、環境経営
理念の広がりを産業界として支援していくことも効果的だろう。
具体的には、日本型環境経営理念の進化と啓発をめざした、環境経営企業人会議や環境
経営サミットの開催、環境経営ベンチマーキングのためのデータベースづくり、環境経営
事例発表大会などが考えられるが、そうした活動を通して、社会に対して積極的に情報発
信していくことも必要である。