■『中村哲さん講演録 平和の井戸を掘る』  
(発行・ピースウォーク京都  700円)

推薦・ライター石本君代(CWSコモンズ村の元気村民です)

 本を手に取った瞬間に、これは良い本だと直感的に感じた経験は、どなたにもあるでしょう。 装丁や紙質がどうこうとは別の次元で、書き手や作り手の思いが、なぜか、根拠なく、濃厚に伝わってくる時です。怪しげな言葉を使うなら、人相ならぬ「本相」が良い。『中村哲さん講演録・平和の井戸を掘る』の第一印象は、「本相が良いなあ」でした。

 テロ報復戦争が始まりかけていた頃、京都で報復反対のピースウォークを行っていた見知らぬ人間同士が友人になり、「いっそ会を作ろう」となって、ピースウォーク京都が生まれます。「いっそ中村哲さんに講演してもらおう」と話は発展し、中村哲氏は多忙中にも関わらず快諾し、当日は2000人もの人が集まりした。

 あまりに素晴らしい講演だったので「いっそ本にして自費出版しよう」と盛りあがり、本の収益金はペシャワール会に全額寄付されることが自動的に了解され、ピースウォーク京都のメンバーによる丁寧な編集作業を経た後に、この本が今ここにあります。愛すべき勇み足と、その貫徹ぶり。こういう出自の本が、悪かろうはずがありません。

 講演の内容は、主にペシャワール会の活動と、中村氏が見てきたアフガニスタンの政治情勢や文化。メディアが報道するアフガニスタン像とは、随分違います。中村氏が時折見せるユーモアのセンスも素晴らしい。「ペシャワール会のスタッフには元アフガン・ゲリラもいて、彼らはどこからともなく地雷を手に入れてきて、井戸掘りの時に硬い岩盤を爆破させます。我々は地雷の平和利用という、画期的なことをやってます」ってか? 笑い転げましたが、元気が出ますなあ。こういう一節を読むと。

 アフガン問題における中村氏の主張は、鶴見和子氏が水俣問題を通じて訴えてきた内発的発展と同じです。地域に根づいた発展のコンセプトをもたず、やみくもに近代化を取り入れると、社会が壊れ、文化が壊れ、自然が壊れ、最後に人間関係が壊れる。ブルカが女性差別だと批判するのは簡単ですが、ブルカを脱いだ時、彼女たちがどんな人間関係の中に身を置くのかまでは、我々は想像できません。

 内なる必然性として彼女たちがブルカを脱ぐ日まで、あの姿に価値判断を下すべきではないと、私は反省しました。ブルカが何物であったのかは、アフガン女性たち自身が決めることですね。

 中村氏は石風社から素晴らしい本を何冊も上梓していますが、この本はまた違った魅力のある本。市販されていませんので、入手希望の方は下記までお問い合わせください。

『中村哲さん講演録 平和の井戸を掘る』
問い合わせ先:e-mail: pwkyoto@mbj.nifty.com
本の購入についての詳細: http://www1.odn.ne.jp/~ceq25780/pw.htm
(表紙画像見られます。購入の方法、購入可能な場所などの情報あり)

いうまでもありませんが、私も読ませていただきました。私からもお勧めです。