企業進化の起爆剤としての「女性活用」問題

○「女性活用」に込められた2つの意味
 企業を取り巻く環境は大きく変化してきているが、そこには2つの大きな変化が混在している。
一つは市場主義を基本においたグローバリゼーションが企業間の競争を激化させていることである。その視点からみれば、人的資源を効果的に活用することは企業にとっての急務である。とりわけ、男性中心に組み立てられてきた日本の企業にとっては、女性の活用(女性のエンパワーメント)は大きな課題といえる。
 もう一つは、経済の発展による社会の成熟化に対応して、企業のあり方が問われだしていることである。産業が主導する経済から生活が主導する経済に移りつつあるなかで、経済、そして企業を活性化していく上での女性の役割は大きくなってきている。
 これらは相互に絡み合っており、別々に捉えることはできない。しかし、前者は「労働力としての女性活用」という面が強いのに対して、後者は「人間としての女性活用」という面が強い。これまで男性中心で発展してきた企業社会に対して「異質な文化」を持ち込むのが、後者の女性像といえるかもしれない。家族や地域との生活をしっかりと背負ったままの女性たちが、企業の顧客としてではなく、働き手として参加してくることで、袋小路に入っている感のある企業を次のステージに進化させていく可能性がある。それには、現状の企業の枠に女性たちを合わせるのではなく、女性たちの発想を活かして、企業の枠組み(企業文化や事業戦略)を見直していく姿勢が必要である。
 企業はこうした2つの展望を踏まえて「女性活用」を考えていくことが望ましい。単に、現在の企業の枠組みに合わせて女性を活用していくのであれば、1980年代に流行した女性活性化の二の舞になるおそれがある。

○当面の課題としての女性のエンパワーメント
 企業競争を支える「戦力」として、現状では十分に活かされていない女性たちのエンパワーがここでの課題である。量としての労働力の問題だけではなく、女性を登用することでこれまで以上の成果をあげられることは多い。これに関しては本報告書で詳しく書かれているので、ここでは「女性活用」という言葉についてだけ述べておきたい。
 「女性活用」という言葉には、労働力として女性を見ているニュアンスが強く、さらに女性の視点でというよりも、企業の都合が優先して感じられる。女性たち自身が、能力を思い切り発揮したい姿勢にならないと目的は十分には達せられないとしたら、この表現は一考を要するように思われる。言葉には、それを使う企業の文化や経営方針が象徴されている。「女性活用」という表現から伝わってくる女性観は、当の女性たちや顧客、あるいは社会にどのようなイメージを与えるだろうか。「高齢者のため」を銘打った商品は高齢者に好まれないと言われるが、それと同じようなことも懸念される。男性はどう受け取るだろうか、ということも気になる。
 大切なのは「女性活用」ではなく、「女性活用」が問題になるような状況の改善である。「女性活用」と問題設定してしまうと問題の本質が見失われかねない。もちろん「女性活用」という表現が悪いわけではなく、その表現が意味することも重要だが、そうした言葉の受け取られ方も考えておく必要がある。
 エンパワーしたいのは、女性だけではなく、全社員である。女性が生き生きと活躍できるようになることが、だれでも生き生きと活躍できることにつながるという意味で女性の活用に取り組んでいるとしたら、そこを社員にしっかりと理解してもらうことが大切であり、推進側としてもそのことをしっかり認識しておく必要がある。あまりに「女性」だけに目が行き過ぎると、逆効果になる恐れも否定できない。

○企業のあり方を見直す契機としての女性の活躍の場の創出
 価値観が多様化した成熟社会に対応していくためには、企業も多様な発想を包摂させていく必要がある。「環境の中で個体が生き抜くためには、環境の多様度と同様の多様度を個体の中に持たなければならない」という、生物界におけるアシュビーの最小多様度の法則は、社会システムにも当てはまる。特に環境変化が大きい時代の変わり目には、内部にどれだけ多くの異質性を持っているかが、組織の存続や発展に影響を与えていく。
 男性中心で、しかも「金銭的利益」という強い価値基準で成り立っている企業は、右肩上がりの時代はよかったが、昨年来の金融不安に発した経済環境の変化に振り回されているように、予見能力も含めて、変化への柔軟な適応力は強いとはいいがたい。
 社会の変化に柔軟に対応し、新しい事業機会を活かし、効果的な事業戦略を展開していくためには、社会の動きを的確に把握していかねばならないが、多様な価値観を共有できる要素が社内にあるかないかが、その重要な決め手になる。自らに意識がない事柄は、接していても見過ごしてしまい、せっかくの事業機会も活かせないことにもなりかねない。
 生活感のある女性の多様な感性と発想、そして能力は、男性中心で発展してきた企業にとっては新鮮な意味をもっており、企業の現状をブレークスルーする契機を生み出す力が期待できる。少なくとも、社会変化への感度を高めることは間違いない。そういう視点から、女性をエンパワーし、その活躍の場を育てていくことが重要である。現在の枠組みの中で女性の活用策を整備していくことは大切だが、短視眼の女性活用が、逆に女性の特質の発揮を阻害してしまうことにならないように注意しなければならない。
 そう考えると、女性の活用と並行して、女性が活用できるように企業を変えていくことを考える必要もある。「女性」を目的語ではなく主語で考えると、女性活用は新しい展望を開いてくれるように思われる。

潟Rンセプトワークショップ代表 佐藤修
2009年2月