■介護の「市場化」から「社会化」への期待
「全国保険者調査から見えてきたケアプラン事故作成の意義と課題」への寄稿文

このプロジェクトに参加して、改めて「介護の社会化」について考える機会をいただきました。しかし、調査結果から見えてきたのは、「社会化」というよりも「市場化」といったほうがいい実態でした。
関係当事者たちが支え合うのではなく、むしろ利害を対立させて綱引きしている構図です。しかも経済性や効率性を基準にした「介護サービス」という事業発想が色濃く感じられます。そこには、表情ある人と人とのつながりを感じさせる「ケアリング」の発想があまり感じられません。関係当事者相互の信頼関係も希薄なように感じました。

少子高齢化のなかで、家族だけでは解決が難しくなってきた介護問題、しかもその負担が女性に覆いかぶさるという状況を打破するものとして、「介護の社会化」を目指す介護保険制度の導入には大きな期待がありました。しかし、介護保険制度は果たして「介護の社会化」を進めてきたでしょうか。介護を必要としている人たちは、介護保険制度で守られてきているでしょうか。必ずしもそうとはいえないように思います。むしろ、介護の行為が「専門家」の「仕事」になってしまったために、近隣社会や血縁社会から、お互いに支え合う関係が消えてしまったという声さえ聞こえてきます。

そもそも社会化とはなんでしょうか。社会は人のつながりによって支えられています。家庭も地域社会も「社会」です。昔はそうした社会で、子育ても高齢者介護も障害支援も行われていました。つまり福祉とか介護はもともと社会的に行われていたのです。それが人間という種が他の生物を押しのけてまで大きな存在になってきた理由ではないかという人もいます。そこにあるのは、お互いに支え合う人と人のつながり、ケアリングの文化です。
ところが、最近の日本はそれを壊してきました。「社会」を壊しながら、解決できなくなった個別問題に対処する制度をつくり、そこにビジネスを発生させる。そうして「市場」は大きくなり、経済は発展してきました。その結果、社会は豊かになってきましたが、そうしたなかで失ってきたものも少なくありません。
最近、老老介護の厳しい現実がよく話題になりますが、その基本にあるのは、家族や血縁社会、地域社会などといった、人のつながりを軸にした社会の崩壊です。その問題に目を向けることが大切です。介護の社会化を目指すのであれば、介護保険制度もそうした視点をもつことが必要です。それは、「市場化」とは全く別のものになるはずです。

社会化とは外部の人にサービスをしてもらうことではないはずです。もちろんお金で解決することでもありません。何よりも介護を必要としている表情のある個人を中心にして、家族と専門家、地域社会の人たちや行政や事業者が、お互いの信頼関係のうえに、みんなが気持ちよく支え合えるつながりを育てていくことだろうと思います。そのためにこそ、介護に関わる制度は存在してほしいものです。
ケアプランを自分で、あるいは家族と一緒に考えていくということは、生活の視点から考えれば当然のことです。その当然のことが、「介護保険制度」によって、もしやりにくくなっているとしたら、それこそ問題です。
ケアプランの自己作成は、制度に縛られて無機質な「業務」になってしまいがちな介護を、再び「生活」へと引き戻す契機になるのではないかと思います。そこでは、利用者やその家族は「サービスの顧客」ではありません。ケアマネージャーとサービス提供者、さらには保険者と一緒になって、自らの生活を豊かにしていくための主役です。当然そこには責任も発生しますが、同時に主役としての喜びや誇りは得られるでしょう。
市場化された介護関係をつなぐものは「金銭」ですが、社会化された介護関係をつなぐものは喜びと誇り、あるいはケアリングの発想です。それぞれの専門性が、当事者たちの生活という視点から効果的に組み合わさっていくことができれば、関係者たちも喜びと誇りをもてるはずです。そうしたなかで、関係者相互の信頼関係が育っていくことで、無駄な摩擦や作業はなくなっていくでしょう。さらには、「介護」問題を解決するだけではなく、それを通して新しい価値を育てていくこともできるはずです。ケアプランの自己作成は、介護保険制度にケアリングの魂を埋め込む可能性を持っているように思います。

 ケアプランの自己作成を広げていくことこそ、介護の世界に再び「表情とつながり」を回復させ、介護の社会化を促進していく大きな契機になるのではないか、そしてお互いに支え合う文化を社会に広げていく風を起こしていくのではないか。
今回のプロジェクトの調査結果をみながら、改めてそんなことを思いました。

2010年3月1日
コミュニティケア活動支援センター事務局長:佐藤修

介護の市場化から社会化へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20091127/CWS佐藤修